思想 11月19日 イギリス毒舌日記
大人の空手のクラスに数年前から急に来た50代後半か60代前半の女性がいる。
身体はかなり締まっていて、ずっと身体を鍛えてきた人なのだと分かる。
先日、その人がイスラエルに戻ると言った。
私は知らなかったが、40代までイスラエル軍に所属していた人らしく、まあまあ上の役職だったらしい。
今の状況を受け、再びイスラエル軍に戻ってハマスと戦わねばならないと言った。
びっくりした。
そこにいた生徒が、「それに伴い、ハマスではない市民が大量に殺されても平気なのか?」と聞いた。
「始めたのはハマスだ」と答えた女性。
彼女は来週、イスラエル軍に入る為にイスラエルに行く。
思想、それが怖いとつくづく感じた。
思想を理解し合う、譲り合うなど無理だと女性の訴える顔を見て思った。
また再びユダヤ人が迫害されない為に戦うのだと言った。
生きて帰れないかもしれないと言い残し、ひとまずイギリスを去った。
ガザに関して解決とは、どんな着地点が解決なのか…
聞いたとて、彼女の意見は彼女の思想による意見、そういう考え方もあるのねとはならないが、とにかく彼女はあの年齢で最前線に入るために願いを出したと言うのだから。
このブログ主はイギリス人の男性と結婚して、小学生と中学生の子供を育てながら、イギリスで生活している方です。
非常に賢い方で、子供を育てながら近所の量販店の売り子のパートをしていると言う事で、一般のイギリス人の生活に密着しながら、イギリスの生活について非常に深い洞察にとんだ記事を書かれるので、ワタシは前々から愛読していました。
この空手教室と言うは、息子さんが通っている教室なのですが、子供のクラスだけでなく大人のクラスもあります。
で、その大人のクラスの方が、実はイスラエル軍の軍人だった人で、今回のガザ攻撃の為に帰国して戦うと言うのです。
実はガザ攻撃の直前、イスラエル政府は30万人の予備役を招集しました。 ところが招集完了前に予備役部隊の人員の充足率が100%を遥かに超えてしまったと言うニュースを聴いて驚きました。
つまりイスラエルが政府がガザ攻撃の為に徴兵礼を出した人が直ぐに集まっただけでなく、徴兵礼の対象でなくても志願した人が多数いたのです。
予備役は兵役経験はあるけれど、普通に働いて社会生活をしている人達です。 イスラエルの場合、専門職などとして国外で働いている人も多いようです。
だから帰国して兵役に就くのは色々大変でしょう。
またイスラエルの他に、もう一つ別な国の国籍を持っている二重国籍の人も多数いると言われます。
ところがそういう人達も、続々と帰国して、兵役に志願していると言うのです。
で、イギリス毒舌日記さんの所に出てくる空手教室の女性もそうした一人でしょう。
40~60と思える年齢と言う事は、徴兵されたとは思えません。
しかしそれでも帰国して兵役に就くと言うのです。
これはイスラエル人の戦意の高さと共に「また再びユダヤ人が迫害されない為」から見えるように危機感の強さを感じさせます。
実際、現在イスラエル人が危機感を募らせるのはわかります。
欧米ではこの事件を契機に、極めて古典的と言うか中世的な反ユダヤ主義が復活しつつあるようです。
ヨーロッパではユダヤ人迫害は中世から続いていました。
元々はキリスト教徒にとって異教徒である事から始まった迫害ですが、しかし近代になってキリスト教の影響が薄れ、近代合理主義の時代になっても収まりませんでした。
挙句にナチスドイツによる大虐殺です。
しかも無残なのは、この大虐殺が行われいる間、ナチスドイツの虐殺から逃れようと必死で逃げるユダヤ人を受けてくれる国が殆どなかった事です。
それどころかナチスドイツに便乗して虐殺を手伝った国も沢山ありました。 ナチスドイツのユダヤ人虐殺の被害者数は随分と曖昧で、資料により数字が100万単位でばらつくのですが、これはどうやら東欧諸国がナチスドイツに便乗して大量虐殺をしたからのようです。 そして戦後それらの国々が自国の責任を誤魔化してドイツに押し付けたりしたのが原因のようです。
一方、イギリスやアメリカなど連合国側は、虐殺の手伝いこそしなくても、難民の救援には非常に消極的でした。
例えば、パレスチナは当時、イギリスの信託委任統治地であり、バルフォア宣言ではイギリスはパレスチナにユダヤ人が居住する事を認めていました。 因みにこの時期はフサイン=マクマフォン協定のアラブ側代表フサインも、この地がイギリスの信託委任統治になる事には反対していませんし、ユダヤ人の居住も認めています。
しかしナチスドイツから迫害でパレスチナに逃げてくるユダヤ人が増えると、イギリスはユダヤ人の流入を阻止しました。 ユダヤ人難民が増えるにつれてパレスチナ在住のアラブ人とのトラブルが増えた為です。お
で、難民を満載した船の入港を拒否して、その難民船を追い回した挙句、最後にその船が沈没すると言う悲劇まで起きています。
現在の難民保護の為の条約や協定は、この第二次大戦中のユダヤ人の悲劇を反省して作られた物です。
またユダヤ人差別は絶対タブーとなりました。
しかしユダヤ人としてはもう二度とこんな目に遭いたくない!!、その為には自分達の国が絶対必要だと言う事になったのです。
しかし現在の欧米を見ていると、第二次大戦前のユダヤ人迫害の悪夢が蘇りつつあるのでは?と思ってしまいます。
欧米諸国にイスラム系移民が増え、そのイスラム系移民が「弱者」の地位を確保したため、彼等への批判がタブーになっています。
その為、イスラム原理主義者のテロもテロの扇動も批判しないし、少女への強姦や売春強要でも相手がイスラム教徒だと警察も摘発しないと言う状況が続いていました。
で、このイスラム移民達がこのハマスのテロに舞い上がり、絶賛した挙句に、反ユダヤ主義を扇動しているのです。
そうするとこれまで欧米の中で抑制されてきた反ユダヤ主義が、イスラム教徒に便乗して、復活しつつあるようです。
この状況では欧米在住のユダヤ人の恐怖は図り知れません。
そしてこのまま欧米で反ユダヤ主義が復活した場合、彼等が逃げ込める所はイスラエルしかありません。
国外在住のイスラエル人達が、帰国し軍隊に志願していると言われますが、こうした状況を考えるとむしろイスラエル国外に暮らすイスラエル人の方が、本国の人達よりむしろ敏感にこの危機感と恐怖を感じているのではないでしょうか?
ここで紹介したブログ記事の女性も、帰国して兵役に就くと言ったら、特に親しかったわけでもないイギリス人から「それに伴い、ハマスではない市民が大量に殺されても平気なのか?」と言われたりするのです。
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イギリスは911の後、アメリカが行ったアフガン攻撃に参戦し、その後も長々とアフガニスタンでの戦争に参加し続けていました。 この戦争に王子様まで送っています。
アメリカは、911の首謀者オサマ・ビン・ラディンがアフガニスタンに逃げ込み、それをアフガニスタンのタリバン政権が庇い続けて、アメリカへの引き渡しを拒否したために、アフガニスタンを攻撃したのです。
このアメリカのアフガニスタン攻撃と現在のイスラエルのガザ攻撃は、どちらも同じくテロ被害国がテロリストと戦う、その為にテロリスト達の立て籠る地域を攻撃すると言う話です。
因みにイギリスのアフガニスタン攻撃参戦は、アメリカの御機嫌取りです。
そのイギリス人がイスラエル軍に志願すると言う女性を「それに伴い、ハマスではない市民が大量に殺されても平気なのか?」と言うのは、イスラエル人から見れば「反ユダヤ主義からの悪意?」とも取れてしまいます。
そしてこのように言われたら、切実な危機感と恐怖を感じるでしょう?
イギリスは民主主義国家です。
そしてイギリス自身もこれまで何度もイスラム原理主義テロリストの被害に遭っています。
それでも結局、イギリス人はイスラエルの立場を理解してくれない。
これはイギリス在住のイスラエル人にとっては絶望的な話です。
そしてイギリスに絶望したら、猶更イスラエルと言う国を守るしかないと思うでしょう。
結局、ユダヤ人が迫害される事がないように守ってくれる国はイスラエルしかないのですから。
塩野七生氏が著書の一つで書いていました。
中世、ユダヤ人が憎まれた理由の一つが、戦争参加の拒否だったと。
中世ヨーロッパでは、都市国家が戦争になって、街ごと市の城壁の中に立て籠って戦うと言う事が再々ありました。 都市が陥落したら、街中が略奪や虐殺に晒されるので、街中の人は女子供まで必死になって防戦するのです。
ところがこのような場合でも「神の命令にしか従えない」と言う理由でユダヤ人は参戦を拒否するのです。 そしてユダヤ人だけで敵と和平条約を結んだりしてしまう事もありました。
これでは街中の人がユダヤ人を憎むのもわかります。
しかし時代は進み、宗教の力が衰えるにつれてこれはなくなりました。 ヨーロッパ諸国に徴兵制が敷かれるようになるとユダヤ人も普通に徴兵されるし、そもそも宗教よりも国家の意識が強くなり、ユダヤ人の愛国者も増えて行ったのです。
例えばアンモニア・ソーダ法を発明したフリッツ・フーバーは、ユダヤ人ですがしかしドイツで国民的に認められた愛国者でした。
第一次世界大戦中、アンモニア・ソーダ法の発明のお陰で、ドイツ軍は無限に爆薬の原料である硝石を作る事ができました。 彼はまたドイツ軍の為に毒ガスも製造したのです。
けれどもヒトラーが政権を取ると、彼はドイツを追われました。
マックス・プランク等、ドイツの偉大な科学者達が揃ってフーバーがいかにドイツを愛し貢献してかをヒトラーに説いたのです、ヒトラーは彼をドイツから追放しました。
一方、第二次大戦が始まるとアメリカではユダヤ人達が、続々と米軍に志願しました。 第二次大戦当時、米軍に入隊したユダヤ人の数は、20歳から50歳までの在米ユダヤ系男性の半数と言われます。
これはホントにすごいです。 だって30過ぎ、40過ぎならメタボなど絶対兵役検査に合格しない人の方が多いでしょう?
だから特技や資格等があって、多少なりとも軍隊で働けそうな人は全部、志願し、入隊したと言う事でしょう。
ここまでアメリカユダヤ系の戦意が上がったのは、勿論相手がナチスドイツだったからでしょう。
実はアメリカだって戦前は結構反ユダヤ主義も強く、ユダヤ人差別も酷かったのですが、しかしそれでもアメリカを守らないと、今現在、自分達が持っている自由も財産も生命も喪ってしまうのです。
そして第二次大戦中、ユダヤ人が大量に志願し、大量に戦死したことで、アメリカでのユダヤ人の地位が向上しました。
ユダヤ人は長く国を持たない民族でした。
それはユダヤ人が国家よりも宗教を優先しきたからです。 旧約聖書の時代から、ユダヤ教内の宗派対立で国家が分裂破綻する事を再々やっています。
しかし近代国民国家ができて、ユダヤ人も国家の力を認識せざるを得なくなりました。
国家による大虐殺を被った事で、自分達を守る為にはやはり国家が必要だと考えたのです。
それで現在のイスラエルがあるのですが、しかしそれが現在、宗教に生きる人々からの攻撃にさらされているのです。
それにしてもこうした状況で何としても自分達の国を守りたいと言うイスラエル人女性の「思想」が怖いと言うのは、どういう事でしょうか?
これは結局、日本人もまた一般のイギリス人も、イスラエルの置かれた状況には思い至らないと言う事ではないでしょうか?
因みワタシはハマスの思想の方がよほど怖いと思います。
ハマスはイスラム原理主義からイスラエルの殲滅を目的しており、パレスチナ人にいくら犠牲が出てイスラエルと話し合うとか共存するとかそういう事は一切考えていないのです。
イスラエルを非難する人達はこれを理解しているのでしょうか?