特にエジプト人が猛烈反発をしています。
悪評の理由は簡単です。
このドラマはクレオパトラもまた他のエジプト人も皆黒人が演じているのです。
しかもそれを端なる「ドラマ」としてではなく、「ドキュメンタリー」として放映したのです。
これではエジプト人が怒り心頭なのも当然でしょう?
だって自分達の歴史を歪曲・捏造されたのですから。
古代エジプトについて絵画や彫刻、そしてミイラなどの人種を知る資料は多数残されているのですが、しかしそれらを見る限り、古代エジプト人が黒人だったという証拠は一切ありません。
古代エジプト人は現在エジプト人と同様、中東諸国と同じアラブ系です。
クレオパトラの時代、同時代のギリシャ人やローマ人が、黒人の国と認識していたのは、エチオピア、スーダン、ヌビアなどです。 これらの国々を黒人の国と記述した資料は多数残っています。
しかしエジプトを黒人の国とした史書はないようです。
そしてクレオパトラはギリシャ系の白人です。
アレキサンドロス大王の制服戦争により成立した大帝国は、王の死後分裂し、それぞれ王の家臣達が支配する王国になりました。
エジプトはその家臣の一人プトレマイオスによって支配されるようになったのです。
クレオパトラはこの王朝の女王なので、血統から言えばギリシャ系の白人なのです。 今ベルリンに残っている彼女に石像を見ても、完全にギリシャ人です。
歴史的美女と言う事で、これまでも多数の研究がされてきたのですが、しかし彼女が黒人だったという記述はありません。
クレオパトラ個人について残されている資料を見る限り、彼女はいかにもギリシャ系らしく、プラトンやアリストテレスなどのギリシャ哲学の教養が深く、語学に長けていて、当時彼女の周りで使われていた言語を全て流暢に話したという事ぐらいです。
彼女がホントに絶世の美女だったかどうかは微妙です。
そもそもユリウス・カエサルって大の女好きで、膳を据えられたら、必ず食うタイプだからです。
塩野七生の「ローマ人の物語」でも、クレオパトラとカエサルのロマンスは描かれているのですが、塩野さんは彼女の事は殆ど糞みそに描いています。
塩野さんによればカエサルの対エジプト政策は、クレオパトラの色香に迷ってなどと言う事は全くなくて、クレオパトラの据え膳効果など全くなかったのです。 しかしクレオパトラの方は、全くにカエサルの真意を理解できず、勝手に自分が愛されていると誤解して暴走して自滅したと言うのです。
塩野さんは毎度毎度、美男には甘いのですが、しかし美女となるといつも身も蓋もない塩対応です。 これは塩野さんが女性だからでしょう。
それにユリウス・カエサルは塩野さんの歴史上の恋人なので、クレオパトラ如きに誘惑されるのは許せないのでしょうね。
塩野さんの女の嫉妬は別にしても、プトレマイオス朝のエジプトはクレオパトラの迷走によって滅亡するのですから、国家の指導者としてはぼろ糞に描かれても仕方ないです。
クレオパトラはローマと言う国家の政体を理解できなかったのです。 だから当時のユリウス・カエサルが置かれた立場も理解できなかったのでしょう。
プラトンやアリストテレスなどギリシャ哲学を学んでいたなら、民主制と民主制における政治家の立場もわかりそうなのものなのに。
クレオパトラの事を書いていたら、そのままドンドンユリウス・カエサルと古代ローマの事を書きそうになるのでここでやめます。
とにかくクレオパトラが黒人と言う話はどこにないのです。
しかし黒人でクレオパトラで思い出したのがオマー・シャリフです。
この人はエジプト人なのですが、1962年に「アラビアのロレンス」でベトウィンの族長役をしたのを皮切りに、ヨーロッパやアメリカの映画で活躍するようになりました。
一番の当たり役は1965年の「ドクトル・ジバゴ」のジバゴ役ですが、これはロシア革命を舞台にした映画でドクトル・ジバゴはロシア人です。
そしてその後、欧米の映画では全て普通に白人の役を演じています。
「うたかたの恋」ではオーストリア皇太子ルドルフ役、「アナスタシア」ではロシア皇帝ニコライ二世役を演じています。
オーストリア皇太子ルドルフもロシア皇帝ニコライ二世も、数百年血統を確認できるわけで、普通の白人と言うより血統書付き純血白人と言うべき役どころです。
彼は2015年に83歳で死去したのですが、しかし彼のデビュー当時はまだ公民権運動も始まっていないし、その後彼が現役で活躍した時代には、露骨な人種差別がある時代でした。
そして元々、当時独立間もないエジプトもエジプト人も欧米諸国からは一段下に見られていました。
そういう時代にエジプト人がヨーロッパの大国の皇太子や皇帝役を普通にできたのです。
「うたかたの恋」はワタシも見ました。
皇太子役のオマー・シャリフの美男ぶりには惚れ惚れとするのですが、相手役のカトリーヌ・ドヌーブの美貌も素晴らしいです。
美男・美女、美しい衣装、美しい背景、ロマンチックなストーリーと、恋愛映画の王道を極める映画でした。
因みに「うたかたの恋」は現実にあった事件を映画化した物で、皇太子ルドルフは男爵令嬢と身分違いの恋をして、最後は二人で心中するのです。
そしてこの事件はオーストリア・ハンガリー帝国に大きな打撃となり、その滅亡を早めたと言われます。
しかし役柄に合って美男で、演技が上手ければ、出身国なんか無問題。
この映画で観客はオマー・シャリフに心を奪われたので、彼はその後も欧米の映画界で活躍し続けるのです。
こういうの思い出すと、なんか昔の方がよほどマトモだったような気がしてきました。
と言うか今のポリコレがどこまで異常かを思い知らされた気がします。
それにしてもネットフェリックスは何でこんな変事をするのでしょうか?
黒人クレオパトラのプロデューサーは「黒人の女王を描きたかった。」と言っています。
だったら本物の黒人王国を描いたドラマやドキュメンタリーを作れば良いではありませんか?
黒人王国は歴史上多数存在しました。
前述の古代エチオピアや古代スーダン、ヌビアなどの古代から、近世のマリ王国やガーナ王国、そして現在もなをレソト王国やエスワティニ王国が残っています。
これらの王国は皆それぞれ独自の文化を持っていたのです。
そして歴史に残る、女王や王女も存在したのです。
しかしそれを完全に無視して、エジプト文明が黒人の物であったように捏造するって、エジプト人もそして黒人も否定する事です。
結局、黒人には黒人の文化あったとか、黒人には黒人の文明があったとか言う事を認めていないからこんなことをするのです。
黒人の文化や文明を認めないから、有名な文明を横取りして誤魔化そうとするのでしょう?
これって正に悪質な歴史修正主義であり、そして黒人の自己否定ではありませんか?