無線もスマホも暗号化など一切しいないので、ウクライナ側は傍受し放題であるばかりか、無線は世界中のアマチュア無線家が傍受しているというのです。
お陰でロシア軍の情報はダダ洩れです。
ウクライナに侵攻したロシア軍では既に将官が5人も戦死しているのですが、これも将官の居場所など重要情報がダダ洩れになっているからだと言われます。
ホントでしょうか?
しかしこれで思い出したのがソルジェニツィンの「1914年8月」です。
この小説の中でソルジェニツィンはタンネンベルグの戦いをロシア側から克明に描いています。
ここでロシア軍がロシア軍内の通信に無線を用いた事、しかし暗号化もせずに何でもドンドン無線で報告し合ってしまうという話が出てきます。
それで無線を傍受していたドイツ軍にはロシア軍の情報が大量に集まります。 余りに大量に得られる情報に最初ドイツ軍は戸惑ってしまい、これは何かの「罠」ではないかとさへ思いました。
しかし傍受した情報の内容を分析した結果、「ロシア軍には大軍を組織的に運用する能力はない」と結論するのです。
実際、タンネンベルグの戦いはロシア軍は大軍を派遣しながら、ロシア軍内で有効な連携もとれずドイツ軍に翻弄される形で壊滅してしまいました。
ソルジェニツィンはこのようなロシア軍の状況をこの戦い参戦した若く優秀なロシア軍参謀とその従卒の若いロシア軍兵士の眼を通して克明に描いています。
結局彼等は軍全体の戦況を把握する事もできないまま戦場を彷徨い、撤退していくことになるのです。
因みに軍隊が無線を使うようになったのは日露戦争のころからでした。 その当時ロシア海軍では無線通信士は軍人ではなく、民間人の身分のまま海軍の艦艇に乗るっていました。
日本海軍では勿論通信士も軍人でしたから、その当時からロシアは少し遅れていたのでしょう。
しかし第一世界大戦のころには無線の使用も、また無線の傍受も当然となっていました。 それなのに前線での通信を暗号化もしないのは、ドイツ軍からみたら全く信じられないよう話でした。
でもまさか今もそのままだなんて・・・・・。
因みにウクライナでの戦いに無線を使う、暗号化しないって、タンネンベルグの戦いより不味いです。
だってあの時代はまだアマチュア無線なんて趣味はありません。 だから民間人が暇つぶしにロシア軍の通信を傍受するなんてありえなかったのです。
もっと不味いのはウクライナ軍の兵士は全部ロシア語が分かる事です。
だから傍受したら誰でもそのままわかっちゃうわけで、翻訳も何もいらないのです。
これじゃ情報ダダ洩れなんてレベルじゃないです。
何でウクライナ軍の兵士が皆ロシア語が分かるかと言えば、ソ連時代にロシア語を強制されていた事もありますが、そもそもウクライナ語とロシア語って非常に近い言葉なのです。
ウクライナ語とロシア語だけでなく、ポーランド語やセルビア語など、スラブ諸国の言葉って非常に似通っているのです。
ロシアによればロシア建国は988年、キエフ大公国の大公ウラジミール一世が自らビザンチン正教の洗礼を受けて、ビザンチン正教をキエフ大公国の国教にしたことから始まります。
しかしこの頃、ポーランドやセルビアなど他のスラブ諸国も一斉にビザンチン正教化しました。
これはビザンチン正教の聖職者だった二人の兄弟キュリロスとメトディオスが熱心に宣教した結果です。 彼等はスラブ人への宣教に当たり、ギリシャ文字を元にスラブ語を記述する為の文字を作り、聖書をスラブ語に翻訳しました。
この時作られた文字がキリル文字で、ウクライナやロシアやセルビアなど現在も「正教」の国々で使われています。
一方ポーランドはその後正教を捨ててカソリックに改宗したので、ラテン文字を使うようになりました。
またこの時の聖書の翻訳に使われたスラブ語は「古代スラブ語」あるいは「教会スラブ語」と言われて、現在もスラブ諸国の教会用語として使われています。
つまり10世紀末までこれらの国の言葉はほぼ同じだったし、古語は今も同じなのです。
10世紀末って日本なら平安時代です。 この頃まで同じ言葉だったのですから、その後時代や地域により変化したと言ってもその差は限られているでしょう。
だからこそソ連時代にウクライナ語禁止とかでいるんですよね?
全く違う言葉なら、それを強制するなんて不可能です。
例えば日韓併合時代に日本が朝鮮人から言葉を奪ったなんて嘘話がありました。 あれが嘘だという事は少し考えたら直ぐわかります。
だって日本語と朝鮮語では全然違うのですから、朝鮮人に朝鮮語を禁止して、日本語を強制する為には、朝鮮人全員、高齢者でも知的障碍者でも関係なく朝鮮人全員に日本語を猛勉強してもらう必要があります。
そんなことできるわけないでしょう?
でもロシア語とウクライナ語が非常に似通った言葉なら、そんな問題はないでしょう?
因みに「1914年8月」にはウクライナ地主の一家の日々も描かれています。 その地主一家の娘は実はソルジェニツィンの母親をモデルにしていると言われます。
ワタシが「1914年8月」を読んだのはソ連崩壊の前後だったと思います。 その時にこの小説を読んでいてウクライナ人とロシア人が違う言語を持つ違う民族だと全く想像できませんでした。
だからソ連崩壊後ウクライナが独立し、その時にウクライナとロシアは民族が違うという話を聞いた時は非常に驚きました。
勿論当のソルジェニツィンは大変なショックだったようです。
彼は熱烈なロシアの愛国者でしたから。
ともあれ今回の戦争でのロシア軍の為体を見ていると、まんま「1914年8月」から全然変わっていないんじゃないかと思ってしまいます。
強大なロシア軍は数は多いし、兵器だって随分と立派な物を揃えているのですが、その組織として運用がなってないのです。
百年前と同じ問題を抱えたままと言うのは、これはもうロシアと言う国の宿痾と言うべきなのでしょうか?
帝政が倒れ、共産主義が破綻し、今はプーチンの独裁体制ですが、こうやって色々体制が変わりながら、結局こういう問題は全く変わらず引き継がれるとすれば、それがロシアと言う国のアイデンティティなのかとさへ思ってしまいます。
これじゃ侵略戦争なんかしたって負けるだけです。
実際歴史を学べばロシア軍の方から遠征して勝った事って殆どないのです。
プーチンはやらなくてよい戦争をやったお陰でロシア軍の弱さを世界中に晒してしまいました。
プーチンってすごい国家主義者で、ロシアと言う国の偉大さとかに凄く執着しているようなのですが、しかし今のロシアで誇れるのは、実は軍隊ぐらいだったのです。
それがこんな為体だとわかってしまっては、国家の権威が完全に失墜し、国家そのものの存続だって危うくなります。
ソルジェニツィンが生きていたら絶対にプーチンを許さないでしょう。