乗客1億全万人を乗せた超大型ジャンボ機日本号のコックピットには菅機長が居座っています。
彼は余りの操縦技術の無残さに辞めさせられた鳩山機長の後任ですが、コックピットに入るや否や、自動操舵装置のスイッチを切り、ナビゲーションシステムも破壊しました。
なぜならそんなモノが働くと、目的地に着いてしまいます。 そうなると着陸しなければなりません。
しかし彼は絶対着陸したくないし、どの道着陸させるような操縦技術もないのです。
彼の希望は只々一時間でも一分でも長く機長として操縦桿を握ることなのです。 その為には機や乗客がどうなろうと構わないのです。
彼が何の為にそんな機長になりたかったかはわかりません。
しかし彼はそれまでの人生を機長になることだけを目的に生きてきました。
勿論世界中の旅客機で機長になるほどの人は皆そうです。 飛行機が好きでパイロットになり、そしてその頂点の機長を目指すのです。
その為に皆必死で操縦技術を磨き、飛行機の構造を学びます。
けれど菅機長はこれまで一切飛行機の操縦には、何の関心もありませんでした。 勿論飛行機の構造や運航規則など、全く興味がありません。
彼に切望したのはタダ機長の地位だけだったのです。
そこで彼がこの地位を得るためにしたことは、自分はいかに飛行機の操縦が上手いかを他人にアピールする事と、他の機長がいかに操縦が下手であるかと誹謗中傷する事でした。
彼は人生の全てをこれに捧げたので、この技術に掛けては空前絶後の天才だったのです。
彼はこれに全てを掛けてチャンスを待ち続けました。
そしてチャンスが来ました。
超大型ジャンボ機日本号が乱気流に巻き込まれ、乗客が不安に駆られた時、一部の乗客を扇動して菅機長の仲間がコックピットを占拠したのです。
そして乗客を騙すと、自分こそが正当な機長であると宣言したのです。
かくして菅機長とその仲間がコックピットに収まりました。
そして菅機長は操縦桿を握っています。
しかし操縦ができるわけではありません。
日本号はたちまち迷走し始めました。 そして機体はトラブルを起こし、次々と損傷しました。
けれど菅機長にはどうする事もできません。
そもそも菅機長も仲間も、飛行機の事は全然わからないので、どんな飛行をしても、どんなに機体が損傷しても、その意味を理解できません。
だから責任感も恐怖も感じようがないのです。
多少なりとも飛行機について知る乗客や、元のクルー達は、必死になって機をマトモに操縦するように言い続けています。
しかし菅機長もその仲間もその意味が理解できません。 だから自分達がコックピットから追い出される心配をするだけで、話を聞くどころではありません。
それどころか「アイツラ、オレをコックピットから追い出そうとしている」と被害妄想で一杯なのです。
だから菅機長は一心にコックピットのドアを見つめます。 誰かがドアを蹴破って入って来ないか心配でたまらないのです。
そして計器類も窓も見ません。 計器類を見ても意味もわからないし、操縦もできないので見る意思もないのです。
菅機長の心に浮かぶのはリンドバーグ始め、偉大なパイロットです。
彼は自分もまたこのような偉大なパイロットと同様な名声を得て、歴史に残ると信じて疑わないのです。
菅機長の妄想のフライトを一刻も早く辞めさせないと、全乗客が命を失うことになります。
しかし乗客にもまた菅機長とその仲間の同類がいて、飛行機の事を何もわかっていないので、現在の迷走状態の深刻さを理解していません。
それどころか乱気流で揺れたときの事を持ち出して「あれは麻生機長が無能だから」などと言う始末です。
だから絶望のフライトは続きます。
誰かが菅機長と仲間達から操縦桿を取り上げるか、或は日本号が墜落するまで。