東京新聞はトリチウムは遺伝子を傷つけると言っています。
裏の桜さんが紹介されていた記事ですが、驚きました。
東京電力福島第一原発構内にたまり続ける放射性物質を含んだ大量の水。タンクの設置も限界と、政府は海への放出に前のめり。漁業者は反発を強めている。母なる海は受け止めてくれるだろうか。
水で薄めて海に放出-。シンプルで、わかりやすい解決法には違いない。でも本当に、それでよいのだろうか。
メルトダウン(炉心溶融)した原子炉を冷やすなどした汚染水には、多種多様な放射性物質が含まれる。そのほとんどは多核種除去設備(ALPS)で取り除くことができるという。
ただし、トリチウム(三重水素)は例外だ。性質が水素とそっくりなので、水から分離することができないというのである。ALPSで処理した後も、タンクを造ってため続けているのが現状だ。
トリチウムは放射線のエネルギーも弱く、生物の体内に入っても蓄積されない、とされている。だから、海に流せばいいと。
ところが、トリチウムは生物のDNAの中にまで水のごとく入り込み、遺伝子を傷つける恐れがあるとの指摘もある。
タンクの中に残った放射性物質は、トリチウムだけではない。
ヨウ素129やルテニウムが実際に検出されている。
原子力規制委員会は、このような物質も「水で薄めれば基準値以下になり、問題ない」との立場だが、本当にそうなのか。
思い出すのは、「公害の原点」といわれる水俣事件である。
原因企業による有機水銀の海への垂れ流しを政府が放置し続けたため、深刻な被害が広がった。
「海水の希釈能力は無限と考えたのは誤りだった」。事件に関係した高名な学者が、後に漏らした苦渋のつぶやきだ。水銀と放射性物質は同列にはできないが、不気味ではないか。
規制委は「海洋放出は唯一の手段」と言うが、政府側からは、薄めて大気中に放出したり、地下に埋設したりなど、“代替案”も提示されている。ただし、海洋放出よりも手間や費用はかかる。
このままでは廃炉作業に支障を来すという、東電側の主張はよく分かる。だが言うまでもなく、最も大切な“物差し”は人体への「安全」だ。「海洋放出ありき」は危うくないか。
放射線の影響は未知なる部分が多い。漁業被害の問題だけにはとどまらない。
議論はまだ、熟しているとは言い難い。
ウィキなどに詳しい説明がありますが、トリチウムとは三重水素、つまり中性子が二つある水素です。
自然界に圧倒的に多く存在する普通の水素、つまり軽水素の原子核は陽子一つで、中性子はありません。
一方トリチウムの原子核は陽子一つ、中性子二つで、原子核の質量が普通の水素の3倍になります。 だから三重水素と呼ばれるのです。
このトリチウムの原子核は普通の水素に比べて不安定なので、原子核崩壊を起こし、放射線を出します。 但しこの放射線のエネルギーは、他の放射性同位体に比べては至って低いです。
原子の化学的性質は、陽子の数で決まります。 トリチウムの陽子の数は、水素と同じですから、トリチウムの化学的性質は普通の水素と全く同じです。
DNAなど人体を構成する化学物質には、その分子構造の中に多数の水素を含んでいます。
だからDNAなど人体を構成する化学物質の中に、普通の水素の代わりに取り込まれる事は十分にあり得ます。
そして弱いとはいえ、トリチウムは放射線を出すのですから、DNAに取り込まれたトリチウムが原子核崩壊を起こす際に、その放射線が回りの組織を作る化学物質の分子構造を傷つけるという事は、十分あり得るでしょう。
>トリチウムは生物のDNAの中にまで水のごとく入り込み、遺伝子を傷つける恐れがあるとの指摘もある。
その意味ではこの東京新聞の記事は嘘ではありません。
しかしこの東京新聞の記事は、重要な事を書いていません。
トリチウムは大気中にも大量に含まれているのです。
なぜなら宇宙線が大気に当たると、トリチウムが発生するからです。
因みに宇宙線とは宇宙から飛んでくる放射線の事です。 宇宙からは常に大量の放射線が降り注ぎ、それがどんどんトリチウムを作っているのです。
そしてそうやってできたトリチウムもまた、放射線を出しながら崩壊するのです。
大気の中では常にこうやってトリチウムの生成と崩壊が起きているのです。
トリチウムは原発排水に含まれるだけでなく、大気中にも大量に含まれて、常に身近に存在する物質なのです。
だから息をすれば普通にトリチウムを吸い込みます。
また大気中に存在する物なら水の中にも含まれますから、水を飲めばトリチウムを飲む事になります。
人類は、イヤ地球上の生命は、皆その誕生の時から、そうやってトリチウムを体内に取り込んできたのです。
東京新聞のこの記事は嘘を書いているわけではありません。
しかしトリチウムが大気中に大量の存在し、宇宙線によって常に作られる事は書いていません。
宇宙線によって常に作られ、大気中に大量に存在する物質の危険を避ける事は不可能だし、意味もありません。
だから福島第一原発以外の世界中の原発では今もトリチウム排水は普通に海に流してます。
そしてそのことを問題にしている国はありません。
福島第一原発も事故の以前には、トリチウム排水を海に流していました。
福島第一原発は日本でも最も古い原発の一つで、1971年から稼働を開始しました。 それで2011年まで半世紀の操業に間に「公害の原点」といわれる水俣事件」のような事件は起きたのでしょうか?
現在世界中で稼働している原発の近くで「公害の原点」といわれる水俣事件」のような事件は起きたのでしょうか?
東京新聞の社説は、トリチウムの危険性について、嘘は書いていません。
しかしトリチウムがどういう物質であるかについて重要な事は書いていません。 またトリチウム排水についての常識も書いていないのです。
トリチウムの性質や宇宙線、そして放射性同位体の問題は、高校の物理と化学で教わります。
しかし高校を卒業してしまえば、殆どの人はこんな知識は忘れてしまうでしょう。
またトリチウム排水をどうしていたかと言うのは、原発の話に関心がなければ知りません。
だから一般読者が、新聞でこうして「トリチウム怖い」と言う記事を読まされたら、「なんだかよくわからないけど怖いなあ」と思うのは当然です。
実際この記事の巧妙なところは、明確にトリチウムの危険性を断定せず、しかし「水俣病のような事件が起きるかもしれない」と思わせる事です。
そうやって意図的に理由を曖昧にしながら、トリチウム排水がいかにも不気味であると感じさせる事です。
理由を明確にして「トリチウムを危険」と断定する記事なら、科学的な根拠を挙げて、その記事が間違っている事を指摘して、訂正を求める事はできます。
しかしこの記事のように、科学的に危険性がある事は間違いではない部分だけを紹介して、危険だ危険だと煽る場合、この記事を間違いとは言えないのです。
そしてこれに水俣病のような話を付け加えて、水俣病を連想させる事で、トリチウム排水の不気味さを煽るような場合は、これに対する論理的反論は殆ど不可能です。
こうやって演出された恐怖や不安は「お化けが怖い」「イヤな予感がする」と言うのと全く同じですから、本人がこれを怖がる以上、論理的反論はできないのです。
そしてこうした報道が新聞やテレビに大量に溢れていれば、福島第一原発近海の漁協としては、それを無視する事はできません。
福島県の漁民達がいかに真剣に物理や化学を学び、トリチウムの安全性を理解してもどうしようもありません。
獲った魚が売れなければ漁師は生活できません。
でも福島の魚が安全であることを、広報する力は漁協にはありません。
国や県にも難しいのです。
一方、東京新聞始め、大手メディアはそろって、トリチウムのと言う物質の危険さ、トリチウム排水の不気味さを印象付ける報道に励んでいます。
それで多くの人々が、トリチウム排水を含む福島の海の魚を食べたら、「水俣病」のような恐ろしい病気になるかも知れないという不安を感じています。
これでは福島漁協とすれば、「風評被害への対策が済むまでは、トリチウム排水を放出しないでほしい」と言うしかないのです。
そしてそうやって排水の処理が遅れる間にも、福島第一原発にはドンドン排水タンクが並んでいく事になります。
これは福島第一原発の事故処理を妨害するだけでしょう?
事故処理が遅れれば遅れる程、被災地の再出発は遅れます。
事故処理が遅れれば遅れる程、処理費用はかさみ、それは結局、電気代等を通して日本国民全ての負担となってのしかかります。
それなのに東京新聞始めテレビや新聞はこのような風評被害を煽り、福島第一原発事故の処理を遅らせようとするのです。
一体彼等は何の為にこんなことを続けるのでしょうか?