
一昨日ここへ行った時は、アレクサンドル・デュマの「ダルタニャン物語」に描かれた、ルイ14世の恋を思い出しました。
「ダルタニャン物語」は第一作になった「三銃士」が有名です。 しかしこの物語は非常な長編で、「三銃士」で若者として登場したダルタニャンと、三人の銃士達が初老になるまで続きます。
そして彼等が年を重ねる間に、フランスは絶対王政の基礎を固めて行きます。 その過程で貴族や聖職者等と、王権の軋轢がフロンドの乱などの混乱となりました。
一方同じ頃イギリスでは、清教徒革命が起きます。
ダルタニャンと三銃士は、これらの争乱の中で大冒険を行うのです。
そしてこうした騒乱が終わってルイ14世による親政が始まった頃、ダルタニャンは常に王の傍らで王を警護すようになるのです。
「ダルタニャン物語」はこうしたフランス史の史実と、デュマの創作による主人公達の活躍するフィクションを巧みに組み合わせているのです。
こうした史実とフィクションを組み合わせた小説は、日本でも司馬遼太郎始め多くの作家が書いています。
しかし「ダルタニャン物語」はフィクションの人物によって、史実を活写する巧みさにおいて、傑出しているのではないかと思います。
それは一つには架空・実在を問わず、人物の描写の巧みさによるのではないかと思います。
実在の人物の描写でワタシが特に好きなのは、ラ・ヴァリエール嬢との純愛に燃えるルイ14世です。
ルイ14世が親政をはじめて間もなく、ルイ14世の弟フィリップ・ドルレアンがイングランド王女アンリエット・ダングテールと結婚しました。
王弟妃アンリエット・ダングテールは、若く美しくしかもコケットな女性で、多くの男性を魅了したました。
しかしそれだけではなく、若く美しい王弟妃には、若く美しい女官達が付いていました。
こうして宮廷は一期に華やいできました。
このような時、ルイ14世は盛大な宮廷バレエを催します。 ルイ14世は子供の頃からバレエが好きで、優秀な踊り手でもありました。
だから宮廷のバレエには、ルイ14世を始め若い廷臣達や女官達が総出演して、豪華な衣装や演出で、大変な盛会となりました。
さてこのバレエが終わった夜の事です。
ルイ14世とお気に入りの廷臣達が、宮廷の庭をそぞろ歩いていると、王弟妃の女官達が、集まっておしゃべりに興じていました。
ルイ14世達は藪の陰に隠れて、彼女達のおしゃべりを盗み聞きをしていると、彼女達はこの日バレエに出た貴公子達の品定めを始めました。
彼女達はそれぞれに意中の男性への想いを打ち明けました。 その中にルイ14世と一緒に盗み聞きをしている廷臣達の名前が出たので、彼等は大いに気を良くしました。
けれども最後まで黙っていた女官はこう言いました。
貴方達は何を見ているの?
他の方達はそれぞれにご立派だわ。
でも王様がいらっしゃるでしょう?
王様に比べたら・・・・。
私は太陽を見つめるわ。
例え目が潰れようとも!
この言葉にルイ14世の心は、一期に燃え上がりました。
ルイ14世は5歳で即位して以降、常に王として人々の注目と礼賛を受けてきました。
しかしそれは王としての注目と礼賛であり、一人の若者ルイに対する物ではありませんでした。
しかしこの女官は若者ルイに熱烈な恋をしているのです。
そしてその彼女の想い故にルイ14世もまた熱烈に彼女を愛し始めたのです。
この女官ルイーズ・ド・ラヴァリエール嬢は、宮廷では全く無視される程度の家柄の出で、しかも軽い跛だったようです。
名家出身の美女がひしめく宮廷にあっては、幾多の大輪の薔薇が咲き誇り妍を競う庭園の中の小さな菫とも言うべき存在でした。
けれども彼女の捨身の恋の情熱は、青春のルイを燃えがらせたのです。
盗み聞きの場をから退いたルイ14世は、直ぐに彼女の部屋へ行き、自分の想いを打ち明けたのです。
こうしてラ・ヴァリエール嬢は、ルイ14世最初の愛人として歴史に登場する事になります。
ええ、ルイ14世の純愛は長続きはしなかったのです。 彼はこの後、幾多の愛人を持つことになります。
とは言えこのデュマの創作によるルイ14世とラ・ヴァリエール嬢の恋のなれ初めは、実に美しく感動的です。
なによりも全てに恵まれて自信満々の若き太陽王が、自分が愛されている事を知って感動し、そしてその愛故に慎ましい女を熱愛し始めると言う設定が、実に新鮮で美しいのです。
男性でも女性に愛される故に愛すると言う事があるのでしょうか?
「ダルタニャン物語」は鉄人ダルタニャンの冒険物語ですが、しかしこのような恋の描写も見事なのです。
因みに物語ではラ・ヴァリエール嬢とルイ14世の恋により、アトスの愛息ブランジュロンヌ子爵が命を喪う事になります。
ブランジュロンヌ子爵は少年時代から、ラ・ヴァリエール嬢を熱愛していたのです。 彼はこの失恋に耐えられませんでした。
ところでルイ14世にはちゃんと王妃がいます。 ルイ14世の王妃はスペインの王女マリーテレーズ・ド・トリューシュです。
この王女との結婚式をスペイン側で司式したのが、当時スペイン侍従長をしていたベラスケスです。
彼はこれで過労死してしまったのです。
天才ベラスケスが過労死するほど力を入れて用意した王女の嫁入り支度は、どれほど華やかで洗練された物だったでしょうか?
しかしねえ・・・・・。
ベラスケスだって自分で肖像画を描きながら心配だったと思います。
こんな馬面で美女がひしめくフランス宮廷に嫁いで大丈夫だろうかって?
でも馬面はハプスブルグ家の遺伝だから仕方ないです。 オーストリアに嫁いだ彼女の妹マルガリータ・テレサはもっと可愛くて、彼女の肖像は幾つもベラスケスの代表作になっているんですけどね。
モデルが不味すぎると、同じ画家が描いても愛されない絵になってしまうんですね。
カワイソウなマリーテレーズ!!
ルイ14世の宮廷は愛人達が仕切り、王妃マリーテレーズは一生至って影の薄い存在でした。
出かけるのが遅かったので、暫く公園をウロウロしていたら、日が傾いてきました。
もう7時過ぎまで明るいと言う訳にはいかないのです。
それにしてもここは不便と言っても、車なら都心から30分余りだし、こんなに静かでロマンチックなのです。
デートスポットにはぴったりではありませんか?
そんなことを想いながら一人で自転車を漕ぐワタシでした。