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2016-08-13 00:00

太陽王の純愛 前田森林公園

 前田森林公園を歩るいていると、いつも西欧の王侯に思いを馳せたくなります。

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 一昨日ここへ行った時は、アレクサンドル・デュマの「ダルタニャン物語」に描かれた、ルイ14世の恋を思い出しました。

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 「ダルタニャン物語」は第一作になった「三銃士」が有名です。 しかしこの物語は非常な長編で、「三銃士」で若者として登場したダルタニャンと、三人の銃士達が初老になるまで続きます。

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 そして彼等が年を重ねる間に、フランスは絶対王政の基礎を固めて行きます。 その過程で貴族や聖職者等と、王権の軋轢がフロンドの乱などの混乱となりました。

 一方同じ頃イギリスでは、清教徒革命が起きます。

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 ダルタニャンと三銃士は、これらの争乱の中で大冒険を行うのです。

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 そしてこうした騒乱が終わってルイ14世による親政が始まった頃、ダルタニャンは常に王の傍らで王を警護すようになるのです。

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 「ダルタニャン物語」はこうしたフランス史の史実と、デュマの創作による主人公達の活躍するフィクションを巧みに組み合わせているのです。

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 こうした史実とフィクションを組み合わせた小説は、日本でも司馬遼太郎始め多くの作家が書いています。

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 しかし「ダルタニャン物語」はフィクションの人物によって、史実を活写する巧みさにおいて、傑出しているのではないかと思います。

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 それは一つには架空・実在を問わず、人物の描写の巧みさによるのではないかと思います。

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 実在の人物の描写でワタシが特に好きなのは、ラ・ヴァリエール嬢との純愛に燃えるルイ14世です。

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 ルイ14世が親政をはじめて間もなく、ルイ14世の弟フィリップ・ドルレアンがイングランド王女アンリエット・ダングテールと結婚しました。

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 王弟妃アンリエット・ダングテールは、若く美しくしかもコケットな女性で、多くの男性を魅了したました。
 しかしそれだけではなく、若く美しい王弟妃には、若く美しい女官達が付いていました。

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 こうして宮廷は一期に華やいできました。

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 このような時、ルイ14世は盛大な宮廷バレエを催します。 ルイ14世は子供の頃からバレエが好きで、優秀な踊り手でもありました。

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 だから宮廷のバレエには、ルイ14世を始め若い廷臣達や女官達が総出演して、豪華な衣装や演出で、大変な盛会となりました。

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 さてこのバレエが終わった夜の事です。

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 ルイ14世とお気に入りの廷臣達が、宮廷の庭をそぞろ歩いていると、王弟妃の女官達が、集まっておしゃべりに興じていました。

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 ルイ14世達は藪の陰に隠れて、彼女達のおしゃべりを盗み聞きをしていると、彼女達はこの日バレエに出た貴公子達の品定めを始めました。

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 彼女達はそれぞれに意中の男性への想いを打ち明けました。 その中にルイ14世と一緒に盗み聞きをしている廷臣達の名前が出たので、彼等は大いに気を良くしました。

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 けれども最後まで黙っていた女官はこう言いました。

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 貴方達は何を見ているの?
 他の方達はそれぞれにご立派だわ。
 でも王様がいらっしゃるでしょう?
 王様に比べたら・・・・。
 私は太陽を見つめるわ。
 例え目が潰れようとも!

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 この言葉にルイ14世の心は、一期に燃え上がりました。

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 ルイ14世は5歳で即位して以降、常に王として人々の注目と礼賛を受けてきました。
 しかしそれは王としての注目と礼賛であり、一人の若者ルイに対する物ではありませんでした。

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 しかしこの女官は若者ルイに熱烈な恋をしているのです。

 そしてその彼女の想い故にルイ14世もまた熱烈に彼女を愛し始めたのです。

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 この女官ルイーズ・ド・ラヴァリエール嬢は、宮廷では全く無視される程度の家柄の出で、しかも軽い跛だったようです。

 名家出身の美女がひしめく宮廷にあっては、幾多の大輪の薔薇が咲き誇り妍を競う庭園の中の小さな菫とも言うべき存在でした。

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 けれども彼女の捨身の恋の情熱は、青春のルイを燃えがらせたのです。
 
 盗み聞きの場をから退いたルイ14世は、直ぐに彼女の部屋へ行き、自分の想いを打ち明けたのです。

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 こうしてラ・ヴァリエール嬢は、ルイ14世最初の愛人として歴史に登場する事になります。

 ええ、ルイ14世の純愛は長続きはしなかったのです。 彼はこの後、幾多の愛人を持つことになります。

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 とは言えこのデュマの創作によるルイ14世とラ・ヴァリエール嬢の恋のなれ初めは、実に美しく感動的です。

 なによりも全てに恵まれて自信満々の若き太陽王が、自分が愛されている事を知って感動し、そしてその愛故に慎ましい女を熱愛し始めると言う設定が、実に新鮮で美しいのです。

 男性でも女性に愛される故に愛すると言う事があるのでしょうか?

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 「ダルタニャン物語」は鉄人ダルタニャンの冒険物語ですが、しかしこのような恋の描写も見事なのです。

 因みに物語ではラ・ヴァリエール嬢とルイ14世の恋により、アトスの愛息ブランジュロンヌ子爵が命を喪う事になります。

 ブランジュロンヌ子爵は少年時代から、ラ・ヴァリエール嬢を熱愛していたのです。 彼はこの失恋に耐えられませんでした。

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 ところでルイ14世にはちゃんと王妃がいます。 ルイ14世の王妃はスペインの王女マリーテレーズ・ド・トリューシュです。
 
 この王女との結婚式をスペイン側で司式したのが、当時スペイン侍従長をしていたベラスケスです。
 
 彼はこれで過労死してしまったのです。
 
 天才ベラスケスが過労死するほど力を入れて用意した王女の嫁入り支度は、どれほど華やかで洗練された物だったでしょうか?
 
 しかしねえ・・・・・。

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 ベラスケスだって自分で肖像画を描きながら心配だったと思います。

 こんな馬面で美女がひしめくフランス宮廷に嫁いで大丈夫だろうかって?

 でも馬面はハプスブルグ家の遺伝だから仕方ないです。 オーストリアに嫁いだ彼女の妹マルガリータ・テレサはもっと可愛くて、彼女の肖像は幾つもベラスケスの代表作になっているんですけどね。

 モデルが不味すぎると、同じ画家が描いても愛されない絵になってしまうんですね。
 
 カワイソウなマリーテレーズ!! 
 
 ルイ14世の宮廷は愛人達が仕切り、王妃マリーテレーズは一生至って影の薄い存在でした。

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 出かけるのが遅かったので、暫く公園をウロウロしていたら、日が傾いてきました。

 もう7時過ぎまで明るいと言う訳にはいかないのです。

 それにしてもここは不便と言っても、車なら都心から30分余りだし、こんなに静かでロマンチックなのです。

 デートスポットにはぴったりではありませんか?

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 そんなことを想いながら一人で自転車を漕ぐワタシでした。
 
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コメント

 「ダルタニャン物語」は、子供の頃に好きで何度も読み返しました。最初は本当に冒険談で、そのうち色々な恋愛模様も描かれたなかで、よもぎねこさんの仰る通りに出会いは美しいですが、このラ・ヴァリエール嬢はどうも私には、あみんの「待つわ」みたいなネバネバした女性の厭らしさを感じてしまいます。だいたい好青年の鏡みたいな美青年ブランジュロンヌ子爵と恋仲だったのに、勿体ないことに裏切るなんてなんてことかと憤りを覚えました。しかも権力者のルイ14世の愛人に収まってからが、他の機知にとんだ愛人たちなかで見劣りして片隅に追いやられる様が容赦なくて、デュマの人間観察は凄いと思いながら読みました。

  前田森林公園のような王宮のような所で「ダルタニャン物語」を読むと、きっと本の世界に入り込みそうな気がします。近所なら行ってみたいです。
  1. 2016-08-13 11:08
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  3. 都民です。 #-
  4. 編集

Re: タイトルなし

>  「ダルタニャン物語」は、子供の頃に好きで何度も読み返しました。最初は本当に冒険談で、そのうち色々な恋愛模様も描かれたなかで、よもぎねこさんの仰る通りに出会いは美しいですが、このラ・ヴァリエール嬢はどうも私には、あみんの「待つわ」みたいなネバネバした女性の厭らしさを感じてしまいます。だいたい好青年の鏡みたいな美青年ブランジュロンヌ子爵と恋仲だったのに、勿体ないことに裏切るなんてなんてことかと憤りを覚えました。しかも権力者のルイ14世の愛人に収まってからが、他の機知にとんだ愛人たちなかで見劣りして片隅に追いやられる様が容赦なくて、デュマの人間観察は凄いと思いながら読みました。

 そうなんですよね。 この純愛の描写は美しいけれど、実はそれだけで済まないのが、デュマの面白さです。
 
 デュマの小説は勧善懲悪のように言われますが、実は全然そんな単純なモノではなく、むしろ極めて怜悧で鋭い人間観察力と歴史認識があるのです。

 それを純然たる娯楽小説にしてしまうのが、またデュマの凄さです。
>
>   前田森林公園のような王宮のような所で「ダルタニャン物語」を読むと、きっと本の世界に入り込みそうな気がします。近所なら行ってみたいです。

 札幌にいらしたら是非行ってください。 バロック庭園は日本では他には赤坂離宮ぐらいしかないので行く価値はあると思います。
  1. 2016-08-13 12:00
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  3. よもぎねこ #-
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ダルタニャン物語、たしか鈴木力衛の翻訳でしたっけ。確か小生が中学生の頃、文庫本が出て全11巻を読んだ覚えがあります。このラ・ヴァリエール嬢は結局、最後、太陽王の寵愛を失うのでしたよね。
最後の最後まで、本当に読ましてくれるものでしたっけ。

その後、フランス宮廷の実態を知りましたが、まあ結構あけすけなんで驚いたものです。フランス王には結局のところ、プライバシーは存在しない、という事実です。何しろその日は愛人の誰と寝た、ということまで全てチェックされる、王の一挙手一投足はすでに見世物です。こういう中でやりたいことやり尽くした太陽王という人物は相当な大物だったのだと思います。

音楽の世界ではバロックのまっただ中なのですが、イタリアのような天性の明るさではなく、当時フランス音楽は結構陰影が強い気がします。その意味では結構好き嫌いがあるものの一つです。小生はマラン・マレーは好きですが、この人が太陽王の宮廷で働いていたというのは少し不思議な気がするものです。

当時の欧州は結局のところ、ハプスブルク家とブルボン家の抗争の歴史です。それが当時の歴史の殆どだと思います。
  1. 2016-08-14 21:21
  2. URL
  3. kazk #-
  4. 編集

私は、三銃士よりはモンテクリスト伯の方が好きだした。復讐譚は、古今東西を問わない、人間が普遍的に求めているものではないかと考えます。
復讐相手を、これでもかと痛めつける内容は、それはそれで精神的開放感がありますが、底が浅い。
主人公は、最後の復讐相手の生命だけは助けました。人によって、感想は違いますが、自分はこれでいいと思っています。

デュマの作品の根底には、やはり「運命」にあると思います。主人公は幸福の絶頂期からどん底に突き落とされましたが、その逆もありうる。自分自身では、どうしようもない運命の不思議。
デュマの父親は、貴族が黒人に産ませた混血児で、売り飛ばされた後、何の気まぐれか買い戻され、貴族の子弟となりました。
そのあと、フランス革命、ナポレオンの台頭で、あれよあれよという間に陸軍中将にまで上り詰め、正面から堂々とナポレオンに意見して失脚し、若くしてこの世を去りました。
父親が買い戻さなかったら、珈琲農場の奴隷として一生を終えていたはずなのに、父親が買い戻したために、全く対照的な人生を送ることになったのですから、人間の運命は、不思議なものを感じざるおえません。
ヒトラーだって、第一次世界大戦の混乱がなかったら、平凡な人生をおえていたことでしょう。
人の運命を変えるのは、時代の環境であったり、第三者の意志であったり、自分の力の及ばない働きがあることが時としてあります。
モンテクリスト伯の主人公も、陰謀によって牢獄にとらわれたために、自分でも予想しなかった人生を歩む羽目になったのです。
デュマは、自分ではどうにもならない人間の運命を、波乱にとんだ生涯を送った父親から得ていたのかもしれません。
  1. 2016-08-15 12:46
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  3. 名無しの権兵衛 #FxyI6RTE
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Re: タイトルなし

> ダルタニャン物語、たしか鈴木力衛の翻訳でしたっけ。確か小生が中学生の頃、文庫本が出て全11巻を読んだ覚えがあります。このラ・ヴァリエール嬢は結局、最後、太陽王の寵愛を失うのでしたよね。
> 最後の最後まで、本当に読ましてくれるものでしたっけ。

 そうです。 ラウル・ド・ブランジュロンヌの死で、ラ・ヴァリエールは明るく振る舞う事ができなくり、それでルイ14世の心が離れてしまうのです。

 冒険だけでなく恋の描写も見事なんですよね。
>
> その後、フランス宮廷の実態を知りましたが、まあ結構あけすけなんで驚いたものです。フランス王には結局のところ、プライバシーは存在しない、という事実です。何しろその日は愛人の誰と寝た、ということまで全てチェックされる、王の一挙手一投足はすでに見世物です。こういう中でやりたいことやり尽くした太陽王という人物は相当な大物だったのだと思います。

 ホントに大変だったと思います。 
 
 ルイ14世の後は、誰も彼の真似はできませんでした。
 まあ、仕方ありません。

 ルイ14世が超人だったのですから。
>
> 音楽の世界ではバロックのまっただ中なのですが、イタリアのような天性の明るさではなく、当時フランス音楽は結構陰影が強い気がします。その意味では結構好き嫌いがあるものの一つです。小生はマラン・マレーは好きですが、この人が太陽王の宮廷で働いていたというのは少し不思議な気がするものです。

 ジャン・バティスト・リュリなど映画になっていましたけどね。
 「王は踊る」と言う映画です。

 あの映画の中で、ルイが愛人とセックスしている時に、隣の部屋でリュリが指揮する楽隊が演奏している場面があって笑いました。
 
 今と違ってムードを盛り上げる為に音楽が欲しければ、こうでもするしかないんですよね。

> 当時の欧州は結局のところ、ハプスブルク家とブルボン家の抗争の歴史です。それが当時の歴史の殆どだと思います。

 そうですね。 もうイタリアは没落し、イギリスは追いつけな時代ですから。
  1. 2016-08-15 19:06
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  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

Re: タイトルなし

> 私は、三銃士よりはモンテクリスト伯の方が好きだした。復讐譚は、古今東西を問わない、人間が普遍的に求めているものではないかと考えます。
> 復讐相手を、これでもかと痛めつける内容は、それはそれで精神的開放感がありますが、底が浅い。
> 主人公は、最後の復讐相手の生命だけは助けました。人によって、感想は違いますが、自分はこれでいいと思っています。
>
> デュマの作品の根底には、やはり「運命」にあると思います。主人公は幸福の絶頂期からどん底に突き落とされましたが、その逆もありうる。自分自身では、どうしようもない運命の不思議。
> デュマの父親は、貴族が黒人に産ませた混血児で、売り飛ばされた後、何の気まぐれか買い戻され、貴族の子弟となりました。
> そのあと、フランス革命、ナポレオンの台頭で、あれよあれよという間に陸軍中将にまで上り詰め、正面から堂々とナポレオンに意見して失脚し、若くしてこの世を去りました。
> 父親が買い戻さなかったら、珈琲農場の奴隷として一生を終えていたはずなのに、父親が買い戻したために、全く対照的な人生を送ることになったのですから、人間の運命は、不思議なものを感じざるおえません。
> ヒトラーだって、第一次世界大戦の混乱がなかったら、平凡な人生をおえていたことでしょう。
> 人の運命を変えるのは、時代の環境であったり、第三者の意志であったり、自分の力の及ばない働きがあることが時としてあります。
> モンテクリスト伯の主人公も、陰謀によって牢獄にとらわれたために、自分でも予想しなかった人生を歩む羽目になったのです。
> デュマは、自分ではどうにもならない人間の運命を、波乱にとんだ生涯を送った父親から得ていたのかもしれません。

 ワタシはダルタニャン物語に描かれるフランス史が興味深いので、ダルタニャン物語が好きなんですけどね。

 でもデュマの父親がデュマの小説に影響を与えているのは本当でしょうね。
 だって本当にデュマ作中の人物のような快男児ですからね。

 彼の生涯は佐藤賢一が小説にしています。 ワタシは彼の小説結構好きなのですが、しかしヤッパリ歴史を小説にするうまさではデュマに叶う人はいないでしょうね。
 
  1. 2016-08-15 19:11
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  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

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