2016-07-03 20:43

元祖マキャベリストは良い奴だった その11

 文筆家として盛名は上がれども、再就職の目途は立たず、不詳の弟子達は愚かしい陰謀騒ぎを起こして破滅する。

 メディチ家復帰によってフィレンツェ共和国の政庁を解雇されてからの日々は、マキャベリにとっては苦い日々でしたが、しかしイタリア半島とフィレンツェ共和国にとっては、嵐の前の静けさと言うか・・・・・来るべき動乱の前の一休みとでもいう日々でした。

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 メディチ家最初の法皇レオーネ十世は、ユリウス二世のように法皇権力拡大を目指してイタリア半島を掻き回し挙句に外患誘致なんてことは一切せずに、ひたすらイタリア半島の安定を心がけました。

 その為には強かにふてぶてしく構え、半島内の争乱をさばき、アルプス以北の大国を上手くいなしたのです。
 
 御尊顔はこれです。

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 何と憎体な奴!!
 人格のふてぶてしさ、強かさがそのままでは出ているではないか?

 一体誰がこんな顔を描いたのだ?

 ラファエロです。

 昔ワタシがラファエロの画集を買ってきたとき、母がこの絵を見て「なんてイヤらしい顔!! 可愛げも繊細さの欠片もない!!」と呆れていたのを思い出します。

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 でもこれラファエロの代表作の一つです。 少女漫画のような綺麗な聖母子像から想像できない作品ですが、ラファエロのこんな風にリアルでモデルの内面までそのまま描写するするような絵も描く人なのですね。

 だから天才なのです。

 時代は盛期ルネサンス、ラファエロ、ミケランジェロ、レオナルド・ダ・ヴィンチと言う三人の天才が全員バリバリ現役です。 そしてこのエントリーの主役マキャベリも含めて全員フィレンツェの出身なのです。

 ルネサンスの美も知性もみなフィレンツェから生まれました。

 属領まで含めて50万人、フィレンツェ市内だけなら人口は7万人程度なのに、こうした天才達が揃い踏みしている!!

 このフィレンツェルネサンスの輝きに、当時のヨーロッパ諸国は圧倒されていました。

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 しかしイタリア半島の外では大変な厄災が、元気にすくすく育っていました。
 
 これより10年余り前に、神聖ローマ皇帝マクシミリアン一世とスペイン国王夫妻フェルディナンドとイザベラは、お互いの子供達を結婚させていました。

 そしてこの結婚から生まれた子供であるカルロス(ドイツ名カール)が、スペインと神聖ローマ帝国の王権を相続する事になっていたのです。

 神聖ローマ帝国は現在のドイツとチェコとポーランドの西部に加えて、ネーデルランドと言われた現在のベネルクスを支配していました。

 一方スペインは現在のスペインに加えて、新大陸を領有していました。
 その上、ユリウス二世時代の外患誘致の結果、イタリア半島南部とシチリア島は既にスペイン領になっていたのです。

 つまりカルロスは一人で、フランスとイタリア中部を除く西ヨーロッパの殆どと全部と、南アメリカを領有するべく生まれて来たのです。

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 歴代ローマ法皇はイタリア半島の中部を占める法皇領の確保と、法王権力の保持の為に、半島の南部と北部を同一人物が支配するのをひたすら恐れてきました。

 そしてその為に外患誘致を繰り返したのです。

 ところが今度は北部に想像を絶する超大国が出現したのです。
 しかも南部は既にその国の支配下にあります。

 これではレオーネ十世の外交が、慎重を極めたのも当然でしょう。 と言うかもうイタリアは身動きが取れないのです。

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 それでもレオーネ十世はメディチ家の法皇です。 慎重な外交で何とか大国のイタリア半島侵入を防ぎながら、自身は享楽的な生活を楽しみました。

 ラファエロに自分の肖像を描かせただけでなく、多くの天才達を支援して沢山の作品を作らせました。

 ローマでは連日、華やかなイヴェントが続き、祝祭気分に湧きかえりました。
 だからローマではこの法皇の人気は大変なモノでした。

 ローマはこの法皇の下で好景気とルネサンス文化満開の日々が続きました。

 このあたりは父親のロレンツォ・デ・メディチを思わせます。

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 しかし父親と違うのは、こうした文化振興やイヴェントに父親ロレンツォが使ったお金は、メディチ家の私財でしたが、レオーネ十世が使ったのは、法皇庁の予算と資産なのです。

 この華やかで文化的な浪費が、アルプスの北の国々で宗教改革を招く原因になります。

 そりゃそうでしょう?
 全カソリック世界から集められたお金を、レオーネ十世は盛大に浪費するのですが、それが落ちるのはローマとその近辺だけです。

 アルプスの北の国々には何の恩恵もありません。 タダ信仰の堕落だけを見せつけられるだけなのです。

 これじゃドイツ人やスイス人はブチ切れるのも当然ですよね。

 そしてこれもまた後に厄災の種となって育ち、後にローマに返ってきます。

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 オマケ

 とうとう、10を超えてしまいました。
 でもあともう少しで終わりますから。
 皆さんどうかもう暫く御辛抱願います。
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コメント

 この絵が、ラファエロの作品ですか。良く知られた絵とまるで違って、苦いものを噛みしめているような現実性がありそして後白河法皇にも似ていらっしゃるような気がします。ただ、私は綺麗な聖母や天使や女性の絵の方が好みです。でもこの方のお蔭で、ダビンチやラファエロやミケランジェロが活躍出来たのかと思うと有りがたい方だと拝みたいような気もします。

 続きが楽しみです。
  1. 2016-07-03 23:14
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  3. 都民です。 #-
  4. 編集

マキャベリ連載を読んできて、マキャベリ通になった気がします。
3回くらいのところで終わっていたら、通俗的なマキャベリしか知らないで終わっていたような。

確か、塩野さんはレオーネ十世を好意的に書いていたように記憶しています。
「豪放でクヨクヨしない性格」だとか。
外出中に海賊の奇襲を受けたときは、迷うことなく馬に乗って単身逃げたとか。

一人の人間としては魅力があっても、浪費ばかりしていれば、北の貧しい勤勉な?人から見れば頭に来ます。今のドイツとイタリアと、あまり変わらないのかも。

>マクシミリアン一世とスペイン国王夫妻フェルディナンドとイザベラは、お互いの子供達を結婚させていました

マクシミリアン一世の息子は結婚後あまり長生きせず、スペイン国王夫妻(フェルディナンドとイザベラ)の娘は、狂女ファナとか言われる人です。

こういう夫婦でありながら、カルロスのような偉大な君主が出現するのは、王家にとっては運が良かったということでしょう。法王庁は不運だったということですネ。

  1. 2016-07-03 23:33
  2. URL
  3. 道草人 #-
  4. 編集

Re: タイトルなし

>  この絵が、ラファエロの作品ですか。良く知られた絵とまるで違って、苦いものを噛みしめているような現実性がありそして後白河法皇にも似ていらっしゃるような気がします。ただ、私は綺麗な聖母や天使や女性の絵の方が好みです。

 そうですね、強かさやふてぶてしさでは後白河法皇と良い勝負です。
 尤もローマ法皇は皆強かでふてぶてしいのですけどね。

>ただ、私は綺麗な聖母や天使や女性の絵の方が好みです。
 
 ハハハ、みんなそうでしょう。 ワタシも幾らラファエロの絵でもこの肖像を家の中に置くのはイヤです。

>でもこの方のお蔭で、ダビンチやラファエロやミケランジェロが活躍出来たのかと思うと有りがたい方だと拝みたいような気もします。

 マキャベリはダ・ヴィンチ、ラファエロ、ミケランジェロと同時代人です。 だからミケランジェロがローマ滞在中にマキャベリの所へフィレンツェ政庁から支給された滞在費を届けに来たこともありました。
 それにダ・ヴィンチが叔父の遺産相続で親族と揉めた時、ダ・ヴィンチの訴訟の世話をしたのがマキャベリだったと言う説もあります。

 フィレンツェ市内の人口が7万程度の小さな街ですからね。 親しくないにせよお互い顔見知りではあったでしょう。

 因みに先代の法皇ユリウス二世はミケランジェロが大のお気に入りで、彼の肖像はミケランジェロが描いています。
 システィナ礼拝堂の天井画をミケランジェロに発注したのはユリウス二世です。

 文字通り盛期ルネサンス満開だったのです。

>  続きが楽しみです。

 有難う御座います。
  1. 2016-07-03 23:45
  2. URL
  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

Re: タイトルなし

> マキャベリ連載を読んできて、マキャベリ通になった気がします。
> 3回くらいのところで終わっていたら、通俗的なマキャベリしか知らないで終わっていたような。

 お恥ずかしいです。 ワタシも細かい所でチョロチョロ間違いがあるし。
 でも楽しんで頂けたら幸いです。

> 確か、塩野さんはレオーネ十世を好意的に書いていたように記憶しています。
> 「豪放でクヨクヨしない性格」だとか。
> 外出中に海賊の奇襲を受けたときは、迷うことなく馬に乗って単身逃げたとか。
>
> 一人の人間としては魅力があっても、浪費ばかりしていれば、北の貧しい勤勉な?人から見れば頭に来ます。今のドイツとイタリアと、あまり変わらないのかも。

 塩野さんは彼を「典型的なルネサンス人」と評していますから、敬虔で信心深い法皇とは言いかねたのでしょう。
 彼のお蔭でルネサンスは益々輝いたのですが、ドイツ人やスイス人を怒らせて宗教改革の火を点けてしまいました。
>
> >マクシミリアン一世とスペイン国王夫妻フェルディナンドとイザベラは、お互いの子供達を結婚させていました
>
> マクシミリアン一世の息子は結婚後あまり長生きせず、スペイン国王夫妻(フェルディナンドとイザベラ)の娘は、狂女ファナとか言われる人です。
>
> こういう夫婦でありながら、カルロスのような偉大な君主が出現するのは、王家にとっては運が良かったということでしょう。法王庁は不運だったということですネ。

 そうです。

 スペインと神聖ローマ帝国の政略結婚は、ハプスブルグ家お得意の二重結婚と言われる物でした。
 
 つまりスペイン王家の王子と神聖ローマ帝国の王女が結婚。
 
 そしてスペイン王家の王女と神聖ローマ帝国の王子が結婚。

 ところがスペイン王子が結婚後間もなく死んでしまいました。 そして父親の死後に生まれた子供も幼児のうちに死んでしまいました。

 その為スペイン王女と神聖ローマ帝国の王子の子供であるカルロスが一人で、神聖ローマ帝国とスペイン両方を相続したのです。
 
 もしスペイン王子が生き残っていれば、カルロスが一人でスペインと神聖ローマ帝国を相続する事もなかったはずですけどね。

 イタリアにとっては不運でした。
  1. 2016-07-03 23:54
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  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

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