2016-07-03 10:29

元祖マキャベリストは良い奴だった その10

 「君主論」はマキャベリの就職の足を引っ張ったけれど、真に知的な人々には衝撃を与えました。
 そして元部下ピアジオ・ブオナコルシが筆写してくれた写本を元もに、それからそれへと写本も増えて行きました。

 こうして就職不能でも文名だけが上がったためか、マキャベリは次に「政略論」を書きます。
 これは随分長い本なのですが、これもピアジオ・ブオナコルシが筆写してくれました。

 これは「君主論」程刺激的でないせいもあって、更に広く読まれる事になります。

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 こうして文筆家としてのマキャベリの名声が確立したからでしょうか?
 フィレンツェ市内のセミナーの講師に招かれました。

 主催者はフィレンツェきっての名門ルッチェライ家の当主でした。
 彼は20歳そこそこの若さでしたが、重病で寝たきりと言う身の上でした。

 しかし燃えるような知的好奇心を持った明るい性格でした。

 セミナーは彼と、彼の友人でやはり名門出身で、知的好奇心旺盛な同年輩の若者4人と、それに中年の知人を加えて、総勢5人と言う実に細やかなものでした。

 それでもこうして定期的に集まって、マキャベリの最大関心事である政治や国家について語れると言うのは、彼には楽しい時間だったのでしょう。

 それにルッチェライ家からの幾ばくかの講師料も貴重な収入になりました。 名門の当主とは言え、病身の20歳が払う講師料ですから高々しれていたようですが・・・・・。

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 しかし開講後ほどなくルッチェライ家の当主は病状が悪化して死亡します。 けれども残ったメンバーはセミナーを続けました。

 マキャベリはそこで次の著書「戦略論」にこの若者達を登場させます。

 「戦略論」はこのセミナーの4人の若者と、当時イタリア一の傭兵隊長として盛名を誇った老将ヴィットリア・コロンナとの架空の対話でつづられています。
 マキャベリはこれを故ルッチェライに捧げました。

 しかし知的好奇心に満ちた若者達が、連戦練磨の老将に尋ねると言う形で、書かれた「戦略論」は読みやすく斬新で、しかも優れた内容だった事から、大変な人気になりました。

 勝手に名前を使われたヴィットリア・コロンナも満更ではなかったようです。

 それでこの本は早々と出版されました。
 お蔭でこのセミナーの若者達の名も、世に出ます。

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 しかしこのセミナーは大変悲劇的な結末を迎えます。

 なんとセミナーの若者4人がメディチ枢機卿を暗殺して、フランス王の助力でメディチ勢力を放逐して、フィレンツェを民主制に戻すと言う陰謀を計画したのです。

 メディチ枢機卿と言うのは、法皇レオーネ十世の従弟で、当時は事実上のフィレンツェの支配者つまり僭主でした。 
 
 だから彼を暗殺してフィレンツェを民主化・・・・なんてことを思いついたのです。

 けれども陰謀は事前に発覚して、二人は逮捕されて直ぐに処刑されました、
 残りの2人は何とか逃亡に成功してフランスへ亡命しました。

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 それにしても一体何の為にこんな陰謀を・・・・・・。

 ワタシはこれでソクラテスの弟子達(プラトンの兄など)の陰謀を思い出します。

 彼等もペロポネソス戦争敗戦で混乱するアテネにあって、スパルタの助力で、13人僭主制と言われ政権を樹立するのです。 しかし現実の政権担当能力なんぞない癖に「哲人」気取りの若者達の政権は、あえなく瓦解します。

 そしてこの騒動がソクラテス処刑の原因になるのです。
 
 理想的哲人政治を目指したソクラテスの弟子が理想に走って破滅すのはわかります。

 しかし徹底したリアリズムの政治を学んだはずのマキャベリの弟子達も師匠に関係なく、勝手に稚拙でお粗末な政権収奪の陰謀を行って、同様に敢無く破滅するなんて・・・・・。

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 コイツラ一体師匠から何を学んでいたんだろか?
 幾ら立派な師匠についても、師匠を理解し学べるわけじゃない!!

 ソクラテスの弟子達は全然哲人じゃない!!
 マキャベリの弟子なのに全然マキャベリストじゃない!! 
 
 陰謀のやり方が余りに幼稚でお粗末!!
 
 メディチ枢機卿は全然専制的な所のない人で、こんな人を暗殺しても市民の反感を買うだけ!!
 そもそもフランス王がなんの為にオマイラを支援してくれるんだ?
 メディチ家を追放なんて支援したら、法皇と対立する事になるんだよ。
 わかってるの?
 それなのにフランス王が、ボランティアでオマイラの為に軍隊を出してくれるとでも思ってるのか?

 マキャベリに事前に相談していたら、一笑に付すようなお粗末なプランでした。

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 でもワタシは賭けても良いけど、コイツラは自分達の方が師匠より賢いと信じていたんだと思いますよ。

 マキャベリ先生には内緒な!
 だってあの人は不遇が続いてすっかり臆病になっているしさ。
 それにこれは絶対成功するだんら、今更先生の助言を聞くまでもないのさ。
 それより下手に話を漏らして、先生が親父や御袋にチクったらどうする?
 せっかくのプランが全部オシマイじゃないか?
 だから全部オレタチだけでやるんだよ

 こうしてマキャベリには何の関係ないまま陰謀は進行し、あっけなく破綻したのでしょう。

 そして彼が愛し慈しんだ弟子達の2人は悲惨な最期を遂げ、残る二人も亡命先でかろうじて生きて延びているだけです。

 4人とも名門出身で、裕福で、その上知性にも恵まれた魅力的な若者でした。
 こんな馬鹿なことさへしなければ、フィレンツェで輝かしい将来が約束されていたはずなのに・・・・・・。

 師匠のマキェベリが切望しても、絶対に得られないような未来が・・・・・。

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 ソクラテスと違ってマキャベリは無事で済みました。
 嘗てのように共謀の嫌疑を掛けられて投獄される事もありませんでした。

 メディチ枢機卿は極めて冷静で、かつ専制的な所は全くない僭主だったのです。 だから自分の暗殺計画であっても、直接加担しなかった人間まで処罰する気など全くなかったのです。

 なるほどこんな人を暗殺したところで市民の支持を得られるはずもないのです。

 しかしマキャベリがこの件でどれほど傷ついた事か・・・・・。
 彼はこの事件について一切書き残していません。
 
 なんて書いたら良いんだろう?

 余りに馬鹿馬鹿しい稚拙な陰謀だから、書けば「馬鹿」としか言いようがない・・・・・。

 でも慈しんできた若い弟子達をそのように断罪するのは、いくらマキャベリストでも耐えられなかったのでしょう。

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 それでもマキャベリはその傷心から立ち直り、今度は金持ちで下品で教養のない友達と組んで、自作の喜劇を上演します。

 そしてこれは大ヒットします。

 フィレンツェのみならずヴェネツィアやローマでも上演されます。

 ヴェネツィアは当時唯一本格的な劇場を持つ都市でしたが、客の入りがあまりに多く劇場がパンクしそうになりました。 
 それで興行主は上演期間を延長して何とか客をさばきました。

 この喜劇「マンドラゴラ」は今もイタリア喜劇の最高傑作の一つとされています。

 当時は著作権なんて概念もないので、幾ら自作の喜劇が大ヒットしても、マキャベリにどれ程の利益があったは不明ですが、しかしこれで彼の名声は女性も含めた文字通り一般庶民にまで知られるようになりました。

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 それにしてもマキャベリは劇作家を目指す意思は全くなかったのですから、「マンドラゴラ」の著作は完全な暇潰しです。
 それでイタリア喜劇史上に残る傑作を書いちゃうなんて・・・・・。

 彼はこの頃、他にも短編小説なども色々書いています。
 これも全部暇つぶしでしょう。

 実は先日ネットで札幌市図書館で「マンドラゴラ」を探したのですが、ちゃんとありました。
 マキャベリ全集に入っていました。

 貸出予約したもんね♪
 
 塩野さんの「我が友マキャベリ」には、まだ日本にはマキャベリ全集の訳本がないと書かれていました。 しかしその後出版されたようです。 

 マキャベリ全集には「君主論」「政略論」などと並んで、こういう戯曲や小説も入っています。

 しかし驚くのは、なんとマキャベリがフィレンツェ政庁に勤務していた時代に書いた報告書までもが入っている事です。

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 官僚や会社員から文筆家にトラバーユした人は結構いるけれど、しかし官僚やサラリーマンだった時代に仕事で書いた報告書に文学的価値を認めて貰える人って、他にいるんだろうか?

 コイツの筆力、表現力、創造力は完全に化け物クラスなのです。

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コメント

 マキャベリの弟子たちのメディチ枢機卿暗殺計画でフランス軍を引き込むのは良いですが、特殊部隊?を枢機卿に知られずに誘導するのは難しいと思います。もしや、大軍を仕立てて貰って一気に降参させるなどと、マキャベリの弟子らしからぬ大雑把な計画をたてたのでは・・・優秀で名家の生まれなどと、恵まれすぎるとポッポちゃんみたいに浮世離れしてしまうのかもしれませんね。

 そしてそんな不詳の弟子を持ったお師匠さんは、馬鹿馬鹿しさに泣くに泣けないからイタリア史上傑作という喜劇をつい書いてしまったのですね。しかも報告書まで、数百年後の日本で出版される筆力とはもの凄く興味が湧いてきました。お読みになったら、是非感想をお聞かせくださいませ。
  1. 2016-07-03 22:44
  2. URL
  3. 都民です。 #-
  4. 編集

マキャベリの人生は、山荘で終わるものだと思っていました。

それが、弟子による要人暗殺未遂で苦境に、そして喜劇の作者に。
「ほんまかいな?」と思いましたね。

>筆力、表現力、創造力は完全に化け物クラスなのです
本当ですネ。
能力というものは、不平等なのですネ。
  1. 2016-07-03 22:59
  2. URL
  3. 道草人 #-
  4. 編集

Re: タイトルなし

>  マキャベリの弟子たちのメディチ枢機卿暗殺計画でフランス軍を引き込むのは良いですが、特殊部隊?を枢機卿に知られずに誘導するのは難しいと思います。もしや、大軍を仕立てて貰って一気に降参させるなどと、マキャベリの弟子らしからぬ大雑把な計画をたてたのでは・・・優秀で名家の生まれなどと、恵まれすぎるとポッポちゃんみたいに浮世離れしてしまうのかもしれませんね。

 メディチ枢機卿の暗殺法やその後の政権収奪法など細かい所はわかりません。

 しかしメディチ枢機卿を暗殺は、フィレンツェ市民の支持を得られないだろうし、フランス王が枢機卿の暗殺者を支援してくれるはずもありません。

 そんなことをしたら現法皇と対立する事になります。 法皇レオーネ十世はメディチ家の当主でもあり、メディチ枢機卿の伯父です。 枢機卿は法皇の意を受けて、フィレンツェを支配しているのですから。

 マジに仰る通り生まれ育ちが良すぎてポッポちゃんになった坊ちゃん達だったとしか言えません。
>
>  そしてそんな不詳の弟子を持ったお師匠さんは、馬鹿馬鹿しさに泣くに泣けないからイタリア史上傑作という喜劇をつい書いてしまったのですね。しかも報告書まで、数百年後の日本で出版される筆力とはもの凄く興味が湧いてきました。お読みになったら、是非感想をお聞かせくださいませ。

 師匠としてはホントにどうしようもないでしょう。
 陰謀が余りに稚拙でお粗末で、マキャベリストとしてはもう評価のしようもないレベルですから。
 
 マキャベリはこの事件の後暫く山荘に引き籠るのですが、これは傷心と弟子達の親と顔を合わせたくなかったからでは?と思ってしまいます。

 だってフィレンツェの街は案外小さいのです。 街を歩いていて弟子の親達と出会ったら、なんて言ったら良いのでしょうか?
 もう何とも言いようがありません。

 それでも良く立ち直ったものです。

 「マンドラゴラ」は前々から読みたかったのですが、しかし昔は翻訳本を探す当てもありませんでした。 でもネットのお蔭で見つかりました。 
 読んだらまた何か書きます。
 
  1. 2016-07-03 23:33
  2. URL
  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

Re: タイトルなし

> マキャベリの人生は、山荘で終わるものだと思っていました。
>
> それが、弟子による要人暗殺未遂で苦境に、そして喜劇の作者に。
> 「ほんまかいな?」と思いましたね。
>
 ほんまですがな。
 
 喜劇作家になる気はなかったと思います。 でもきっと心の中にある人間喜劇を書いてみたくなったんでしょうね。
 
> >筆力、表現力、創造力は完全に化け物クラスなのです
> 本当ですネ。
> 能力というものは、不平等なのですネ。

 そうなんです。
 こういう人を見ていると「神様はなんて不公平なんだ!!」と思います。
 しかもこの男、超不信心なのに!!
  1. 2016-07-03 23:35
  2. URL
  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

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