2016-06-29 12:34

元祖マキャベリストは良い奴だった その7

 昔サラ金のCMでこんな事を言っていました。

 恋の悩みなら聞いてくれる友達が、お金の悩みを話したら、みんな逃げていくのよね。

 至言です。
 しかしマキャベリにはお金の悩みを助けてくれる友達がいました。

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 1512年、マキャベリはフィレンツェ共和国政庁を解雇されました。 43歳の若さでした。

 それだけでも十分災難なのですが、この解雇で退職金を貰うどころか、彼の10年分の報酬相当する額の罰金の支払いまで課せられたのです。

 10年分の報酬に相当する貯金なんか勿論ありません。
 でもこれを友達3人が立て替えてくれました。 それで取りあえず身体の拘束は免れる事ができたのです。

 しかし10年分の報酬に相当する罰金って?
 現代の日本の公務員の感覚からすれば、6000~1億円にもなります。

 それを3人で等分して出したとしても、一人3000万前後は出してくれた事になります。

 返済は期待していなかったと思います。
 だって相手は失業者です。 再就職の目途もありません。

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 マキャベリの友人の中には、フィレンツェを代表する名門出身者も沢山いました。 だからこのようなお金を出せる人達もいたでしょう。

 しかしこの3人の名前はわかっていません。 
 こんな莫大なお金を立て替えてマキャベリを助けた人達の名前がなぜ今も不明なのか?

 でも考えてみれば、この罰金はメディチ政権による懲罰です。 マキャベリが前政権・ソデリーニ大統領一番の側近だったことへの報復なのです。

 だからそういう懲罰を受けた人間を支援した事がわかれば、支援した人達だってメディチ政権から睨まれるのです。
 助けてくれた人達に迷惑を掛けない為には、彼等の名前は絶対に出せないのです。

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 ともあれこのようなリスクを取ってまで、マキャベリのお金の悩みを助けてくれた友人達がいたのです。

 マキャベリと言う人は、著書の中では人間に対して完全な性悪説を取っているのですが、しかしそういう人間観は実は政治と権力に関わる問題についてだけの話でしょう。

 彼個人の実生活では生涯多くの人々と、強い友情で結ばれていました。
 そして家庭生活もまた幸福でした。

 それは彼自身が明るく開放的で友情に篤い人だったからでしょう。
 文字通り「良い奴」なのです。

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 しかし罰金を支払ってもまだ不幸は続きました。

 政庁を解雇されて間もなく、今度は反メディチ陰謀に加わったと言う全く身に覚えのない嫌疑を掛けられて、逮捕されたのです。

 そして拷問を受けた後、地下牢に投げ込まれました。 
 日も射し込まず、虱と悪臭の充満する地下牢の生活。
 これが終わる日が来るのだろうか・・・・・。

 しかし数か月後奇跡のように出獄できました。

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 マキャベリが入牢中に外患誘致を繰り返した法皇ユリウス二世が死に、新しい法皇レオーネ十世が即位したのです。

 レオーネ十世はロレンツォ・デ・メディチの次男でフィレンツェ出身です。 フィレンツェ出身者の法皇即位は、これまでなかったのです。

 全フィレンツェが祝意に湧きかえりました。
 その祝祭で多くの囚人を恩赦したのです。

 マキャベリの友人達のうち、新法皇と縁故のある人達は、この機会を捉えて法皇にマキャベリの釈放を頼み込みました。

 この友人達の願いを法皇が聞いたのでしょう。 マキャベリは牢獄を出る事が出来たのです。
 
 当に「持つべき物は友」です。

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 こうして友人達の助けにより何とか出獄したマキャベリですが、しかし出獄後一ヶ月余りでフィレンツェ市内の自宅を引き払って、郊外の山荘に移り住みます。

 失業者になり友人達から多額の借金をしている身では、経済的に市内での生活を維持する事が不可能になったのです。

 しかしこれはこうした友人達と離れて暮らす事になるのですから、友達付き合いが大好きなマキャベリにとっては大変辛い生活になりました。

 この山荘での日々、彼を支えたのは、友人達との文通と「君主論」など著作でした。

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コメント

歴史上の人物の人となりと逸話の真相

初めまして。
ご隠居さんの所からこちらにお邪魔するようになって、随分経ちますが、初めてコメントさせて頂きます。
よもぎねこさんのブログは、イザ時代から愛読しています。

マキャベリがこんなに魅力的な人物だったとは、よもぎねこさんの読み聞かせで初めて知りました。

他の記事ももちろん楽しく読ませていただいています。

ところで、今回の記事でふと思った事があります。
マキャベリを援助した人達に迷惑がかからないよう、配慮し名前を公表しなかった、という下りです。

私はこれで、飛び梅伝説の真相は、もしかしたらこういう事では無いのか、と思いました。
菅原道真の愛好した梅の一枝を流刑地まで送り届けた人物が居た。
それは政争に敗れた道真公を表立って助けられない親しい人物ではないのか。
あるいは史書に名を載せられない低い身分の人物だったかもしれません。
例えば道真公のお屋敷で庭師をしていた人物が、流刑に処された主人を慕い決死の旅路を走ったとか。

なんだか少年漫画が1本書けそうな感じですね。
庭師はさすがに妄想を膨らませ過ぎたと思いますが(*´▽`)ゞ
  1. 2016-06-29 21:41
  2. URL
  3. 考えるもやし #-
  4. 編集

私は高校の時に世界史取ってなかったので、ヨーロッパの知識が欠落してることが多かったのですが、同居人さんのマキャベリ解説とてもためになりました。
そういやヒトラーの『わが闘争』も要塞拘置所で書かれたのでした。
  1. 2016-06-30 00:35
  2. URL
  3. Spring-moto #-
  4. 編集

 明るく開放的で友情に厚く、身を捨てて国を想う能吏であったマキャベリ。現在でも彼のようにありたいと願う人は多いのではないかと思います。

 メディチ家はドラマチックで個性的な人物を輩出していますが、このレオーネ10世は明るくて享楽的で有能な方だったそうで、もしマキャベリが側近だったら面白いことが起きたかもしれないと思います。

 お話の続きが、ますます楽しみになって来ました。
  1. 2016-06-30 07:37
  2. URL
  3. 都民です。 #-
  4. 編集

Re: 歴史上の人物の人となりと逸話の真相

> 初めまして。
> ご隠居さんの所からこちらにお邪魔するようになって、随分経ちますが、初めてコメントさせて頂きます。
> よもぎねこさんのブログは、イザ時代から愛読しています。
>
> マキャベリがこんなに魅力的な人物だったとは、よもぎねこさんの読み聞かせで初めて知りました。
>
> 他の記事ももちろん楽しく読ませていただいています。

 有難う御座います。 前々から書いてみたいと思っていた事なので、書き出したら予定を超えて随分長くなりました。
 皆さんが飽きるんじゃないか心配していたのですが、楽しんで頂けてうれしいです。

 マキャベリって良い奴なのです。 その良い奴が、しかし極めて厳しく冷徹な目で政治と権力の現実を見ていた事が非常に興味深いのです。
>
> ところで、今回の記事でふと思った事があります。
> マキャベリを援助した人達に迷惑がかからないよう、配慮し名前を公表しなかった、という下りです。
>
> 私はこれで、飛び梅伝説の真相は、もしかしたらこういう事では無いのか、と思いました。
> 菅原道真の愛好した梅の一枝を流刑地まで送り届けた人物が居た。
> それは政争に敗れた道真公を表立って助けられない親しい人物ではないのか。
> あるいは史書に名を載せられない低い身分の人物だったかもしれません。
> 例えば道真公のお屋敷で庭師をしていた人物が、流刑に処された主人を慕い決死の旅路を走ったとか。

 実はこのくだりは、ネタにした塩野さん「我が友マキャベリ」ではサラっと友人が立て替えてくれた事実だけを書いています。
 名前もわからないのでこれ以上は書きようがないのですが、しかし年収の何倍もの、しかも返済が怪しいお金を出してくれると言うのは、大変な話です。

 そういう友達を持てたのですから、本人が「良い奴」だったとしか思えないのです。

> なんだか少年漫画が1本書けそうな感じですね。
> 庭師はさすがに妄想を膨らませ過ぎたと思いますが(*´▽`)ゞ

 京都から梅を運搬するのは無理でも、庭師が道真を追って行き、また梅を植えたのかもしれません。
  1. 2016-06-30 10:09
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  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

Re: タイトルなし

> 私は高校の時に世界史取ってなかったので、ヨーロッパの知識が欠落してることが多かったのですが、同居人さんのマキャベリ解説とてもためになりました。
> そういやヒトラーの『わが闘争』も要塞拘置所で書かれたのでした。

 おかずかしいです。 色々間違っている所もあるかも知れないのに。

 でも楽しんで頂ければ嬉しいです。
  1. 2016-06-30 10:10
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  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

Re: タイトルなし

>  明るく開放的で友情に厚く、身を捨てて国を想う能吏であったマキャベリ。現在でも彼のようにありたいと願う人は多いのではないかと思います。

 そうでしょう?
 理想の上司です。

>  メディチ家はドラマチックで個性的な人物を輩出していますが、このレオーネ10世は明るくて享楽的で有能な方だったそうで、もしマキャベリが側近だったら面白いことが起きたかもしれないと思います。
>
>  お話の続きが、ますます楽しみになって来ました。

 レオーネ十世はイタリアを守ると言う意味では有能だったし、ルネサンス文化の大パトロンでした。
 しかしそれ故かマキャベリの出番はあまりありませんでした。

 でもレオーネ十世の二代後、1526年に即位したやはりメディチ家の法皇クレメンテ7世の側近のグィチャルディーニと親しくなったことから、彼とイロイロ関わる事になります。

 でもお蔭でイタリアルネサンスの終焉に立ち会う事になるのです。
  1. 2016-06-30 10:38
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  3. よもぎねこ #-
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