2016-06-28 12:10

元祖マキャベリストは良い奴だった その6

 高卒官僚マキャベリの人生最良の日々は、しかし長くは続きませんでした。

 イタリア半島と彼の祖国フィレンツェを取り巻く状況は、益々深刻化して行きました。

 1508年のベネツィアの対仏戦争の敗北で、イタリア半島での軍事的プレゼンスが極大化しました。

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 ベネツィア憎しで対ベネツィア同盟(カンブレー同盟)を作り、フランス軍をイタリアに引き込んだローマ法王も、ようやくその恐ろしさに気づきました。

 またフランスと同盟してヴェネツィアと闘うはずだった国々も、自分達が参戦する前にフランスが一人勝ちして、ヴェネツィア領の多くを占領した事に不満を抱きました。

 そしてヴェネツィアはこれ付け込みます。 つまり法皇、神聖ローマ帝国、スペインを反仏に向かわせたのです。

 ローマ法王ユリウス二世はこれにのります。
 法皇は、今度は反仏同盟を結成して、イタリア半島からフランスを追い出しにかかります。 

 自前の軍隊を持たない法皇にすれば、フランスを追い出すにはこうするしかないのです。

 しかしこれはまた新たなる外患誘致です。
 つまり自分で誘致した外患フランスを追い出す為に、神聖ローマ帝国やスペインと言う外患を誘致するのですから。

 結局これはイタリア半島が、これらの大国勢力争いの戦場になる事を意味します。 

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 そしてマキャベリの祖国、フィレンツェ共和国は外交上実に厄介な立場に追い込まれました。

 フィレンツェ共和国はフランス王の庇護を受けていました。 一方ローマ法王との友好関係も絶対必要です。

 ところがその法皇とフランスが敵対するのですから。

 軍事的に最強なのはフランス。
 だからフランスと敵対してはならない。
 しかしそれで法皇、スペイン、神聖ローマ帝国を敵に回してはならない。
 ここはもうどちら側にもつかないで逃げ切るしかない。
 
 これがマキャベリの読みであり、フィレンツェ共和国の外交方針になりました。
 
 しかしフランス王は自分の被保護者であるフィレンツェを、フランス側に立たせるように追い込んできます。 

 マキャベリは外交の最前線に立って、これを食い止めました。

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 一方こうしてフィレンツェ共和国が外交戦を戦っている間に、対仏同盟対フランスは、本物の戦争に突入しました。

 ラヴェンナの戦いです。 重装騎兵が中心になる中世式の戦法による戦争として史上最大と言われた戦闘でした。

 勝利したのはフランスでした。
 マキャベリの読みは正しかったのです。

 ローマ法王は恐れ戦き、フランス軍のローマ進軍を予測して、ローマからの避難の準備を始めました。

 しかし勝利したはずのフランス軍は、完全に混乱状態に陥っていました。 
 総司令官がこの戦いで戦死していたのです。

 この時代はフランス軍と雖も多くの傭兵と、フランス王の臣下である封建諸侯の寄せ集めでした。 
 だから総司令官が戦死してしまうと、これから誰が指揮を執るべきか?ハッキリしないと言うお間抜けな状態になってしまいました。

 フランス軍はこれで身動きが取れなくなってしまったのです。

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 つまり戦場で指揮官が死亡すると、こういう事になるのです。

 少し脱線するけど、ローマ皇帝についてエントリーした時、軍人皇帝時代について書きました。

 軍人皇帝時代と言うは、戦場で皇帝が暗殺された場合、兵士達が勝手にその場で新しい皇帝を選んでしまうと言う時代なのです。

 それで選ばれるのは、その場で戦闘指揮ができる軍人ばかりと言う事になります。

 しかし指揮官を喪ったら、直ぐに新しい指揮官を立てたローマ軍と、ひたすら混乱を続けたフランス軍を比べたら、軍の組織としては、ローマ軍の方が遥かにシッカリしていたと言うべきでしょう。

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 と言うわけで、そこでフランス軍は戦場近くの街に留まって延々と小田原評定を続けた挙句に、フランス王が驚くべき決断を下します。

 全軍撤退!!

 ハア?
 だってフランス軍は勝ったんだよ?
 次の司令官を任命して送り込めば、進軍できるんじゃないの?
 これじゃ何のための戦争をしたの?

 しかしフランス王は撤退しちゃったのです。

 これでヴェネツィアは、対仏戦争で喪った領土を全部取り戻しました。 

 ヴェネツィア外交大勝利!!

 けれどもこれはフィレンツェには、トンデモナイ厄災になりました。

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 フランス軍が撤退した後、フランス軍に敗戦したスペイン軍の敗残兵の大軍が、フィレンツェに迫ったのです。

 そしてメディチ家の復帰と莫大な軍費の支払いを要求しました。
 
 フィレンツェ共和国側は勿論これを拒否します。
 
 フィレンツェと近郊都市の城壁を固め、フィレンツェ共和国正規軍を招集配備して、迎え撃つ事にしたのです。

 マキャベリは今度は城壁の強化に奔走しました。

 この頃にはマキャベリの造ったフィレンツェ共和国正規軍は歩兵9000に加えて砲兵300、騎兵も数百と言う規模になっていました。

 これならフィレンツェの防衛は大丈夫!!と思ったのは当然でしょう。

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 しかしフィレンツェから18キロの小都市プラトーが、あえなく陥落しました。 防衛に当たっていたフィレンツェ共和国正規軍4000人が殺され、プラトー市内は阿鼻叫喚になりました。

 創設間もないフィレンツェ正規軍は、訓練不足で、ベテラン傭兵の軍団には勝てなかったのです。

 フィレンツェ市民はこれに慄然としました。 そして動揺し始めたのです。

 そんな中、5人の市民がフィレンツェ政庁に乗り込み、武力でソデリーニ大統領に退位を迫りました。

 彼等はフィレンツェの名門出身者で、かねてよりソデリーニ政権を「平民政権」と唾棄していたのです。 しかし正義の人、法の人であったソデリーニ大統領は敢えて彼等を取り締まる事はしてこなかったのです。

 正義の人、法の人、民主主義が第一のソデリーニ大統領は、アッサリとこれを入れて、フィレンツェを去りました。

 こうして魔法のようにあっけなくフィレンツェの共和政は崩壊し、メディチ家が復帰したのです。

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 フィレンツェ共和国はスペインから求められていた、軍費を拠出すると、スペイン軍は金を持って本国に帰りました。

 それにしてもスペイン敗残兵が何でメディチ家復帰など求めたのか? 
 勿論、メディチ家と気脈を通じていたからです。 メディチ家がスペイン兵を金で買ったとも言われています。

 メディチ家はしかしフィレンツェの実質的な支配権は握っても、形式では民主制を守るつもりでした。
 
 その為、亡命したソデリーニ大統領の後任は、親メディチでも反メディチでもない中立と言える人間でした。
 そして官僚達もそのまま残りました。

 マキャベリとマキャベリの補佐役で親友だったピアジオ・ブオナコルシの2人を除いては・・・・・・。

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 マキャベリとブオナコルシの2人は解雇されたのです。
 マキャベリのポストにメディチ家のスパイを就ける為です。

 だってマキャベリが官僚として猛烈に働いている間に、マキャベリの所にフィレンツェ共和国の全情報が集まるようになっていたのです。

 だからここにメディチ家のスパイを入れたら、メディチ家としたら完全にフィレンツェ共和国政府内の情報を掌握できるのですから。

 そこで邪魔になった二人は解雇されて、フィレンツェ政庁から追い出されたのです。

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 こうして元祖マキャベリストの人生最良の日々は、終わったのです。
 29歳で第二書記官長として就職してから15年。
 43歳にしてまた失業者になったのです。

 後に彼を「近代政治学の祖」と言わしめた著作の数々は、この失業者として日々の中で生まれました。

 天職だった仕事を43歳の若さで奪われたマキャベリは、書くことで何とか生きる道を見出そうとしたのです。

 そして再就職への希望も・・・・・・。

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コメント

マキャベリの話はとても面白く有難うございます。

今回も興味深く読ませていただきました。むかし、読んだ塩見七生の世界などが、整理されて全体像が少しは把握できるようになり、有難うございます。ところで前回、コメントさせていただいた「ヨーロッパの夢」の拙コメントに返事を戴き有難うございました。小生のいいたかったのは、近代、特にルネッサンス以降のいわゆるヨーロッパ人がギリシャ世界を根拠にヨーロッパを意識しすぎる点の批判にあります。与謝野鉄幹の「人を恋うる唄」にあるようにバイロン、ハイネもすでにギリシャと無縁になったギリシャに過剰な憧れと期待を持ち過ぎた感があることを指摘したかったのです。そして、もう一つ、EUの原点には、キリスト教(カソリック、プロテスタントを含む)アありますが、ロシア(ギリシャ)正教を含んでいなかったのではないでしょうか?それに現在のEUには、いわゆるヨーロッパ世界以外からの移民の問題も加わっている。いわゆるヨーロッパ世界の再編成には相当な時間が必要と愚考します。そこに至るまでに中国など別の勢力の動向が懸念されます。
  1. 2016-06-28 20:08
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  3. 酔っ払い爺さん #-
  4. 編集

 マキャベリは、リアリストとしてフランスを選んだのは正しかったと思います。ただルイ12世があんなにアッサリ撤兵するとは、いくらなんでも予測不可能ですよね。そして優秀過ぎるからメディチ家に解雇されてしまうとは・・・

 失業したマキャベリのその後が気になります。
  1. 2016-06-28 20:46
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  3. 都民です。 #-
  4. 編集

Re: マキャベリの話はとても面白く有難うございます。

> 今回も興味深く読ませていただきました。むかし、読んだ塩見七生の世界などが、整理されて全体像が少しは把握できるようになり、有難うございます。ところで前回、コメントさせていただいた「ヨーロッパの夢」の拙コメントに返事を戴き有難うございました。小生のいいたかったのは、近代、特にルネッサンス以降のいわゆるヨーロッパ人がギリシャ世界を根拠にヨーロッパを意識しすぎる点の批判にあります。与謝野鉄幹の「人を恋うる唄」にあるようにバイロン、ハイネもすでにギリシャと無縁になったギリシャに過剰な憧れと期待を持ち過ぎた感があることを指摘したかったのです。

 確かにギリシャへの過剰な思い入れはありますよね。 
 
 そもそもギリシャ人は古代ローマ帝国に征服されて以降「自分達はローマ人」と認識するようになったのですから。 それを遥か彼方のイギリス人とドイツ人が勝手にギリシャ!!ギリシャ!!と言うなんて・・・・。

 でもギリシャの更にユーロ加盟は、結局このゲルマン人やアングロ・サクソンの勝手な思い入れがあってこそ可能だったのでしょう。

 結果は無残だったけれど。

>そして、もう一つ、EUの原点には、キリスト教(カソリック、プロテスタントを含む)アありますが、ロシア(ギリシャ)正教を含んでいなかったのではないでしょうか?それに現在のEUには、いわゆるヨーロッパ世界以外からの移民の問題も加わっている。いわゆるヨーロッパ世界の再編成には相当な時間が必要と愚考します。そこに至るまでに中国など別の勢力の動向が懸念されます。

 そうですね。 EU内でギリシャ正教はギリシャとブルガリアやルーマニアなど東欧諸国だけれど、元来EUの中心はカソリックとプロテスタントだけですからね。
 
  1. 2016-06-28 22:02
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  3. よもぎねこ #-
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Re: タイトルなし

>  マキャベリは、リアリストとしてフランスを選んだのは正しかったと思います。ただルイ12世があんなにアッサリ撤兵するとは、いくらなんでも予測不可能ですよね。そして優秀過ぎるからメディチ家に解雇されてしまうとは・・・

 ホントにルイ12世は何を考えていたんだか?
 マキャベリにも予測不能な馬鹿だったんですよね。
>
>  失業したマキャベリのその後が気になります。

 マキャベリが近代政治学の祖、それにイタリア文学史にも輝く仕事ができたのは、失業したからですが、本人には非常に辛い日々でした。
 カワイソウに・・・・。
  1. 2016-06-28 22:09
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  3. よもぎねこ #-
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