2016-06-26 14:34

元祖マキャベリストは良い奴だった その5

 1508年、ベネツィア共和国が対フランス戦争で惨敗して以降、イタリア半島はフランス、ドイツ、スペインなど大国の争乱の場となりました。

 イタリア半島は地獄への坂道を転げ落ちて行きます。

 しかし元祖マキャベリストことニコロ・マキャベリにとっては人生最良の日々でした。

 だって祖国の為に全てを擲って働く日々だったのですから。

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 マキャベリはフィレンツェ共和国の外交実務担当者のトップとして、情報を分析し対策を立てる事に追われました。
 
 しかしそれだけではなくフィレンツェの国防体制を変換させるために活動したのです。

 その3で書きましたが、フィレンツェ共和国は当時の他のイタリア小国家同様、軍事力を傭兵に依存していました。
 しかしこの傭兵による国防には問題が多いと言う事も、その3で書いた通りです。

 そこでマキャベリは徴兵制による軍隊を創設して、フィレンツェ人が自ら国家を守る体制を作ろうとしたのです。

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 金の為に闘う軍隊ではなく、祖国を守る為に愛国心で戦う軍隊を作ろうとしたのです。

 これにはモデルがありました。

 まず古代ギリシャやローマです。

 当時の教養人なら誰でも、古代ギリシャやローマの軍隊は市民の徴兵制で成り立つ事を知っていました。
 哲人ソクラテスだって、アテネが戦争する時は一兵卒として従軍し、勇敢に戦った事は、プラトンの「饗宴」で語られています。

 またイタリア半島の最強国ヴェネツィア共和国の海軍は、徴兵制を採用していました。
 海洋国家ヴェネツィアの防衛の主力は海軍ですから、国防の基本を徴兵制に置いていたと言えます。

 そしてチェーザレ・ボルジアも自身が征服支配した地域で、徴兵制による軍隊の創設を試みていたのです。

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 もう傭兵で大国の侵攻に対応できる時代ではない。
 市民自ら国家を守らなければ、フィレンツェは生き延びる事はできない。

 マキャベリはフィレンツェ共和国の置かれた危機的状況と、傭兵制の問題を説いて、政治家達を動かしにかかりました。

 その為にこれまでの危機的状況の進行を「十年史」としてまとめた本を書いて有力政治家に捧げました。
 これは評判が良くマキャベリ人生最初の出版物になります。

 勿論政治家達はこれに必要な経費や財源を問題にしますから、マキャベリはそれに対する答えも用意しました。

 そうやって民主主義が第一のケチで優柔不断なフィレンツェ政府を説得して、遂に「フィレンツェ共和国正規軍」創設に成功したのです。

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 尤も幾らなんでも一度に完全な徴兵制なんて不可能でした。 
 
 だからまずは、フィレンツェ近郊の農民の志願兵による軍隊になりました。
 規模も総勢200人と言う実に慎ましいものでした。

 それでも外国人ではく、フィレンツェ共和国領出身者だけによる軍隊です。
 なによりもフィレンツェ共和国初の自前の軍隊なのです。

 しかしマキャベリは、事ある毎にこのフィレンツェ正規軍に市内の広場でパレードをさせて、一般市民へのアピール繰り返します。

 そして一般市民の賛同を梃に、さらに上層部を説得して、規模を拡大させていきました。

 このようにして遂にフィレンツェ共和国正規軍は、総勢4000人にまで拡大しました。
 ここまでくれば立派な軍隊です。

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  す、凄い!!
 何気に凄いよ!!

 これってフィレンツェ史上初の大変革じゃん!!

 今の日本で言えば、日米安保だけじゃダメだから徴兵制を復活して、日本人の手で日本を守る体制に変えようと言うぐらいの話でしょう?

 それを門地も学歴もない高卒官僚が、一人で政治家を動かし、市民に訴えてやり遂げたんだよ!!

 優柔不断、ケチで、民主主義が第一のフィレンツェ政府を動かして、ここまでやったんだよ!!

 コイツ、ホントに大変な男だよ!! 

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 このフィレンツェ共和国正規軍の初陣はピサ戦役でした。
 
 実はフィレンツェはマキャベリが就職するずうっと前から、ピサと戦争をしていました。 ピサ領有はフィレンツェの安全保障に極めて重要だったからです。

 しかしこの戦争を請け負った傭兵隊長は、毎度勝利目前になるとサボタージュするのです。
 だって勝利したら仕事がなくなって契約打ち切りですから。

 だからいつまで経っても戦争が終わらないのです。

 しかしフィレンツェ共和国正規軍を投入すると、このピサ戦役も一発でケリがつきました。

 フィレンツェ共和国は遂にピサの領有権を獲得したのです。

 これには全フィレンツェ市民が狂喜しました。
 マキャベリの正規軍創設案に懐疑的だった連中だって、手放しで喜んだのです。

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 この頃にはマキャベリは事実上の大統領補佐官になり、外交だけでなく、国防や内政も仕切るようになります。

 でも給料も肩書きも、就職当時のフィレンツェ共和国第二書記官長のままです。

 そんなことどうもエエわい!!
 オレの夢がドンドン実現していくんだ。
 祖国の未来を拓くんだ!!
  
 仕事が終わると部下や同僚を引き連れて、居酒屋へ繰り出す。
 そこで上司の陰口や猥談になれば、みんなマキャベリの当意即妙、機智横溢な話に笑い転げる。

 チョッと、アンタ達好い加減になさいよ!
 そんなに騒いじゃ他のお客さんに迷惑だわよ!

 居酒屋の女将に怒鳴られると、一瞬シュンとなるけど、またすぐ盛り上がって爆笑の渦!!

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 どうですか?
 マキャベリみたいな奴が上司や同僚だったら?
 最高でしょう?
 良い奴でしょう?

 マスコミではよく「有名人の中で理想の上司と思えるのは誰?」なんてアンケートをやりますよね。

 ワタシだったら絶対「ニコロ・マキャベリ!!」と答えます。

 特に官僚なら、もう他に選択肢はありません。
 
 マキャベリのような上司の下なら、毎日明るく楽しく働きながら、自分の仕事が祖国を救うと確信できるのですから。

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 こうしてマキャベリの部下や同僚達もまた最良の日々を過ごしました。
 その上歴史に名が残りました。

 マキャベリの同僚や部下は皆、マキャベリの同僚や部下であったことによって、今もその名が残っているのです。 

  1. 古本
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コメント

ありがとうございました♪
私の場合その頃の物事の骨格を思い出したというより、整理して貰ってはじめて理解したような気もします。

しかし冷徹かどうかは置いておくとして、リアリストが大きな働きを出来るってことは、その他大勢がいかに本質からずれたことに惑わされてるかってことですね。
ヨーロッパの移民問題もアメリカのポリティカルコレクトネスも私には良くわかんないんですが・・・
ことによって、み~んなへんなところへ迷い込んでるだけのような・・・

日本人だって酷いもんですが、気付き始めてる人が結構増えてきているって意味で、捨てたもんじゃないのかな。
はとぽっぽとかイラカンとか、巷の気付きを促進したという意味では大功労者だったりして・・・

そういえば私、一昨日でしたか、私の感覚ではもっとも唾棄すべきオバハンが参院選で近所に来ていました。
つい写真撮っちゃった。
多分私、えもいわれぬ顔をして写真撮ってたんじゃないかと・・・(^_^;
  1. 2016-06-26 20:39
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  3. にゃんこ #w2VY/Wec
  4. 編集

ありがたく拝読

マキャベリの連載、ありがとうございます。
確かに理想の上司ですネ。
しかも同僚などは、彼のおかげで歴史に名が残るなど。

このブログを読むまでは、マキャベリは気難しい学者のイメージでした。
またそういう政治論を実践して、自前の軍を作るなど、傑出した人材だったわけです。

フィレンツェがピサを征服して港を得たと、ぼんやりと記憶していましたが、その裏にはこういう事情があったわけですか。知識がつながりました。
  1. 2016-06-26 21:56
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  3. 道草人 #-
  4. 編集

Re: タイトルなし

> ありがとうございました♪
> 私の場合その頃の物事の骨格を思い出したというより、整理して貰ってはじめて理解したような気もします。

 お恥ずかしいです。
>
> しかし冷徹かどうかは置いておくとして、リアリストが大きな働きを出来るってことは、その他大勢がいかに本質からずれたことに惑わされてるかってことですね。

 その通りだと思います。
 あるイタリアの大文学者はマキャベリを「目を開けて生まれた男」と評しました。

 その他大勢が「あるべき現実」を見ようとしていた時に、マキャベリは常に本当の現実を見ていたのです。
 そして彼にはその見た物を、見えない人々に説明して解らせてやることのできる、弁才と文才があったのです。

> ヨーロッパの移民問題もアメリカのポリティカルコレクトネスも私には良くわかんないんですが・・・
> ことによって、み~んなへんなところへ迷い込んでるだけのような・・・

 ワタシもこのポリティカルコレクトネスって大嫌いです。
 
 結局、「あるべき現実から外れた事は、絶対言ってはイケナイ」と言う事でしょう?

 しかし現実の世界で生きていくうえでは、こうしたポリティカルコレクトネスを守る事が必要なのでしょう。 ところが「目を開けて生まれた男」にはこれが理解できなかったようです。
 
 だからリストラされてから再就職に困る事になります。
 
> 日本人だって酷いもんですが、気付き始めてる人が結構増えてきているって意味で、捨てたもんじゃないのかな。
> はとぽっぽとかイラカンとか、巷の気付きを促進したという意味では大功労者だったりして・・・

 ハハハ、ポリティカルコレクトネスの本質がなんであるかを、世に知らしめる為に生まれてきたような連中ですからね。

> そういえば私、一昨日でしたか、私の感覚ではもっとも唾棄すべきオバハンが参院選で近所に来ていました。
> つい写真撮っちゃった。
> 多分私、えもいわれぬ顔をして写真撮ってたんじゃないかと・・・(^_^;

 ハハハ、その写真も閲覧注意でしょう?
  1. 2016-06-26 22:47
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  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

Re: ありがたく拝読

> マキャベリの連載、ありがとうございます。
> 確かに理想の上司ですネ。
> しかも同僚などは、彼のおかげで歴史に名が残るなど。
>
> このブログを読むまでは、マキャベリは気難しい学者のイメージでした。
> またそういう政治論を実践して、自前の軍を作るなど、傑出した人材だったわけです。

 だって高卒ですからそもそも学者肌ではないのです。
 仕事の上では完全な実務派です。

 そして気難しいどころか、やたらに陽気で人懐こい奴です。

 こうしたマキャベリの人格は、著書からは想像できないでしょう?

 でも実は彼はイタリア喜劇の最高傑作と言われる「マンドラゴラ」作者でもあるのです。 塩野さんに言わせると、その登場人物の一人カリマーコと言い奴が「なにやらマキャベリを思わせる」のだそうです。
>
> フィレンツェがピサを征服して港を得たと、ぼんやりと記憶していましたが、その裏にはこういう事情があったわけですか。知識がつながりました。

 実はマキャベリが最初に折衝に行かされた傭兵隊長と言うのが、このピサ戦役でサボタージュをした奴なのです。
 マキャベリはこいつに振り回されて散々な思いをしたことで、傭兵の本性を思い知ったのでしょう。
  1. 2016-06-26 22:54
  2. URL
  3. よもぎねこ #-
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 マキャベリは偉い!出世や報酬の為でなく、国の為にコツコツ仕事をして仲間と飲んで歌って冗談を言って、でもこれって会社の為に24時間戦えますか!だった昭和のお父さん方にも通じますね。よもぎねこさんのお話を聞いていたら、何だかマキャベリが日本のサラリーマンにもいそうな身近な感じがして来ました。

 でもあの戦うのは傭兵に任せれば良いわ、なんて我が国のおサヨクのようなフィレンツェで、徴兵制を布いて自分の国は自分で守る体制を作り上げたのはやはり官吏の中の官吏と言えます。これは是非、時代を超えて我が国に来て頂きたいです。出来たら、次の都知事に・・・

 国を守ると言えば、ベトナムがフランスや中国や米国に負けなかったのは国民の意思の力だと思います。ベトナムの亡くなったボー・グエン・ザップ将軍将軍は、2004年にCNNが行ったインタビューの中で、「自由に勝るものはない」と述べ、ベトナム人は決して誰の奴隷にもならないと語ったそうで、見習わなければならないと思います。
  1. 2016-06-26 22:55
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  3. 都民です。 #-
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Re: タイトルなし

>  マキャベリは偉い!出世や報酬の為でなく、国の為にコツコツ仕事をして仲間と飲んで歌って冗談を言って、でもこれって会社の為に24時間戦えますか!だった昭和のお父さん方にも通じますね。よもぎねこさんのお話を聞いていたら、何だかマキャベリが日本のサラリーマンにもいそうな身近な感じがして来ました。

 そうです。 この人は民主主義国家の官僚と言う事で、現代人と凄く近い立場なのです。 同じ時代の歴史的人物は王侯貴族とか、現代人にはあり得ない立場なのですけどね。

 だから彼のお金や生活の悩みなんかも、切実にわかるんです。
 フィレンツェ政府がケチだから、いつも出張費が足りずに苦労していたのです。

 だから塩野さんもマキャベリの評伝の題を「我が友マキャベリ」としたのでしょう。
>
>  でもあの戦うのは傭兵に任せれば良いわ、なんて我が国のおサヨクのようなフィレンツェで、徴兵制を布いて自分の国は自分で守る体制を作り上げたのはやはり官吏の中の官吏と言えます。これは是非、時代を超えて我が国に来て頂きたいです。出来たら、次の都知事に・・・

 ワタシは外務省か財務相の事務次官になって欲しいのですが、でも高卒じゃ入省できませんよね?

>  国を守ると言えば、ベトナムがフランスや中国や米国に負けなかったのは国民の意思の力だと思います。ベトナムの亡くなったボー・グエン・ザップ将軍将軍は、2004年にCNNが行ったインタビューの中で、「自由に勝るものはない」と述べ、ベトナム人は決して誰の奴隷にもならないと語ったそうで、見習わなければならないと思います。

 自由は自分の力で守らなくちゃ!
  1. 2016-06-26 23:24
  2. URL
  3. よもぎねこ #-
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面白く読みました。
マキャベリの逆が三菱自動車の不正社員のことを書いた「空飛ぶタイヤ」ですね。この本は会社(わたくし)を取るか公(社会、おおやけ)を取るか、というのがテーマだから少し違うのですが、言いたいのは出てくる社員のことです。本の批評で読むと三菱社員は、当事者意識がなく評論家で、プライド高く責任感危機感なし、保身だけは敏感、学歴などのヒエラルキーが自分の根拠だから人をそれで判断し、自分の立ち位置を決める。上にはおもねる、下には冷酷、特権におごり既得権を守る。受験エリートを集めるとこういうことになるらしい。だが、三菱に限らず、世間一般どの時代も同じじゃないですかね。その中でマキャベリのような人が光るわけだ。それと、参謀がいかに大切か、信長もボルジアも参謀が居なかったんじゃないか。読後の思いつくままですいません。
  1. 2016-06-27 10:21
  2. URL
  3. #LkZag.iM
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Re: タイトルなし

> 面白く読みました。

 有難う御座います。 楽しんで頂けてうれしいです。

> マキャベリの逆が三菱自動車の不正社員のことを書いた「空飛ぶタイヤ」ですね。この本は会社(わたくし)を取るか公(社会、おおやけ)を取るか、というのがテーマだから少し違うのですが、言いたいのは出てくる社員のことです。本の批評で読むと三菱社員は、当事者意識がなく評論家で、プライド高く責任感危機感なし、保身だけは敏感、学歴などのヒエラルキーが自分の根拠だから人をそれで判断し、自分の立ち位置を決める。上にはおもねる、下には冷酷、特権におごり既得権を守る。受験エリートを集めるとこういうことになるらしい。だが、三菱に限らず、世間一般どの時代も同じじゃないですかね。その中でマキャベリのような人が光るわけだ。

 ワタシ自身が低学歴だから言うわけだけれど、人間は身分とか学歴とか、能力以外で自分の立場を保障する物があると、結局それに縋るのでしょうね。

 高学歴の人達と言うのは、それ相応に頭は良いはずだし、勤勉でもあるのだと思います。

 でも組織の大多数の人が学歴に縋って保身を第一にしてしまえば、頭は組織の役には立たないのでしょうね。 実は三菱自工の株を持っていたので無茶苦茶腹が立つんですが。

>それと、参謀がいかに大切か、信長もボルジアも参謀が居なかったんじゃないか。読後の思いつくままですいません。

 参謀は二人ともいませんでしたね。
 二人とも完全な独断専行型です。

 だから本人が病気で倒れたらそれでオシマイだったのです。
  1. 2016-06-27 12:27
  2. URL
  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

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