2016-06-25 12:55

元祖マキャベリストは良い奴だった その3

 マキャベリの「君主論」と言うのは、実は大変短い本です。 注釈とかいろいろついていも、文庫本で厚さが5mmもありません。

 しかしこの本結構読みにくいのです。
 ワタシも高校の時に読んでみたのですが、今一良くわかりませんでした。

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 理由は簡単です。
 この本は実はチェーザレ・ボルジアを中心に、彼の家臣や敵との関わりを通じて、「君主はいかに行動するべきか?」を述べているのです。

 その中でチェーザレ・ボルジアの倫理も道徳も無視した、目的の為には手段を択ばない、「優雅なる冷酷」とまで言われた政治手法を、全面的に肯定しているのです。

 しかし日本人はチェーザレ・ボルジアも同時代のイタリアの情勢も全然知りませんよね?
 だから日本人が君主論を読むと、知らない人や知らない話しばかり出てきます。

 それで全然面白くないし、今一意味のわらないまま「力は正義なり」とか「目的の為には手段を選ばず」とか言う部分だけが、印象に残る事になります。

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 しかしこれは日本人に限らず、イタリア史に詳しくない外国人なら皆同様でしょう。

 これがマキャベリズム=冷酷非情な権謀術策主義として理解されてきた最大の理由でしょう。

 例えば日本では織田信長について書いた本が沢山でています。
 しかし信長と戦国時代について知らない人が読んだら、良くわからなくて全然面白くないし、作者の意図だってちゃんと理解するのは無理でしょう?
 
 それと同じです。

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 因みにワタシがこのチェーザレ・ボルジアについて知ったのは塩野七生さんの「チェーザレ・ボルジア優雅なる冷酷」を読んでからです。
 
 これが塩野さんの出世作になりました。
 そしてワタシが今書いている「元祖マキャベリストは良い奴だった」は、塩野さんの「我が友マキャベリ」をネタにしています。
 
 それではチェーザレ・ボルジアってどんな奴?

 日本人で言えば織田信長みたいな奴です。

 つまり天下統一の為には、全ての倫理道徳も宗教も慣習も無視して、ひたすら合理的主義的に行動するのです。
 
 若くして天下統一の乗り出した事、美男であったこと、そして美人の妹が兄の野心の為に、何度も政略結婚を強いられた事までそっくりです。

 チェーザレ・ボルジアの死後間もなく信長が生まれているので、ワタシは信長って「チェーザレ・ボルジアの生まれ変わりじゃないか?」と思った事があります。

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 しかしこういう人間は、善良でありたい人々から見れば、「トンデモナイ極悪人!」と思われても仕方がありません。

 そして当時のイタリアの小国は皆、織田信長の勢力拡大を恐れる織田領周辺の戦国大名のような立場でしたから、皆が彼を恐れ憎むのは当然です。

 元祖マキャベリストはフィレンツェ共和国第二書記官長として、このチェーザレ・ボルジアとの折衝に派遣されました。
 
 折衝の目的はチェーザレ・ボルジアへの傭兵隊長としての契約料金を引き出来限り引き下げる、支払もで出来る限り遅らせる事です。

 民主主義が第一のフィレンツェ共和国外交の定番外交です。

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 チェーザレ・ボルジアが傭兵隊長としてフィレンツェ共和国と契約していると言うのは何とも奇異に思われるでしょう?

 しかしこれは当時のイタリアの戦争の慣習でした。
 
 当時イタリアの小国家は皆、戦争には傭兵を使っていたのです。 特にフィレンツェなど富裕な都市の市民は、自分達の富と生命を守る為に自らの血を流す意思なんか全くありませんでした。

 軍隊なんて3K労働は大嫌い!!
 オレタチ、リッチで文化的な人間が、軍隊なんて野蛮な仕事をやる事ないだろう?
 そんなことは人権費の安い外国人にでもやらせりゃ良いんだよ。

 それでこうしたニーズに応えて、これらの国々と契約して国防や戦争を請け負う傭兵隊と言うのが沢山ありました。

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 傭兵になるのはイタリア半島の貧しい農民や下層民、更に貧しいスイスやドイツなどイタリア半島以外の農民など下層民です。

 こうした傭兵の雇い主になる傭兵隊長は、自身も傭兵からたたき上げた完全なプロと、イタリア国内の小領主が別途収入を求めてバイトとしてやる場合があります。

 しかしいずれにしても、お金で戦争を請け負うのですから、皆戦死なんか真っ平です。

 それどころか勝利さへ本心では望みません。
 だって勝ってしまって戦争が終われば、そこで仕事が用済みになり契約打ち切ですから。

 だから傭兵隊長としては、できるだけ本物の戦闘は避けながら、戦争はダラダラと長引かせたいのです。

 これでイタリアの小国同士が何百年も戦争を続けた結果、戦争は完全に傭兵同志の馴れ合いのゲームと化していました。 
 でもお蔭で延々と戦争が続いても、イタリアが疲弊せずに済んだのです。

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 でもこれは雇用主からすれば「ふざけるな!!」です。

 因みにマキャベリはこれまでにもこうした傭兵隊長との交渉をさせられた経験があります。

 そしてそこで海千山千の傭兵隊長に振り回されて散々な思いをしました。

 しかしこれで傭兵の本性と、それに国防を頼る事も問題を理解したのです。

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 いずれにせよこのような慣習があるのでフィレンツェ共和国は同盟国のフランス王から、チェーザレ・ボルジアを傭兵隊長として雇用する事を薦められたのです。
 
 しかしこれって、フィレンツェからしたら凄い迷惑でしょう?

 だってコイツ教会軍総司令官として、法王領内の小君主国討伐中です。
 こんな状況でどうやってフィレンツェ防衛の仕事をするんでしょうか?

 これって要するにただチェーザレ・ボルジアに金を出せと言われているだけじゃないですか?

 イヤもっと悪いです。 だって彼の野心が法皇領内の小君主国討伐だけで留まらない場合は、フィレンツェだって狙られるのですから。

 自国を侵略するかもしれない軍隊の隊長に金を出せってかい?

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 でもメディチ家追放以降、フィレンツェ共和国はフランスの庇護で何とか生き延びてきた状況なので、フランス国王の薦めを拒否できませんでした。

 自力で国防をする意思も能力もない国は、そういう意思と能力のある国に翻弄されるしかありません。

 だからフィレンツェ共和国はマキャベリに命じたのです。

 オイ、マキャベリ!!
 オマイ、チェーザレ・ボルジアの所に行って、この傭兵隊長の契約料金をできるだけ引き下げて貰えるように交渉しろ!
 支払もできるだけ遅らせて貰うようにしろよ。
 ああ、それからチェーザレ・ボルジア怖いから、怒らせちゃダメよ。
 
 フィレンツェは世界一の文化国家で、民主主義国家なんだよ。
 オレタチはそこの高学歴エリートなんだよ。
 それなのに何だあんな化け物みたいな奴にふりまわされなきゃならないんだ?

 だから、マキャベリ、オマイがあの化け物と話を突けて来いよ!!

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 お蔭で元祖マキャベリストはチェーザレ・ボルジアの元に派遣されて、二ヶ月余りも折衝を続けるハメになります。

 しかし明敏なチェーザレ・ボルジアはこうしたフィレンツェ政府の無能さなど完全に見抜いていました。

 「貴方の政府は嫌いだ!!」

 マキャベリはここまで言われてしまいました。

 しかしこの散々な折衝の経験が後に「君主論」として結実します。
 
 そして「傭兵に頼らない国防」の為に行動する契機となりました。

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 追伸
 
 まだ続けますか?
  1. 古本
  2. TB(0)
  3. CM(10)

コメント

 信長は冷酷なのに、気に入った秀吉やねねさんには思いやりを見せた手紙を残しています。そしてアフリカ人を小姓にしたり、フロイスから南蛮の様子を精力的に聞き出したりしていて、偏見よりも合理性で動いていたのかと思います。そういう所が、チェーザレと似ていますか?

 お市の方とルクレツィアは絵姿を見ると本当に美人で、そこまで似ているとは、信長はチェーザレが輪廻転生したと思えて来ました。

 続きを聞きたいです。
  1. 2016-06-25 13:41
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  3. 都民です。 #-
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Re: タイトルなし

>  信長は冷酷なのに、気に入った秀吉やねねさんには思いやりを見せた手紙を残しています。そしてアフリカ人を小姓にしたり、フロイスから南蛮の様子を精力的に聞き出したりしていて、偏見よりも合理性で動いていたのかと思います。そういう所が、チェーザレと似ていますか?

 宗教や倫理を無視しても合理性を追求する姿勢や、中世から近世への扉を開くと言う姿勢は、ホントに良く似ています。

 しかしチェーザレ・ボルジアには、仰るように信長が冷酷さの陰で家臣達にみせていたような細かい思いやりや心遣いが、ありません。

 それどころか当時イタリアのプリマドンナと言われた美人の女領主カテリーナ・スフォルツァーの領地を攻めて、そこを陥落させた後に彼女を強姦した?のではと非難されたりしています。

 塩野さんは美男に甘いので、これは強姦じゃなくて彼女だってその気だったろうと推察してます。

 ワタシもその可能性はあると思うのですが、しかしこういう場合はカテリーナに据え膳を据えられても、紳士的に振る舞うべきだったのです。

 幾ら美男で有能でも、こうした世論には一定の気を遣い、余分な悪評を避けるのも君主の知恵だと思うんですけどね。

>  お市の方とルクレツィアは絵姿を見ると本当に美人で、そこまで似ているとは、信長はチェーザレが輪廻転生したと思えて来ました。

 そうでしょう?
 
 もしこの二人が出会えば、心から理解しあい、お互いの運命を慰め合ったと思います。

>  続きを聞きたいです。

 有難う御座います。
 何か自分の意思に反してドンドン長くなっているので、誰かに励まして貰わないと書けなくなりそうです。
  1. 2016-06-25 15:02
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  3. よもぎねこ #-
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チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷も我が友マキャベリも読んでる筈なんだけどなぁ~
ち~っとも身になってないのを思い知らされます。

ですからもちろん、もっともっと♪
  1. 2016-06-25 16:13
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  3. にゃんこ #w2VY/Wec
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Re: タイトルなし

> チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷も我が友マキャベリも読んでる筈なんだけどなぁ~
> ち~っとも身になってないのを思い知らされます。

 ワタシも書いていて、色々時系列など記憶があやふやな所があって困りました。

> ですからもちろん、もっともっと♪

 有難う御座います。
 頑張ります。
  1. 2016-06-25 19:57
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  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

続けてください!
  1. 2016-06-25 20:29
  2. URL
  3. 名無し #-
  4. 編集

是非、続けて下さい。

毎日、楽しみにしております。
  1. 2016-06-25 21:08
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  3. 酔っ払い爺さん #-
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ありがたく拝読

語り口調でのわかりやすい解説は、ありがたいです。
私も塩野さんの著作は(チョーザレ・ボルジアも)読んでいますが、いろいろな観点からの解説は、新鮮な気分になります。

傭兵という存在、不思議ですネ。
まじめに戦うことはしない、ということもわかります。
かといって、戦争のプロだから、できるだけ血を流さずに決着させる流儀もあるでしょう、
フランス宮廷のスイス傭兵のように命を懸けた働きもあります。

しかし一時的なことなら傭兵もありでしょうが、いつも傭兵とは、国防をまじめに考えていないということでしょう。国防をアメリカに頼っている日本国民が言うのもなんですが。
  1. 2016-06-25 22:40
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  3. 道草人 #-
  4. 編集

Re: タイトルなし

> 続けてください!

 有難う御座います。 そう言っていただけると嬉しいです。
  1. 2016-06-26 11:21
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  3. よもぎねこ #-
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Re: 是非、続けて下さい。

> 毎日、楽しみにしております。

 楽しんで頂けたら、嬉しいです。

 本当に有難う御座います。
  1. 2016-06-26 11:22
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  3. よもぎねこ #-
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Re: ありがたく拝読

> 語り口調でのわかりやすい解説は、ありがたいです。
> 私も塩野さんの著作は(チョーザレ・ボルジアも)読んでいますが、いろいろな観点からの解説は、新鮮な気分になります。

 有難う御座います。 ワタシは塩野さんがデビュー当時からのファンで、この人の著作は殆ど読んでいるのですが、しかし「我が友マキャベリ」はその中でも最高傑作と思います。

 だからワタシもマキャベリについて思う所を書いてみたいと前々から思っていました。
>
> 傭兵という存在、不思議ですネ。
> まじめに戦うことはしない、ということもわかります。
> かといって、戦争のプロだから、できるだけ血を流さずに決着させる流儀もあるでしょう、
> フランス宮廷のスイス傭兵のように命を懸けた働きもあります。

 フランス革命時にスイス傭兵が王宮を守って玉砕した話は有名ですが、しかしワタシはこれは忠誠心だけではなかったと思います。

 フランス国王だけではなく専制君主は好んで外国人を近衛兵にするのですが、それはこうした外国人達はその国では地縁も血縁もなく、言葉さへ満足には話せず、雇用主の君主以外に頼れる者がいなのです。
 
 だから君主に対しては大変弱い立場になり、君主の言いなりになるしかありません。 その意味では君主にとっては非常に使いやすいのです。  

 また地縁も血縁もなく言葉も不自由では、情報を遮断されているわけで、自分達を取り巻く状況がどうなっているのかもわかりません。 だから状況がどうであれ今まで通り勤務を続けるしかないのです。

 そして王宮が襲われるような事態になればもう、闘うしかありません。 なぜなら外国人ですから脱走しても、直ぐに脱走兵だとわかってしまいます。 日頃国王側に立って暴力装置になっている外国人衛兵は国民から憎まれていますから、脱走して市民に見つかれば無事ですみません。

 これではもう最後まで踏みとどまって闘うしかないのです。

 だから専制君主は外国人衛兵を好むのです。

 しかし傭兵隊長が明敏ならこうしたメリットもありません。

 だってフランス革命時、真っ先に革命派に寝返ったのは、マルセイユの傭兵隊長でした。
 ラ・マルセイユと言うフランス国歌はこの傭兵隊長に捧げられた歌です。

 この傭兵隊長フォン・ルックナー伯爵はドイツ人です。

 フランス革命後、フランスは直ちに傭兵制度を止めて、徴兵制にしたのです。 傭兵は徴兵制による軍隊には、全く太刀打ちできませんでした。

> しかし一時的なことなら傭兵もありでしょうが、いつも傭兵とは、国防をまじめに考えていないということでしょう。国防をアメリカに頼っている日本国民が言うのもなんですが。

 そうなんですよね。
 そして「思いやり予算云々」なんてことを言っている連中を見ていると、彼等は米軍を傭兵とでも思っているのか?と呆れてしまいます。

 それじゃチェーザレ・ボルジアに傭兵契約をしたフィレンツェと同じでしょう?

 
  1. 2016-06-26 11:46
  2. URL
  3. よもぎねこ #-
  4. 編集

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