読んだ感想は?
「アメリカよ、お前もか!」です。
何がって?
それは米中国交正常化から、現在に至るまでのアメリカの対中政策と、中国の対米政策の基本が、日本のそれとまるっきり同じなのです。

70年代アメリカはソ連との冷戦を戦う為に、当時ソ連と対立していた中国と国交を正常化して、中国を支援し始めたのです。
著者ノピルズベリーはこの頃からCIA職員として、中国に関わるようになるのですが、この当時アメリカは中国は遅れた弱い国で、いずれアメリカの敵になるとは、思っていもいなかったと言うのです。
そして中国が近代化すれば、いずれ民主的な国になると安易に楽観していたと言います。
一方中国側も「自分達は弱い遅れた国」をアメリカにアピールして、支援を要請しました。
その為アメリカは中国に膨大な経済援助をしたのみならず、対ソ防衛の為の軍事技術援助も惜しみませんでした。
中国のミサイル技術や、衛星観測技術の基礎はこの頃のアメリカの支援によるのです。
勿論中国はこうした支援に大いに感謝し、ことある毎に米中友好を唱えたのです。

ところがこうした外交姿勢とは裏腹に、80年代から中国国内の学校では反米教育が始まりました。 中国jの歴史教科書では初めて清朝と外交関係を持ったタイラー大統領、そしてリンカーン、ウィルソン、ルーズベルトなどアメリカ史を代表する大統領が皆中国を侵略し搾取しようと企てて来た事なりました。
リ、りンカーンってあのリンカーンでしょう?
イヤ、ワタシだってリンカーンが、言われる程善人だったかどうか疑っているけど、しかしねえ彼は大統領在任中、中国なんぞに関わってる暇はなかったと思うよ。
それにあの時代のアメリカは外国に侵略するほどの軍事力もないしさ。
しかし中国の歴史教科書ではそうなってるんです。
それじゃルーズベルトは?
ルーズベルトは中国と日本を戦争させて、中国を衰弱させようとしたことになっています。

これを知った時はピルズベリーものけぞったようです。 そりゃそうでしょう。
アメリカは日本と違って少なくとも中国とは一度も戦争はしていないし、抗日戦争では中国を支援していたのです。
それなのこんな反米教育をされるなんて!!
しかしこれはアメリカでは全く問題にされず、また当ノピルズベリー自身もこれを深刻には受け取りませんでした。 そしてアメリカの中国援助は続いたのです。
90年代になり改革開放が始まって、中国の経済力が強まると、中国はビジネスを餌にアメリカの財界人を抱き込みます。
これらの財界人達は、人権問題などで米中対立が起きる度に、アメリカ政府に「商売の邪魔だから止めてくれ」と言うようになりました。
その為ダライ・ラマや民主化活動家などへのアメリカ政府の支援姿勢はドンドン後退して行ったのです。
その一方で中国政府は、国内での人権弾圧を強め、軍事力を際限もなく拡張していきました。

これは幾らなんでもオカシイ。
中国が豊かになり安定すれば民主的な国家になる。
アメリカが善意の支援を続ければ友好関係を維持できる。
そんなことは幻想ではないのか?
ピルズベリーがこれに気付いて、中国の真意を探りなおすようになったのは、この本が出版される数年前頃から、つまり2010年前後からです。
と、ここまでの過程を見たらわかるでしょう?
これって大体、日中国交正常化以降の日中関係と殆ど同じなのです。

中国はやたらに日中友好とすり寄っていた頃には、米中友好と言っていたし、反日教育を始めた頃には、反米教育を始めたのです。
そして日本もアメリカもその中国の諂いにコロリと参って、無邪気に中国支援をしていたのです。
因みにご丁寧に自虐史観まで同じなのです。
アメリカにも自虐史観があるのです。
ピルズベリーが大学で学んだ頃から(60年代)アメリカの大学では「中国は近代になって日本とアメリカから侵略されて搾取された被害国」と認識されていたと言うのです。

エッ? でもアメリカは日本と違って戦争したわけじゃないし、第二次大戦では中国支援していたでしょう? アメリカがGHQからWGIPを受けたわけでもあるまいし、何でこんなワザワザこんなアホなことを考えるの?
しかし「自分達は悪い事をした。」と言う事を認めて反省すると言うのは、善人でいたい人間にとっては堪らない魅力なのかもしれません。
そうする事で「自分に厳しく、自分の事をを客観的に見て、過ちは過ちとして認める事のできる人間」「自分は自国の事はひたすら礼賛する愚かな国粋主義者などとは違う教養人である」と思う事ができるからです。
そして自分個人に請求書が回ってくるのでなければ、気楽に謝罪して善人を気取るのは至って簡単なのです。
だからこの手の自虐史観は、実は世界中の自称良心派の全てに巣食っているのです。

こんなわけで中国は至って簡単に、アメリカ人の善意や良心に付け込んだのです。
それで中国が何を企んでいたのか?
ピルズベリーは「中国は1949年の建国から100年かけてアメリカを追い越す覇権国になる計画を実行してた」と言います。
「その為にアメリカの力を利用できるだけ、利用しようとしていた」のだと。
そして「中国はアメリカの善意や友好など最初から一切信用してない。 どんなに寛大な支援を受けようとも、敵国だとしか思っていない。」とも言います。

それではなぜこれまでそれに気づかなかったのか?
勿論それは中国が極めて巧妙にその本心を隠したからとも言えます。
しかし振り返れば、オカシイ事は沢山ありました。 アメリカから対ソ防衛の為に、軍事援助を受けていた70年代でも、中国はアジアやアフリカなどでアメリカの敵を支援していました。
そして1989年の天安門事件は、中国が独裁国家であることを世界に再認識させました。
また1999年のユーゴスラヴィアの中国大使館誤爆事件では、北京のアメリカ大使館が長期間中国人の暴徒の大群に囲まれ、大使館員の生命も危険と思われるような状況になりました。

当時アメリカ政府は、この中国大使館誤爆は、全くの不幸なミスであり、アメリカには悪意は全くないのだから、ちゃんと謝罪をすればそれで問題はないだろうと考えていました。
ピルズベリーに情報を寄越した中国人の一人は「中国政府はこれを機会に、ナショナリズムのプロパガンダを煽り、大きな騒動を起こすだろう。」と言ったのですが、しかしピルズベリーもこの予想は信じませんでした。
結局ピルズベリー自身も、またアメリカ政府も、見るべき物を見ない努力をして、聞くべき物を聞かず、「アメリカはこれまで中国に善意を尽くしたのだから、中国もそれに応えるはず」と信じ続けたのです。

考えてみれば歴史の教科書など、幾ら独裁国家でも秘密情報でも何でもないのです。
教科書はその国の為政者が考える「あるべき国の姿」を現しているのですから、それを見ればその国の本心がわります。
国家の本心を知るのには、別に007のようなスパイが、秘密基地に忍び込む必要はないのです。 教科書など普通に公表されている情報を素直に読めば済む事なのです。
そして子供達に根拠のない悪意の歴史を教えるのは、マトモな国のする事ではないのです。
だから単純にそう思えば良かったのです。
これが個人の事だったら?
自分の前ではいつも感謝の言葉を述べる友人が、自宅では子供に向かって「アイツはお父さんに悪い事ばかりしてきた」などと教えていると知ったら、誰でももうそれでその友人と付き合うのは止めるでしょう。

でも不思議なことに、国家対国家ならそういう事も問題にされないのです。 それどころか国家の安全に為に情報収集をしているCIAがそうした情報を進んでい隠蔽してしまうのです。
ピルズベリーはCIAの中国の新聞など公開情報を翻訳する部門で、翻訳される記事が米中友好を唱える鳩派の意見に偏っており、軍事拡大や対米強硬論を唱える鷹派の記事が異様に少ない事に気づきました。
そこでそれについて問うと、「鷹派の記事を出すと、人権活動家や保守派を刺激して、米中友好に支障をきたすので、そういう意見はなるだけ翻訳しないようにしている」と言われたと言うのです。
これっても朝日や毎日と同じでしょう?
ま、まさかCIAがこんな「心遣い」をしているなんて、アメリカの保守派や人権活動家だって夢にも思っていなかったでしょう。
でもCIAだって財界や政界や言論界が、米中友好で喜んでいる時に、嫌がられる情報を出して憎まれたくはないのです。
情報収集機関でさへ、皆が見たくない物は見せないように努力してしまうのです。

でもこうした心遣いは米中友好には極めて有効だったようです。 お蔭でアメリカは中国鷹派の言動な一切無視して、中国への援助を続けました。
そして気が付いてみれば、中国はもう化け物のような軍事力を蓄えていたのです。
化け物はもう最近では、アメリカを恐れる必要がなくなったのか、アメリカへの悪意や覇権への意欲を隠さなくなりました。
それでもまだ化け物を友人と言い募る人達がいるのは、これまた日本もアメリカも同じです。
それにしても中国は正体を現すのが少し早すぎたのではありませんか? 2049年までまだ33年もあるのです。
もう後10~20年は自重するべきだったのでは?

ピルズベリーがこの本を書いていた頃は、中国経済はまだ10%成長を謳っていました。
それでピルズベリーも中国の経済成長がこのまま続き、2049年頃にはGDPがアメリカを超えると言う前提でこの本を書いています。
しかし年明けからその前提が崩れ始めました。
そして世界中の経済記事が、中国のこれまでの経済統計そのモノがインチキだったと言い始めました。
これだと中国はまだ十分にアメリカと対抗する力を付けないウチに、自ら化け物の正体を暴露すると言う失敗をしてしまった可能性があります。
自分の出したインチキ経済統計を信じて。

こんな中国に果たして中国はピルズベリーが考えたような遠大プランがあったのか?
それほど精緻に組み立てられた政策に沿って行動してきたのか?
ワタシはこれは少し疑問です。 むしろただ困った時には、誰彼かまわず金と力のある奴にすり寄って、助力を仰ぎ、少し金回りが良くなると途端に踏ん反り返って威張り出したと言うだけのような気もします。
中国文化圏で他にもそういう国があるでしょう?

それにしても哀しいですね。
アメリカは第二次大戦でソ連を支援した時も、善意と友好から化け物を育ててしまったのです。
それなのにまた同じ事をしてしまったなんて・・・・・。
善意に善意が、友好に友好が返ってくるわけではない事を、二回も証明してしまったのです。
日本だって中国にはアメリカと全く同じ失敗しているのですが、二回目でないだけマシかも知れません。