そのアメリカが行ったのは、裁判を開いて敗者を犯罪者として処刑する事でした。
これはこれまでの戦争では極めて異例です。
第一次世界大戦では、勝者側は敗者ドイツの領土の奪い、莫大な賠償金を請求しましたが、しかしドイツの軍人や政治家が勝者によって裁かれるなどと言う事はありませんでした。
因みに第一次世界大戦の犠牲者は実は第二次大戦より多く、その悲惨さにおいて第二次大戦を凌いているのにです。
それではなアメリカは、裁判を行って敗者を罰したのでしょうか?
ワタシはそれはそうでもしないと「自国民に対して戦争をしたことの意味が説明ができない。」からだと思います。

第二次大戦は日独を無条件降伏させて大勝利でした。
しかもこの勝利は実質的にアメリカの力によるものでした。 他の連合国、ソ連もイギリスもフランスも、アメリカの助けが無ければ、国家滅亡もあり得た程でした。
それなのに戦争が終わってみれば、アメリカは領土一辺も賠償金の1ドルも取れないのです。
これは高校の教科書などでは、敗戦国に過剰な賠償金を請求して、ドイツを追い込んで第二次大戦を招いた愚を繰り返さない為などと書かれていました。
しかしこれは違います。
だってアメリカは領土を全く取れなかったけれど、ソ連は膨大な地域を侵略しソ連領にしているのです。 敗戦国ドイツからだけではなくポーランド領ガリツィアとか、バルト三国とか枢軸国でもなかった国からまで領土を奪っています。
だからこそアメリカは日本やドイツから賠償金も、領土も奪えなくなったのです。

つまり第二次大戦の間に、ソ連が大変な力を付けてしまったのです。
しかもソ連を応援して巨大化させたのが、アメリカ自身でした。
1939年9月3日にドイツが、ポーランドに侵攻する事で、第二次大戦は始まりました。 しかしその2週間後、ソ連もまたポーランドに侵攻しました。
ソ連は更にその後間もなくバルト三国、そしてフィンランドにも侵攻します。
実は独ソ不可侵条約の秘密議定書で、ソ連とドイツは示し合わせて、東欧諸国を分割する密約ができていました。 ソ連はこれで旧ロシア帝国領をすべて取り戻すつもりだったのです。
侵略戦争を始めたのはドイツだけでなく、ソ連も同様だったのです。
と言うよりソ連はドイツと一緒に侵略戦争を始めた国なのです。
ヒトラーはスターリンの親友だったのです。

しかし1941年6月22日、ドイツはソ連を奇襲します。
この時までスターリンはヒトラーを信じ切っていたので、ソ連軍は総崩れになりました。
一方ドイツ軍は破竹の快進撃を続けました。
けれどもその半年後、1941年12月8日、日本の真珠湾攻撃でアメリカは第二次大戦に参戦します。
そしてその3日後の12月11日には、ドイツがアメリカに宣戦布告して、アメリカはドイツとも戦う事になりました。
そしてこれがソ連を救います。
対独戦に参戦したアメリカは敵の敵は味方と言う理論から、ソ連に対して膨大な軍需物資の援助を始めたのです。

軍需物資の援助と言ってもタダ物を送るのではありません。
日独と交戦中では、アメリカからソ連に物資を送るルートは、ペルシャから空輸するか、北海経由でソ連の北海岸に送るしかありません。
しかし北海には群狼、つまりドイツのUボートの群れがアメリカの輸送船を待ち構えていました。 狭く浅い北海を大型輸送船が通れるルートは限られているのですから、ドイツUボートとしては絶交の狩場だったでしょう。
こうして数千人のアメリカ海員が北海で命を落としました。
アメリカはこのような犠牲を払って、ソ連を助けたのです。
それにしても第二次大戦前、共産主義と言うのは、ソ連以外の国では忌み嫌われていた危険思想でした。
ソ連と言う国にはドイツだけでなくアメリカもイギリスも皆疑念を持っていたのです。
それをこんな風にひたすら助けて良い物か? こうした疑念を持つ人もいなかったわけではありません。
しかしそれは軍の首脳部内でも簡単には口に出せなかったと言います。

しかもアメリカは更にソ連に気前の良いプレゼントをするのです。 つまり日独に無条件降伏を要求して戦争を長引かせた事です。
その間にアメリカの支援を得たソ連軍はそれまでのドイツ軍の支配地域に侵攻して、そこを支配下に置いてゆきました。
そして遂にドイツの半分を奪ったのです。
更にアメリカはこのソ連に対日参戦を即します。
その為には満州の権益をすべてソ連に与えるとまで約束しているのです。
だから日本が降伏した時には、ソ連は膨大な地域を支配しするようになっていました。
それまでこの世にはなかった共産圏と言うモノが出現してたのです。
それはナチスドイツ以上に凶悪で危険な怪物でした。

アメリカはこの現実にいつ気付いたのでしょうか?
アメリカの第二次大戦参戦を招き、この状況を作った張本人ルーズベルトは1945年4月11日に病死しています。
おそらくこの後を継いだトルーマンは「幾らなんでもこれは不味い」ぐらいには思ったのではないでしょうか?
ワタシは実はトルーマンが原爆投下を決断したのも、ソ連の日本侵攻を牽制するためだっだのではないかと思っています。
実はスターリンは北海道の東半分を要求していました。 もし北海道の東半分がソ連の物になっていたら、ソ連は釧路に海軍基地を置いて、いつでも自由に太平洋に出られるようになるのです。
これがアメリカの太平洋制海権確保にどれ程厄介なことか?
そして自分が育てた怪物に対抗するためには、ドイツと日本をこれ以上弱体化できない事は漠然とは理解したのでしょう。
けれどもそうなるとアメリカは第二次大戦に参戦して、大量の戦死者を出した事を自国民にどう説明したらよいのでしょうか?

そもそもルーズベルトは既に第二次大戦の始まっていた1940年11月に、「アメリカは参戦しない」と公約して大統領になっているのです。
それなのに参戦し、ひたすら日本を挑発して、参戦の口実を得ました。
そのように参戦し大変な犠牲を払って得た大勝利なのに、「アメリカは何一つ得るモノはなかった、それどころかソ連と言う化け物を育ててしまった。 だから日本とドイツから領土や賠償金を取るどころじゃないんだ。」とは、絶対に言えないでしょう?
だから裁判と言う形で日本とドイツを処罰して、「自分達は正義をなしたのだ」とアピールする必要があったのではないでしょうか?
少なくとも戦死者の遺族達の復讐心ぐらいは満足させない訳には行かないでしょう。
正義なら実益が伴わなかったのは仕方がありません。
ナチスドイツの悪魔化もその為でしょう。

幸いアメリカ人は単純なので、これで結構納得したのです。
イヤ、納得するより他にないのです。
なぜなら間もなく全てのアメリカ人が、自分達が育てた怪物共産圏の脅威と言う現実と対峙するハメになったからです。
しかしこの現実と対峙した時に、北海で死んだアメリカ輸送船団の船員達の魂とその遺族達をどう慰めたら良いのでしょうか?
普通の人間なら取りあえず日本とドイツは悪魔だったら、共産主義者を助けるのは仕方がなかったとして自分を納得させて、第二次大戦の原因についてはそれ以上考えないようにするしかないのです。
このあたりの鈍感力についてアメリカ人は抜群の強さを持っています。
けれどもマッカーサーはプロの軍人だし、他のアメリカ人程単純ではなかったので、この現実を招いたのは、実は第二次大戦であったと言う事に気付いたのです。
老兵・マッカーサーはなぜ「日本は自衛の戦争だった」と証言したのか…

ちなみにこのマッカーサーの第二次大戦観は、ウェデマイヤーとも同じです。
見ぬモノ清し ウェデマイヤー回想録 中国共産党
チャーチルの奇怪 ウェデマイヤー回想録
更に奇怪なルーズベルト ウェデマイヤー回想録
勝利者スターリン ウェデマイヤー回想録

因みにワタシはこのウェデマイヤー回想録についてエントリーした時に、1941年12月11日にドイツがアメリカに宣戦布告した事実を知らず、アメリカからドイツに宣戦布告したと勘違いしていました。
申し訳ありませんでした。