エジプトの情勢はひとまず落ち着いたようです。
けれど一応民主化はしても、これからもエジプトが安定した民主主義国家としてやっていけるかどうかはわかりません。
なぜならエジプトはアラブ諸国では最大の8000万の人口を持ち、またイスラム文化の中心地ではありますが、観光や農業ぐらいしかめぼしい産業はありません。
国民の4割以上が貧困層です。 しかもその人達の殆どが読み書きができないと言うのです。
けれどこのエジプトは実は日本の明治維新(1868年)よりも半世紀以上早く18000年代初頭から近代化を始めた国です。
1798年エジプトはナポレオン軍の侵攻を受け、迎え撃つエジプト軍は惨敗します。 この惨敗で近代化の必要を痛感したエジプトの太守ハンマド・アリー - Wikipediaは、全力でエジプトの近代化に取り組みました。
つまり明治維新と同様、ヨーロッパの先進国から技術者や教師を招き、教育や税制、軍事組織や農業の近代化を図り、また官営工場を作って、エジプトに工業を起こそうとしました。
この近代化は一部成功して、たとえば現在エジプトの重要産業である綿花栽培などは、この時の成果です。
また後にアラブ民族主義の中心になり、エジプト独立運動を指導したナセル、その後継者サダト、そしてムバラクを生んだ士官学校なども、この時作られました。
だからムハンマド・アリーは「エジプト近代化の父」と言われています。
けれど結局、エジプトは近代化後発組の日本や、更に台湾やタイなどにも、大きく遅れてしまいます。
なぜでしょうか?
直接的にはエジプトの近代化政策は、ムハンマド・アリーの死と共に終わります。 彼の後を継いで太守になった息子は、馬鹿で浪費家で、近代化政策をアッサリ止めてしまいます。 そして結局エジプトはイギリスの支配下に置かれてしまうのです。
現在では「エジプト近代化の父」と讃えられるムハンマド・アリーですが、生前彼が必死に近代化に取り組んでいた時、彼と一緒にエジプトの近代化を目指す人は、極少数でした。
ましてそれが国民的な支持を受ける事などありませんでした。
それどころか、近代化に事業にかかる経費は、国民の負担になったので、怨嗟の的だったようです。
ところでエジプトの近代化政策を始めたのは、ムハンマド・アリーが最初ですが、けれどそれまでエジプトは鎖国をしいたわけではありません。
これはエジプトだけではありませんが、当時エジプトの宗主国だったオスマントルコ帝国も、その他のイスラム諸国も、鎖国などした事はないのです。
イスラム諸国では商業商人を尊びます。 その商人達は常に広く外国と交易をして、勿論地理的に非常に近いヨーロッパとも交易交流を絶やしたことはないのです。
またエジプトはイスラム文化の中心地で、学問の中心地ですから、アラビアンナイトの時代から全イスラム世界から、学生が集まりました。
けれどムハンマド・アリーの近代化が始まるまで、ヨーロッパから技術を導入して工場を作ろうと言う商人も、またヨーロッパへ留学しようと言う学生もいなかったのです。
ちなみにエジプト人は近代以前でも、ヨーロッパの言語を学ぶのに、杉田玄白達のような苦労はいりません。 自由に交易をしていたのですから、ヨーロッパの言語に堪能なエジプト人は沢山いました。 ベネツィアの商館に滞在するエジプト商人も居たのです。
ちなみに近代以前この地域の基軸通貨はベネツィアのデュカーレ金貨です。
こんなにヨーロッパに近いのに・・・・・。
日本では今も「鎖国で日本の近代化が遅れた」「江戸時代は惰眠の時代」と言う説を今も信じている人がいます。 この前チャンネル桜のTPPについての討論でも、そんな事を言っている人が居たので呆れました。(討論TPP チャンネル桜
けれど世界史を見ればわかりますが、世界の殆どの国は鎖国なんかしていません。 そればかりではなくエジプトのように非常にヨーロッパに近い国々が沢山あります。
でもそれらの国々が全部日本より先進国になったわけではありません。 それどころかヨーロッパの植民地にされたのです。
更に東欧諸国やロシアも先進国になれませんでした。 これらの国々は早くから留学生をフランスやドイツに送り、またそれらの国々から技術者や学者や軍人、更に職人、農民、家庭教師まで招いてその文化を学んだのにです。
今後、エジプトがどうなるのかはわかりません。
しかしこれらの国の現実を見て、また世界史の現実を見たら、「平成の開国」なんて浮かれている人がどれだけ馬鹿だかわると思います。
彼らは日本と一部の先進国以外の国しか見ていないのです。 それしか見えないのです。
だから「鎖国=惰眠」「開国=近代化」の世界では全く非常識でしかないステレオタイプ的思考しかできないのです。 これってうちのよもちゃんが呆れた「猫は自然の中で魚を食べる」と全く同じレベルの話です。
これこそ本当に島国根性ではありませんか?