2010-06-29 20:06

「海の都の物語」から

 この前、塩野七生さんの「海の都の物語」を読み返しました。 「海の都の物語」はヴェネツィア共和国の建国から崩壊までの歴史物語です。

 

 塩野さんがこれを書かれたのはヴェネチア共和国が、1000年もの長きに渡って殆ど政治制度を変えず、安定して存続したからだそうです。

 

 特に14世紀初頭に確立制度が、ナポレオンの侵入によるヴェネツィア共和国崩壊まで続きました。

 

  

 

 この制度を非常に簡単に言えば、世襲の議員だけによる共和制でした。

 歴史を通じて人口10万人ぐらいだったヴェネツィアで、決まった家系に所属する成人男子の3%ほどの1500人前後が、国会議員として登録されて、彼らから選ばれた総督以下や元老院、各種委員会により政権が運営されたのです。

 

 この議員達は「ヴェネツィア貴族」と訳されていますが、参政権が以外には一切の特権も報酬もありません。

 

 もっとも直接政権を運営するのは総督や元老院ですから、この国会議員と言うのは、議員と言うより参政権のある有権者と言うべき存在かもしれません。

 

 そして総督は終身ですが、他の役職の任期は非常に短く、しかも留任は不能でした。

 だから総督以外の役職の人間は頻繁に入れ替わります。

 

 そして全員無報酬です。

 

  

 

 一方ヴェネツィアには強固な官僚組織がありました。 官僚の養成学校があり、そこには平民出身の秀才が集まりました。 そして大変ハードなカリキュラムで語学、法律などの専門教育から、古典文学なのどの教養科目を叩き込まれました。

 そして恵まれた報酬で、終身雇用でした。

 

 彼らはヴェネツィア国内で、情報の分析や処理、行政の実務担い、また各国に置いた大使館にも配属されました。

 

 ヴェネツィアの元首は総督でしたが、その総督に次ぐ位置にあるのが、この官僚のトップである官房長官でした。

 そして常に総督に付き従うのみならず、総督同様華やかで豪華に装いました。

 

 ヴェネツィアと関係した王侯貴族達は、平民がこのように豪華に装い高い地位にあるのに、驚いたと言います。

 

  

 

 しかしそれでも彼らは単なる官僚で、政治家ではありませんでした。 なぜなら彼らがいくら情報を精査し、分析しても彼らがその情報から得た結論で、政策を決定する権利はなかったからです。

 

 官僚達が出して情報を元に、政策を決定するのは、総督始め各種委員達の仕事でした。

 

 そしてその決定に従って、また官僚達がそれを実現するべく働きました。

 

 この政治家達は学歴から言えば、官僚に劣っていたようです。 と言うのはヴェネツィア貴族達は、多くは富裕な商人でした。(だから報酬なしでも政治家の仕事ができた)

 

 彼らは12歳ぐらいから海外へ出て本業の交易に従事します。 国会議員には20歳から登録されるのですが、現実にヴェネツィアの男が、国に落ち着いて政治に関わるのは40過ぎでした。

 

  

 

 つまり専門教育を受けた官僚が情報を提供し、それを判断して、決定するのは、実社会で社会人として生活した経験を積んだ人達と言う事です。

 

 近代以前のことですから、海外で交易に従事するというのは、常に命がけです。 自分の命と経済的な損出の不安と戦い続けて勝って帰った人達が、国政の決定権を握っているのです。

 

 そしてヴェネツィアは商業が国の基盤ですから、その商業で生きてきた人々が、国の運命を決定するのは至って合理な話です。   

 

  

 

 ワタシがこの本を最初に読んだのは、もう30年も前でした。 でもその時はこの事の意味には全然無関心でした。

 でも今民主党の高学歴内閣の「政治主導」を見ていて、つくづく羨ましく思うのです。

 

 つまり民主党政権の高学歴議員達、小沢一郎、菅直人などは、若い時から現実に生産労働を全く知らずに、政治家だけしかしていません。

 

 しかも前原や原口など松下政経塾の出身者なんか、政治家以外の仕事を知らず、しかも政治生命を亡くしたら、生活の目処もたたない人達です。

 

 これでは現実的な視点にたった政策を望むべくもありません。

 そして次の選挙で落選しない事だけに、政策の目的を置かない事を期待するのは無理です。

 

 良く「政治に若さを」と言う人が居ますが、若い人が政治家になれば、その後その人は政治家以外に生きる道がなくまります。

 結局将来的には、落選が何より怖い政治屋になるしかないでしょう。

 

 昨日「官僚支配の正体」のエントリーをあげた後考え込んでしまいました。 

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コメント

No title

こんにちは。

トラックバックさせてもらいました。

物事は簡単には進まない、ということですかね。
  1. 2010-06-29 20:51
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  3. 裏の桜 #79D/WHSg
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No title

 ベネチアの政体は本当に不思議ですよね。塩野さんの海の都の物語は小生も25年以上前に読みました。(最近新刊が出ましたが6分冊とはなんだ!前は文庫でも上下韓だったぞ)結局は、内閣とも称される「〇人委員会」が実質的にすべてを決めていたようですね。
 近代の民主政体というものが優れてるなどと言う、左翼史観を取っ払ってみればあれは大変によく出来た体制ですよね。
 そしてすごいのはベネチア人の無名性でしょうか。誰が国政を運営してもその継続性、一体性が確保され人の変化によってぶれる事がほとんどない。ここまで来れば見上げた根性です。

 翻ってみれば、「わが国は政治家なんてのは誰がやってもおんなじ。」
だから、「選挙なんてやっても無駄無駄」と昔大人が言ってましたね。
 えらく幸せな時代だったのではないかという気がします。まあ、経済成長が見込め、明日は今日の延長といえる気楽さもあったでしょうが、http://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E3%2583%2587%25E3%2583%2595%25E3%2583%25AC/" class="keyword">デフレ下でその判断が死命を制しかねない時代に、社会人としての適性さえ疑問を持たれかねない政治家たちでは何をか況やです。

  1. 2010-06-29 21:12
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  3. kazk #79D/WHSg
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No title

よもぎねこさんおばんです~~♪

今日は珍しく勝ち残ったサッカー日本代表が強豪パラグアイ共和国と試合をしますね。不思議に思うのは、日頃国家や国歌なんかどうでもいい言うミンス党を応援してる左翼系民放や左翼系○HKなんかが、今日だけ日本頑張れと放送する珍百景ですね。

反対に外国人ばっかり上位力士の性根が腐った財団法人のなんとか協会は見るも無残ですね。

ヴェネツィア共和国が凄いのは、外国で貿易という本業で苦労をして見聞をした大人が政治をした事でしょう。法律や外交などの実務は官僚に任せて国の舵取りは40過ぎの大人がする。理想的な小国の国家運営です。

翻って日本と言う小国はどうでしょうね。まさに、よもぎねこさんのおしゃる通り就職した事もない外の世界をしらない子供が国会で左翼色の革命ゴッコをしてる珍百景でしょうか?まあ、不幸は国民でしょうが、テレビマスコミがそれを隠しています。http://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E3%2582%25AA%25E3%2582%25A6%25E3%2583%25B3%25E3%2582%25B4%25E3%2583%25BC%25E3%2583%25AB/" class="keyword">オウンゴール連発でhttp://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E3%2583%259C%25E3%2583%25AD/" class="keyword">ボロ負けでも勝っているとか文化人タレントに言わせて。

鳩山選手のオウンゴールの代表例:日本はhttp://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E5%259C%25B0%25E7%2590%2583%25E6%25B8%25A9%25E6%259A%2596%25E5%258C%2596/" class="keyword">地球温暖化の為、90年を基準に25%削減します。出来なければhttp://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E4%25B8%25AD%25E5%259B%25BD/" class="keyword">中国様から国民が大金を払って排出権を買います。(バカ丸出し、http://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E4%25B8%25AD%25E5%259B%25BD/" class="keyword">中国は何もせず大金が日本から貰える)

そして、菅選手のオウンゴールは?:外国人参政権?・・・これは売国亡国そのものです・・説明不要

なんとか協会の腐敗より日本の政治の自爆テロ法案の方が悲惨で愚かです。
  1. 2010-06-29 21:50
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  3. siseinotamikusa #79D/WHSg
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To 裏の桜さん
>こんにちは。
>
>トラックバックさせてもらいました。
>
>物事は簡単には進まない、ということですかね。

 簡単に進まないのでしょうね。 
 
 と言うか国家が安定して存続するのが第一の目的で、理念のために政治をするなんて意味がないと言う事でしょう。
 でも自分で生産労働をした事の無い人は、理念のための理念が好きです。
  1. 2010-06-29 22:50
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  3. よもぎねこ #79D/WHSg
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To kazkさん
>翻ってみれば、「わが国は政治家なんてのは誰がやってもおんなじ。」
だから、「選挙なんてやっても無駄無駄」と昔大人が言ってましたね。

 http://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E6%25B0%2591%25E4%25B8%25BB%25E5%2585%259A/" class="keyword">民主党内閣を見てつくづく思うのは、「誰がやってもおんなじ」って思えたのは、みんなそこそこ優秀だったからだったのですね。

 本物の馬鹿や悪党が出てみれば、「誰がやってもおんなじ」なんて口が裂けても言えません。
 
 逆に歴史を見れば英雄が出てくる時代って、国難の時代で、平和で繁栄してる時代には英雄なんかいらないのです。

 「だれがやってもおんなじ」といえたのは幸せな時代だったと言う事でしょうね。
  1. 2010-06-29 22:55
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  3. よもぎねこ #79D/WHSg
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To siseinotamikusaさん
 力士が博打好きって江戸時代からでしょう。 そしてヤクザが興行に関わっていたのも江戸時代からです。
 http://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E9%2587%258E%25E7%2590%2583%25E8%25B3%25AD%25E5%258D%259A/" class="keyword">野球賭博はプロ野球ができてからでしょうが、力士がヤクザの仕切る賭博を楽しんだのも江戸時代からでしょう。
 
 今これが明らかになっただけです。 逆にあんまり普通に昔からやっていたから問題視されることもなかったのでは?

 でも鳩山の脱税なんかに比べたら可愛いものです。
  1. 2010-06-29 22:59
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  3. よもぎねこ #79D/WHSg
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同居人様は、教養がおありになる。
私は、名著の誉れ高いこの本、3回ぐらい途中で放り出しました。
その都度、忘れて一から読み直しです。文体が合ってないかも、
またそのうち、挑戦します。
  1. 2010-06-30 18:03
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  3. 出羽之守 #79D/WHSg
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To 出羽之守さん
>同居人様は、教養がおありになる。

 お恥ずかしいです。 

>私は、名著の誉れ高いこの本、3回ぐらい途中で放り出しました。
>その都度、忘れて一から読み直しです。文体が合ってないかも、
>またそのうち、挑戦します。

 塩野さんの文体は癖があるのか、あわないと言う方が多いですね。
 ワタシは塩野さんは本格的に作家デビューする前に、資生堂の広告パンフレットにエッセイを書いておられた頃から、殆どの著書を読みました。
 
 なんとなく「あう」んですよね。
 
  1. 2010-06-30 18:17
  2. URL
  3. よもぎねこ #79D/WHSg
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No title

>塩野さんの文体は癖があるのか、あわないと言う方が多いですね。

乱暴に言い切りますと、塩野さんの文章は西洋人の書き方ですよね。西洋人の文章は、これも乱暴に言えばしつこい。

日本人の文章はそれに比べて淡白で、悪く言えば底が浅い。
どちらが「いい、悪い」の問題でなく、体質みたいなことだと思います。日系人と謂えどもフランシス・フクヤマの書物だって完全に西洋の文章でした。

なお、白状すれば私は「塩野ストーリー」が苦痛です。冒険活劇談に慣れた目から見ると記号的に見えるのでしょうか。
  1. 2010-06-30 21:09
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  3. 相模 #79D/WHSg
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No title

塩野七生の文章は、かったるいけれど、楽しく読めました。不思議と、「トイレ文庫」の棚に入れておくと、読書がはかどるんですね。

しかし、ノーベル文学賞作家の『沖縄ノート』と『万延元年のフットボール』は、3ページ読み進むと、3ページ前がわからなくなるので、何度も放り出しました。最後まで目を通したはずなのですが、今では何にも覚えていません。

もともと小説をほとんど読まないせいかもしれませんが。
  1. 2010-07-01 06:05
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  3. kamosuke #79D/WHSg
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To kamosukeさん

>しかし、ノーベル文学賞作家の『沖縄ノート』と『万延元年のフットボール』は、3ページ読み進むと、3ページ前がわからなくなるので、何度も放り出しました。最後まで目を通したはずなのですが、今では何にも覚えていません。

よかった・・・自分だけじゃなかった・・・大江は何度読んでもダメでしたね。沖縄ノートだけは必要なところを抜粋して読みましたが通しは本当にダメでしたね。
 まあ、塩野女史にしても昔のものは読みにくかったと思います。昔買ったチェーザレボルジアの評伝や「神の代理人」は20年以上ほっといて、つい最近読みましたっけ。年取らなきゃ読めないものと生理的にダメなものとがあるようです。
「海の都の物語」は何の問題もなくさっさと読めましたっけ、塩野女史をよく知らず、読んでる途中で女性の著者と気づいたものでしたっけ。
  1. 2010-07-01 11:03
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  3. kazk #79D/WHSg
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To 相模さん
>>塩野さんの文体は癖があるのか、あわないと言う方が多いですね。
>
>乱暴に言い切りますと、塩野さんの文章は西洋人の書き方ですよね。西洋人の文章は、これも乱暴に言えばしつこい。
>
>日本人の文章はそれに比べて淡白で、悪く言えば底が浅い。
>どちらが「いい、悪い」の問題でなく、体質みたいなことだと思います。日系人と謂えどもフランシス・フクヤマの書物だって完全に西洋の文章でした。
>
>なお、白状すれば私は「塩野ストーリー」が苦痛です。冒険活劇談に慣れた目から見ると記号的に見えるのでしょうか。

 塩野さんの文章は確かに翻訳調ですね。 若い時から留学してもっぱらhttp://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E3%2582%25A4%25E3%2582%25BF%25E3%2583%25AA%25E3%2582%25A2/" class="keyword">イタリアを中心にしての研究をしてこられたからでしょう。

 ちなみにhttp://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E3%2582%25A4%25E3%2582%25BF%25E3%2583%25AA%25E3%2582%25A2/" class="keyword">イタリア文学って日本にはなじみがないです。 ワタシもマンゾーニやギンズブルグを読もうとしましたが、どうもなじめません。
  1. 2010-07-03 08:55
  2. URL
  3. よもぎねこ #79D/WHSg
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No title

To kamosukeさん
>塩野七生の文章は、かったるいけれど、楽しく読めました。不思議と、「トイレ文庫」の棚に入れておくと、読書がはかどるんですね。
>
>しかし、ノーベル文学賞作家の『沖縄ノート』と『万延元年のフットボール』は、3ページ読み進むと、3ページ前がわからなくなるので、何度も放り出しました。最後まで目を通したはずなのですが、今では何にも覚えていません。
>
>もともと小説をほとんど読まないせいかもしれませんが。

 ワタシもhttp://www.iza.ne.jp/izaword/word/%25E5%25A4%25A7%25E6%25B1%259F%25E5%2581%25A5%25E4%25B8%2589%25E9%2583%258E/" class="keyword">大江健三郎は読もうとさへ思ったことがありません。 解説を見ただけで辟易しました。
 ノーベル文学賞作者で好きなのはソルジーニツィンぐらいです。
  1. 2010-07-03 08:59
  2. URL
  3. よもぎねこ #79D/WHSg
  4. 編集

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