男はつらいよ

　町内の雌猫達が哲学論争にかこつけて、訳のわからないドタバタ劇を演じている頃、一人超然としている方がいらっしゃいます。
　白様です。　

　　

　白様は我が町内及び隣接する町の幾つかを支配するボス猫です。　勿論立派な玉々をお持ちです。　飼い主のいない自由猫つまり野良猫でいらっしゃいます。

　　

　この近辺には野良猫もまた玉々付き雄猫も白様お一人なのでそのご威光は絶大なものがあります。　最近我が家の近くに白様が頻繁にお見えになるようになってから、町内雌猫の敵韓流黒猫はまったく姿を見せません。
　韓流黒猫は飼い猫なので家の中に縮こまっているのでしょう。

　　

　白様ほどの威厳のある雄猫だと、もう女子供は相手になさいません。　韓流黒猫はよもちゃん始め雌猫を見つけると直ぐに追い掛け回すのですが（これが韓流）、白様は横目で少し御覧になるだけです。　雌猫達は白様の遠慮しながら、そうっと道を空けます。
　文字道理歯牙にもかけないのです。
　　
　　

　しかし威厳に満ちた雄猫の生活は厳しいのでしょうね。　実は今年の4月白様は大怪我をなさいました。　しかし野良猫ですから、手当てはできません。
　傷の酷さから、傷は猫同士の喧嘩ではなく、犬にやられたのではないかと思います。
　私は大怪我をした白様を見て、もう白様は死んでしまうのではないかと思いました。　それから暫く白様のお姿をみませんでした。
　でも6月頃にまだ元気に駆け回っている白様を見たのです。　傷はまだ良くなっていないのですが、それでもそんな事で死なないのですね。　

　　

　白様は青い目をしていらっしゃいます。　毛皮は純白ではなく元々淡いベージュのようです。　これを見ると白様は高貴なシャムネコの血筋であらせられる事がわかります。
　元は良家の飼い猫だったのかも知れません。　雄猫は玉々が付いていると、野生が強くて往々家出して野良猫になってしまう事があります。
　以前我が家にいた雄猫もそうでした。
　勇気と野心が飼い猫の生活に甘んじる事を許さないのですね。

　　

　ともあれ、白様のお怪我のご快癒まで、私も少しばかり食事の差し入れをする事にしました。　しかし白様の威厳に満ちたお姿、孤高の生き様には共感する人が多いのでしょうか？
　どうもお食事の差し入れをしているのは私だけではないようです。　なぜなら白様は安物の猫缶だと、食べ残したりなさるからです。
　また食事に招待されるからと言って、スリスリゴロニャンするような事は決してなさいません。　それどころか私が近づくと毛を逆立てて「ハーッ」と仰います。
　一時少しお痩せになっていたけれど、最近またお太りです。　幸いお怪我にも関わらず、お加減は良いようです。

　　

　近頃、我が家の物置の屋根の上がお気に入りで、よくここでお休みになっていらっしゃいます。　私はハタンキョウの収穫をするのに物置の屋根に上りたいのですが、白様がいらっしゃる間はご遠慮するしかありません。

　白様の耳は両方共根元までちぎれ、4月の大怪我も直らず、文字通り満身創痍です。　
　それにしても、敢えて安逸な飼い猫生活を捨て、満身創痍になりながらも、孤高の野良猫生活を選んだ白様には尊敬の念を抱かずにはいられません。　
　そして思うのです。
　「男は辛いよ」

　　

　ところで、よもちゃんは避妊手術を受ける前、生後一年足らずで、子猫を6匹産みました。　白い子が3匹、黒い子が3匹です。　白い子達は少し大きくなると青い目で淡いベージュの毛並みになりました。　そしてシャム猫風の美猫になったのです。　それで直ぐに養子に行きました。　黒い子猫達も後で無事養家が見つかりましたけどね。
　この白い子猫達の父親は白様だと思います。　まあ、白様はウチの婿なんですね。

　でも、よもちゃんはそんな事絶対言いません。
　この事はチコ様には、絶対内緒にしたいようです。