これに対してこんなりツィートもありました。
高度経済成長期って1954年から1972年までを指します。
ワタシは1954年生まれなので、高度経済成長期ってワタシが生まれてから高校を卒業するまでの時代です。
それでワタシは高度経済期の始めの頃は全く記憶がありません。 しかし中学ぐらいになると、父の買ってきた「ダイアモンド」とか「エコノミスト」などのビジネス誌を読んでいたので、当時の状況はかなり鮮明に覚えています。
で、自分の記憶とデータを見て、高度経済成長期を検証したいと思います。
まず高度経済成長期は日本はまだ完全な先進国とは言えませんでした。
賃金水準も福祉水準も、欧米先進国に比べると遥かに低いです。 一方労働時間は長く欧米から「働きバチ」「働き中毒」との非難を受け続けました。
1950~60年代までは欧米に比べたら完全な貧困国でした。
例えば同じ敗戦国のドイツではヒトラー時代から、自家用車の普及が始まったのですが、日本で自家用車が普及し始めたのは60年代以降です。
1958年から1965年まで、日本の炭鉱夫がドイツの炭鉱に研修生と言う形ではたいていました。 日本側はホントにまじめにドイツの採炭技術を研修する気だったようですが、ドイツ側は今の日本の技能実習生を受け入れるのと同じ感覚でした。
1972年に札幌オリンピックが開催されたのですが、開催理由の一つが「先進国=寒冷地」のイメージが世界に定着していたので、冬季オリンピックを開催することで日本も寒冷地であるとアピールしたかったと言う涙ぐましさです。
但し当時から日本の勤労者の教育水準は欧米並みに高く、工場立地のインフラは整っていました。 当時世界でこういう国は欧米先進国を除けば日本だけでした。
一方技術力はそれほどでもなく、むしろ1970年代ぐらいまで日本の製造業は、欧米企業の後追いやパクリ技術でやっていたのです。
しかし優秀な労働者を低賃金で使えると言うのは、圧倒的な強みでした。 最初は低賃金を生かして欧米企業より安い製品を作る事で競争し、その競争の中で技術を磨き、得られた利益から開発費を出して新技術を開発して、欧米企業に追いつき、追い越したのです。
実はこれ韓国や中国など現在の新興国と同じですよね?
しかしこれは経済成長の結果賃金水準が上がってくると苦しくなります。
実際現在日本が苦しくなり、後追いをしてきた韓国も中国も苦しくなり、タイやベトナムがそれを猛追している状況です。
また高度経済成長期は「終身雇用が保障されていた」と誤解している人が多いのですが、しかし終身雇用だったのは、大手企業のホワイトカラーと公務員ぐらいでした。
中小零細企業は雇用する企業の方の存続が怪しいので、従業員の側も「終身」なんて期待できません。
そして高度経済成長期は農家、個人企業、中小零細企業で働く人が非常に多かったのです。
また大手企業でも工場での単純労働などをする中卒工員などは使い捨てと言うか、余りの単純労働に耐えられず止めていく人が多く、会社側もそれを見越して従業員を募集していました。
因みに大学進学率・高校進学率ともに高度経済成長期は現在よりはるかに低いです。
だからワタシが大学受験をした1972年には、現在のFランク大なんてモノはそもそも存在しませんでした。
まして高度成長期の初めの方なら、高卒は特に低学歴ではなく、成績が良い人は銀行など大手から引く手あまたでした。
さらに言うと女性の進学率は更に低く、大学進学でも4年生大学に行く方が少数派です。
当時は女性が生涯働くのは例外的で、普通は結婚退社を前提にしていました。
逆に言えば、高度経済成長期に日本に存在した大学の卒業生なら、今でも結構終身雇用の職にありついていると言えます。
だって今これらの大学の卒業生なら大手や準大手への就職が可能ですから。
因みに終身雇用自体は高度経済成長以前からありました。
実はワタシの父は1943年旧制商業を卒業して、住友財閥に入社し、終生住友で働き続けました。
その間に父は徴兵されて直後に太平洋戦争勃発、歩兵としてインドシナ半島を転戦し、終戦の二年後に漸く帰国できました。 そしてまた住友に戻る事ができたのですが財閥解体になり、父は住友石炭への振り分けられました。 しかし60年代にはその住友石炭が石炭の斜陽化で凋落し、住友商事系の子会社に出向になり、65歳で退職しました。
こんなに会社がこんな大波を食らいながらも、最後まで住友で働き続ける事ができたわけです。
しかしこんなことができたのは住友が1590年創業の世界有数で最古の財閥だったからでしょう。 三井や住友のホワイトカラーなら江戸時代から終身雇用です。
因みに同じ住友石炭の社員でも、炭鉱夫だった人達は、炭鉱の閉山と共に解雇されています。
一方戦後生まれた企業でも、ソニーや本田技研のように、ドンドン成長していれば、従業員数もドンドン増えるので、ベテラン社員を中途解雇する必要もなく、それどころか数少ないベテランとして順調に昇進します。
しかしこういう事が可能なのは、結局高度経済成長期の日本は、低賃金・長時間労働・低福祉と言う企業競争力とって強烈な強みがあったからだったとしか言えません。
実際、中国始め新興国の経済発展も同様な理由でしょう?
だから「終身雇用云々」はそもそもどうでもよい話です。
実は1970年代にはハーマン・カーンの「ジャパン アズ ナンバーワン」など、日本の高度経済成長に関する本が沢山でました。
高校生だったワタシもこの手の本を結構読みました。 自分で買ったわけじゃないけど、父が買ってくるので読めたのです。
「終身雇用が日本の経済成長の強み」と言う説も、これらの本の中で唱えられていました。
また「日本株式会社」つまり政府や官僚が企業経営に積極的に介入して指導したことが、経済成長に寄与したと言う分析もありました。
でも今にして思うと、これって皆結局後付けで日本の経済成長を説明しているのです。
と言うのは当時、東南アジア諸国はまだ教育インフラも産業インフラも整わず経済成長の基盤が確立していなかったのです。
中国に至っては文化大革命の最中で大量餓死を出している有様でした。
これでは高度経済成長期の日本と比較し、経済成長の理由の検証をできる国はないのです。
そしてこれらの国々の教育水準があがり、道路網や港湾、電力供給、水道などの工業基盤が整うと、これらの国々も一気に経済成長し始めたのです。
だから70年代の分析は、完全な後付け、日本が経済成長をしたと言う結果について、後付けてで適当に書いていたとしか言えません。
高度経済成長期を知っている人間として思うのです。
確かにあの時代は、昨日より今日が、今日より明日が良くなると言う希望に満ちた時代でした。
でも現実の生活水準も労働条件も、現代人には絶対に我慢できない水準でした。
今だってあの時代のレベルの所得しかなく、あの時代のレベルの生活をしている人が、あの時代の感覚で働けば、所得はドンドン増えて生活水準はみるみる上がるでしょう。
ついでに言うと高額のバイトが沢山あったのはバブル期です。
思うに高度経済成長を礼賛する言説を読んでいると、どうもこの人達は、高度経済成長期とバブル期の話が完全にゴチャゴチャになっているようです。