ナチスの経済政策
ヒットラーが経済をどのように理解していたかは不明ですが、ドイツ経済を誰に委ねたら良いかは直感的に理解していました。財政の魔術師と謳われたシャハトです。
シャハトはライヒスバンク総裁兼経済相として辣腕を振るいました。再軍備による歳出が増大する状況にありながら、各種の積立など国民に貯蓄を奨励し、見事にインフレが再燃するのを防ぎました。
若い二人が結婚する時には国が生活資金を貸してくれ、子供が産まれると返済義務を免除するとか、或いは労働者が海外旅行するための積立とかあったのですよ。ナチスは客船をチャーターして現に労働者を海外旅行に行かせてました。当時としては労働者の為の画期的な企画です。
大きな声では言えないけれど、ヒットラーが戦争狂いになる以前のナチス政権の時代が、ドイツ国民にとって一番良き時代だったという声あるくらいで。
ナチスの宣伝とプロパガンダだけで、あれだけの文明国の国民がヒットラーを熱狂的に支持するはずがありません。いかにヒットラーが嫌いでも、ヒットラーの成功の秘訣を学ばない理由にはならないはずなのですがね。
ヒットラーは必要がなくとも、今の日本にシャハトが在りせば、と私など幾度となく思ったことか。
ナチスの経済政策partⅡ
本当にヒットラー=シャハトの経済政策は理にかなっています。とくに少子化対策の先鞭をつける?新婚さんへの融資政策は、おカネが無いから結婚できないという若い世代の言い訳(?)を見事に阻止するものです。
子供が1人産まれる度に融資金を償却していき、4人目をつくると全額返さなくて良い、というのがこの貸付制度の骨子です。これは、あと一人くらい子供を作ろうという誘因になりますよね。
その上、ナチスは妻子のある男性には最優先で仕事を斡旋していたのですから、少子化対策として万全です。
下情に通じているからこそナチスなのであって、けっしてその逆ではありません。
こ のような目的への国税の投入は、将来の国家経済を考える時に、理に叶っておりますし、良いトコは大いに学び、マネをして欲しいものです。
今の日本の状況では 3人生んだら、全額免除で良いと思いますが。
上の文は、ワタシが以前「
ヒトラー雑感」と言うエントリーをアップした時に、レッドバロンさんから頂いたコメントです。
ドイツは第一次大戦敗戦により、戦勝国から莫大な賠償金を課せられました。 この賠償金支払いのトラブルの中で、有名なハイパーインフレーションが起きて、ドイツ経済は破綻しました。
そのインフレをレンテンマルクの発行で退治じて、経済は成長軌道に乗ったのですが、それもつかの間、世界大恐慌が発生しました。
それでなくとも脆弱な経済はこれで木端微塵に吹き飛ばされました。 世界恐慌後、ドイツの失業率は上がり続けて、5年後には実に就業者の3分の1が失業しました。
失業した人々はやがて住処も喪い、テント暮らしを余儀なくされました。 そのような無残な生活でも、人々は規則を守って整然と暮らしました。
テント暮らしになってもなを、規則正しい生活をするほど真面目な人々が、職を失うと言うのは、どれほど悲惨なことだったか・・・・・。

この悲惨な状態を救ったのがヒトラー政権だったのです。
ヒトラー政権はドイツの労働者を救ったばかりか、レッドバロンさんのコメントにあるように、それまで労働者階級には無縁だった楽しみ、海外旅行や自家用車の所有を可能にしました。
ナチスはその為に
豪華客船や保養所を作り、国民車フォルクスワーゲンを開発したのです。
そしてこうした楽しみを通して、全てドイツ国民が階級に関わらず一体となって団結すると言うナチスの理想を浸透させる為の
歓喜力行団と言う組織を作りました。
それまで明日の食事の保障ないままテント暮らしをするしかなった人々が、安定した職を得て、その上大戦前は夢でしかなかった豪華客船での海外旅行にまで行けるようになったのです。
これじゃ全てのドイツ人がヒトラーとナチス党に熱狂しない方が不思議です。

この奇跡のような経済政策を行ったのが、レッドバロンさんがコメントで紹介されたシャハト、
ホレス・グリーリー・ヒャルマル・シャハトでした。
しかしこのシャハトはヒトラーや他のナチス幹部のように、戦前はどこの馬の骨かわからないような連中とは違いました。 そして元々ナチの党員でもありませんでした。
大学で経済学博士号を取得して以来、ずうっとエリート金融専門家して活躍し続けてました。 そしてあの史上最悪のハイパーインフレが起きた時にはライヒ通貨委員として
レンテンマルクの発行を提案し、これによってインフレを退治しました。
そして1923年にはライヘスバンク総裁に任命されました。
ところが1929年世界大恐慌の最中、賠償金支払い等に関して政権内で意見対立が続く中で、シャハトはライヘスバンク総裁を辞任してしまいます。

一方時の政権は当時の経済政策の王道に従って、不況下での緊縮政策を推進するのです。
つまり財政均衡主義を貫き、不況で歳入が減れば、その分容赦なく歳出を削るのです。
結果が最初に書いたような際限もない失業率の増大でした。
こうした中シャハトはナチに近づきました。
そして友人の銀行家達を説得して、ナチへの資金援助を呼び掛けたのです。 元ライヘスバンク総裁の呼びかけが、ナチの資金集めにどれほどの効果をもたらしたのかは、想像に難くありません。
更にナチが選挙で躍進すると、ヒンデンブルグ大統領にヒトラーを首相にするように書簡を送る事までしました。
こうしてヒトラーは遂にドイツ首相になったのです。
そしてヒトラー内閣でシャハトはまたライヘスバンク総裁になり、インフレを再燃させることなく莫大な軍事予算を調達することに成功します。
更に1934年に経財相も兼任します。
それからが財政の魔術師シャハトの独壇場です。
レッドバロンさんのコメントにあるようなドイツ経済の奇跡の回復と、労働者階級の生活水準の夢のような向上が始まるのです。

それにしてもなぜこれほどシャハトがナチに入れ込んだのか?
シャハトが「我が闘争」に感銘を受けたと言う説もあります。
しかしナチが政権を取ってからも、シャハトは実ナチもヒトラーも嫌いで、ナチを嫌って亡命をしようとする友人の銀行家達には「ナチス政権は長くはないから、帰国した時に困らないように財産を保全するように」とアドバイスしていたとの説もあります。
そもそもシャハトはアメリカ育ちで、両親はアメリカ国籍を取っています。 ホレス・グリーリー・ヒャルマル・シャハトと言う名前のホレス・グリーリと言うのも父親がアメリカのジャーナリストにちなんでつけた名です。
ナチの反ユダヤ主義は嫌っていました。 だからシャハトが経財相で居る間は、経済面でユダヤ人を迫害する政策は進みませんでした。
この為ヒトラー政権の重要閣僚であったにも関わらず、ニュルンベルグ裁判でも有罪にならず、戦後も金融専門家として活躍し続けました。

これほど有能であり、経歴も申し分なく、何よりもハイパーインフレーション退治と言う凄い実績まである人を、ナチ以前のドイツ政権はなぜ生かす事が出来なかったのでしょうか?
ナチが勢力を拡大したのは、世界大恐慌の後の悲惨な不況下です。
職も家も喪いテントで絶望的な生活を送る人々に、仕事や家を約束したのがナチなのです。
ヒトラーは門地も学歴も職歴もなく、それどころかドイツ生まれさえない帰化人でした。
学歴も職歴もない元自称芸術家の帰化人が首相になる・・・・・日本の自称リベラリストが大喜びしそうな話ですよね?
でも絶望した人々は、こんな普通なら到底相手にもされないような男にでも、すがるしかなかったのです。 文字通り溺れる者は藁をもつかむ思いだったのです。
ところが藁をつかんだら、ホントに助かって、豪華客船の乗客になってしまったのです。
でもその豪華客船の建造費用を工面したのは、エリート銀行家のシャハトでした。

だからワタシは非常に不可解なのです。 シャハトの財政政策は、シャハトがライヘスバンク総裁と経財相の地位さへ得ていれば、別にナチス政権でなくても大半は実行できたのではありませんか?
彼の政策は元来イデオロギーには何の関係もない純然たる財政政策です。 それどころかリベラル政党が労働者に豪華客船での旅行を用意してはいけない理由はないのです。
しかしシャハトがナチを応援した頃、ドイツの政権が行っていたのは、純然たる緊縮政策でした。
不況で税収が減れば、その分歳出を減らす、それでも歳入が足りなければ増税すると言う財政均衡主義による政策でした。
当時の首相が馬鹿だったわけでも、悪党だったわけでもありません。
それどころか当時の首相ブリューリングは高潔を絵に描いたような人でした。 その上名門で高学歴(経済学博士!!)でしかも第一次大戦では軍人として果敢に戦い国民的英雄になりました。
しかしそういう人だからこそ、当時の不況下での経済政策の王道である緊縮政策を信念を持ってやりとおしたのです。
そしてこういう人であれば、シャハトの魔法のような財政政策は胡散臭くインチキ臭く、到底受け入れられなかったのかの知れません。
けれども彼の高潔な信念と愛国心による政策は、不況を際限もなく悪化させ、国民の多くをテント生活へと追い込んだのです。

ワタシはこのブリューリングを知った時に思い出したのは、城山三郎の「男子の本懐」に出てくる濱口雄幸でした。
彼もまた高学歴エリートで、しかも大変高潔で責任感の強い人でした。
そして彼もまた比類なく強い愛国心と責任感と信念を持って、緊縮財政をやり通したのです。
高橋洋一は財務相に就職した時、研修で「男子の本懐」を読まされて、感想文に「不況下で緊縮財政をやるトンデモない奴」と書いて叱り飛ばされたそうです。
でもワタシは高橋洋一程薄情じゃないので、「男子の本懐」で濱口雄幸の最後を読むと、涙が出ました。
暗殺者に腹部を撃たれて、傷が治らないまま半年も苦しみ続けて、それを鳩山一郎が無理矢理国会に呼び出して・・・・・。
衰弱しきった濱口を心配した妻子が、徹夜で薄い布で紙のように軽いフロックコートと靴を縫い上げて、それを着せて国会へ送り出す。
濱口にはもう普通の紳士物のフロックコートや靴を付けて歩く体力は残っていなかったのです。
そして国会答弁の翌日死去しました。
しかし高橋洋一が指摘した通り、この高潔な愛国者が行った緊縮財政は、国民を塗炭の苦しみに追い込んだのです。 GDPは半減して、国力を棄損したのです。

けれども彼の高潔さを知る国民は最後まで濱口を支持していたのです。
濱口雄幸は大変な不況下にも拘らず、国民的な人気を保ち続けたのです。
これを思い出すと、なんとなくナチを選んだシャハトの絶望がわかる気がします。
池田信夫はナチの政策をポピュリズムと言いました。 確かに国民の歓びそうなことを何でもホントにやっちゃうんだから、これ以上のポピュリズムはないでしょう。
しかしね、実は民衆は・・・・少なくともドイツや日本のような真面目な国民は実は、ナチのようなポピュリズム以上に池田信夫の喜ぶ緊縮財政が、好きなんじゃないのかと思うのです。
本当に自分自身が路上生活に追い込まれない限り、結構この緊縮政策を支持するんじゃないかと思うのです。

ましてさしあたり路上生活の心配のない中産階級や、高学歴エリートで、強い責任感や自負心を持つ人々にとっては、「痛みに耐え、苦しみに耐え抜いて、将来に備える」と言う状況は、実は強烈な魅力があるのではないでしょうか?
だってこういうストリシズムは、実はエリートになるような真面目な努力家の精神そのものですから。
だから財務省だって「男子の本懐」を新入職員の研修で読ませるんでしょう? 高橋洋一の言う通り現在の経済学の常識からすればトンデモ政策をやった人なのに・・・・。
そしてまた借金を嫌い倹約を尊ぶ堅実な市民の日常生活の感覚ともピッタリ一致するので、心理的には全く抵抗がなく、むしろ凄く安心感があります。 何の抵抗も説明も必要なしに受け入れられる政策なのです。
だからそれを全部放り出して、ポピュリズムそのもののような借金漬けの財政政策を実施するには、ナチスのような政権にでもすがるしかない。
一般のドイツ人の常識を全部打ち壊して前進することを目指すような政権でなければ、緊縮政策の魔力には勝てない。
シャハトはそう思い定めたのではないでしょうか?
いかに実績があり有能であることは証明済みの人の提案する政策であろうとも、人間が堅実な日常の常識を破るような政策は理解されないのです。
だって工場労働者や大企業の経営者まで全ての国民は、自分で貨幣を発行したことなどないのです。 貨幣と言うのは全ての人々にとって、勤労や相続などによって与えられる物なのです。
それを自在に刷り、或いは借金をすることなど、空恐ろしくて受け入れられないのです。
そして実はこうした日常感覚の規範が、今も人々を拘束しているのではないでしょうか?

しかしもしも当時の既存政党がシャハトの提案する政策を理解して、普通にシャハトにライヘスバンク総裁として辣腕を振るわせて、シャハトに経財相を兼任させていれば・・・・ヒトラー政権は生まれなかったし、第二次大戦も起きなかったのでは?
ワタシはどうしてもそう思ってしまうのです。
ナチス政権を産んだのは、絶望的な不況です。
そしてその不況から国民を救った事が、ヒトラーへの独裁を可能にしました。
だったら二度とナチス政権の悲劇を繰り返さないためには?
ナチスの知恵に学ぶしかないのです。
不況はどのように乗り越えたらよいのか?
自分の生活実感から緊縮財政を選ぶのではなく、シャハトや高橋是清のような、大胆なしかし現実的な政策を本気で考えるべきではありませんか?

推薦図書
息をするように嘘をつく韓国