橋本徹や神奈川県の黒岩知事など構造改革派の残党達が、しきりに唱えるのが「一国二制度」です。
裏の桜さんのところで知ったのですが、これに関して池田信夫大先生が、面白い事を言っています。
>私なら「チャーターシティ」をモデルにする。これはポール・ローマーのNGOが提案している新都市で、その条件は
- 新しい都市を建設する広大な空き地がある
- 都市の運営について事前のルールで決める
- 都市への参入も退出も自由とする
- すべての住民にルールをひとしく適用する
注目すべき特徴は、議会が存在しないということだ。大阪市をチャーターシティにすると、橋下氏があらかじめ大阪市の憲章(チャーター)を決めて宣言し、そのルールに従う人だけが大阪市に住む。いやな住民は出ていけばいい。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51783197.html

ワタシは低学歴なので、このチャーターシティなんてモノはここで初めて知ったわけですが、こんなモノは現実に存在するのでしょうか?
それにしてもこの話は奇妙です。 例えば「都市の運営について事前のルールで決める」なんて言うけど、そもそも都市建設前に誰がどのような権限でルールを決めるのでしょうか?
また議会が無いと言う事は、一旦決めたルールが後で変更追加を迫られた時には、どうするのでしょうか?
?
そして都市運営の為に必要な予算を誰がどこから徴収し、どのように使うかを誰が決めるのでしょうか?
独裁者が決めるのでしょうか?
或は直接民主主義にでもするのでしょうか?
何とも矛盾に満ちた代物ではありませんか?

しかし考えてみるとこの奇妙な都市は実在しました。
しかも多数実在し繁栄したのです。
その実在のチャーターシティーとは「租界」です。
租界は20世紀初頭から中華人民共和国成立まで、中国に多数ありました。 日本租界もありました。
租界が作られた土地は、列強の中国進出に有利な所ですが、元々都市ではなく多くの場合は荒蕪地でした。
列強諸国が広大な荒蕪地を中国政府から超長期で租借して、 都市を作ったのです。
つまり池田大先生のチャーターシティのうち「新しい都市を建設する広大な空き地がある」の条件を満たしています。

租界が唯の借地と違うのは、租界の中に中国の主権は及ばない事です。 だから租界を作った列強諸国は、その租界内でのルールはそれぞれ自国の法律その他に準拠して作りました。
つまり「都市の運営について事前のルールで決める」のです。
また港湾や道路、上下水道などの都市の産業、生活インフラを整備をしました。
租界のルールを住民に守らせたり、ルールの変更をしたりする権利があるのは、勿論租界を持っている国々の政府です。
フランス租界はフランス政府がルールを作り、フランス政府がインフラを整え、フランス政府から派遣された職員がその租界の管理運営をします。
イギリス租界はイギリス政府がルールを作り・・・・・・。
こうして一国二制度どころか、中国一国の中に、数か国の制度が出来る事になりました。
これらの租界の安全はそれぞれの租界を持つ国が、軍事力で保障しました。
池田先生が泣いて喜びそうな話ですね。

こうして租界の中は欧米並みの都市インフラ、産業インフラが整い、更に欧米の司法制度に似たルールによって運営されるようになりました。
だから中国の他の地域でのように、例えば役人が金持ちを無実の罪でしょっ引いて、拷問にかけて財産を巻き上げるなんて無茶苦茶な事もありませんでした。
それで多くの金持ちの中国人が、租界に土地を買って暮らすようになりました。
また産業基盤が整って多くの仕事があったので、貧しい中国人が職を求めて住みつきました。
租界の中の人口の圧倒的多数はこのような中国人でした。
「都市への参入も退出も自由とする」と言うわけです。
それどころか租界には中国の主権が及ばないので、政治犯となった孫文が日本租界に逃げ込むなどと言う事さへありました。
また第二次大戦中はヨーロッパから逃れたユダヤ人が多数日本租界に避難して、大戦終了までの間を過ごしました。

租界を作った国々は、皆民主主義国家でしたから、租界内のルールも自国のルールに準拠しています。
つまり基本的には「すべての住民にルールをひとしく適用する 」 のです。
これは当時の中国では画期的な事でした。
だから中国人にとって租界は素晴らしい所になりました。 そして喜んで租界に移住する住民が溢れ、どの租界も大都市になったのです。
どうです。
完璧でしょう?
さらに言えば租界のコンセプトは本来、池田大先生が好きな「都市を企業のように経営する」と言う理想そのものなのです。
>簡単にいうと、都市を企業のように経営するのだ。Esther Dysonも指摘するように、現代の都市は企業にますます似てきている。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51783197.html
企業って、企業のオーナーが自分の利益の為に設立し運営するものでしょう?
企業を所有する事で、利益を得て生活費を得るとか、資産を増やすのが目的でしょう?
租界もそれを所有する列強諸国が自国に利益の為に作り、そして運営したのです。
つまり不動産会社が貸しビルやマンションを作って利益を上げるのと同じ発想です。 不動産会社が貸しビルやマンションを所有するのは、別に住民やテナントの為ではありません。
家賃を取って利益を上げる為です。
高い家賃を取る為には、勿論テナントに魅力的な条件を作ります。 でもこれはあくまで自社の利益の為です。
そして店子は家賃を払っていれば、そこにいられますが、基本的にはその運営には無権利なのです。
だから店子が居住するビルやマンションの維持管理については何も言えないし、オーナーが決めた規則は守るしかなく、それが嫌なら出て行くしかないのです。
租界の住民も、租界のルールやインフラに不満があっても、何一つ言う権利はなく、出て行くしかないのです。
これが池田大先生の「足による投票」なのです。
>民主制も効率の悪い制度で、選挙で民意を代表するなどというのは神話に過ぎない。歴史的には、都市国家は市民の足による投票で競争してきたのだ。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51783197.html

簡単に言えば池田大先生の言うチャーターシティーの住民は、租界の中国人や貸しビルやマンションの店子と同様、その都市に主権者ではないのです。
これはこれで気楽でしょう。
だってワタシの知人はマンションに住んでいるのですが、そのマンションの管理組合が大揉めに揉めて、マンション内の人間関係が滅茶苦茶になってウンザリしているのです。
でも同じマンション内でもオーナーではなく店子として住んでいる人達は、そんな騒ぎには関係なく至って気楽に仲良く暮らしているのです。
この管理組合の揉め事に関する愚痴を聞いていると、中世の共和政都市国家内での、血みどろの政争がどのように起きたかと言う事が、何となくわかってきます。 「シモン・ボッカネグラ」とか「ロミオとジュリエット」とか「神曲」の世界です。
しかしマンションが自分の資産なら、また都市の主権者であれば、その権利や資産は自分で守り管理するしかありません。
非能率だろうと、オドロオドロシイ揉め事が起きようとも、自分の物は自分で守る為には自分達で話し合って力を合わせてそれを守るしかないのです。
それが民主主義の根源なのです。
ちなみに「民主制も効率の悪い制度で、選挙で民意を代表するなどというのは神話に過ぎない。歴史的には、都市国家は市民の足による投票で競争してきたのだ。」なんて全くの嘘っぱちです。
古代や中世の人達は、マンションや貸しビルから引っ越すように、簡単に他の都市に移ることなどできません。
彼等が都市を作って、それを非能率な民主主義で運営したのは、生まれそだった都市を出て、他の都市へ行くことなど殆ど不可能だったからです。
生まれ育った都市が戦争に巻き込まれたら、城壁を頼みに立て籠もりました。
陥落すれば皆殺しにされり、奴隷されたりする事になるとわかっていても、自分達が生存できる場所を守るには、最後まで闘って自分達の都市を守るしかなかったのです。
だから共和政を採用して、日常の意思決定に幾ら効率が悪くても、非常時に全ての市民が団結できるようなコンセサスを確保する必要があったのです。
租界はこの安全保障を完全に住民の外部に、つまりその租界の持ち主である国の軍事力に依存しているのです。
>特にグローバル化の中で、日本の地方都市はアジアの都市との都市間競争にさらされている。市民や企業を引きつけるには、制度の柔軟な変更が必要だが、その足枷になるのが主権国家(領土国家)である。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51783197.html
大先生はこんな事言うけれど、そもそも都市の生存を保障するのは、領土国家なのです。 安全保障なしに都市なんか成立しないのだから当然です。
そしてその租界の所有者である領土国家の国々は、非効率的な民主主義を採用していました。
それは当然でしょう。
だって不動産会社でも株式会社など、オーナーが複数いる場合はその合議制で運営しているではありませんか?
幾ら面倒でも株主を無視して会社を運営できるわけがないのです。
民主主義国家は国民主権、つまり国民全部が一株ずつ株を持っている株式会社みたいなものなので、株主総会をやらずに会社を運営できるわけはないのです。

このように考えれば、池田大先生の好きなチャーターシティや、そのバックにある新自由主義の本質が見えてきます。
つまり自分の権利を自分で守ると言う、人間にとって最も大切な事を、それが面倒臭いからと放棄して、「効率的になった」と言って喜んでいるのです。
実際池田先生の好きな香港は、この租界の残滓です。
香港が最も繁栄したのは、中華人民共和国成立後、共産主義を嫌った人々が香港に流れ込んだ頃です。
それまで中国にあった租界は全て消滅して、中華人民共和国に呑みこまれました。
けれどイギリスはその中で外交力を駆使して、香港の租借権を守りました。
イギリスの庇護の元で、香港は中国本土とは隔絶した繁栄をしたのです。
でも所詮イギリスの領土ではないし、まして香港の住民はイギリス国民ではありません。
だから租借期限が切れたら、イギリスはアッサリ香港を返還しました。
フォークランドの為なら、北アイルランドの為ならイギリスは血を流して戦ったのに・・・・・。

中国の支配に不安を感じた香港の住民達はカナダやオーストラリアに移住して、そこの国籍を取りました。 国籍を確保したうえでまた香港に戻って仕事をしている人もも大勢います。
しかしそれは大変お金がかかったのでそんな事をできたのはお金持ちだけです。
他の人々は幾ら不安でもそのまま香港に留まるしかありませんでした。
でもそんな事はイギリスの知った事ではありません。 不動産会社には元店子の人権を守る義務なんかありませんから。
中国は現在のところ、イギリスの作った制度をあまり変えずに香港を支配しています。
だって中国にしても香港は自分達の不動産のようなものなのです。
イギリス同様の利益を得たければ、イギリス同様の運営をするのは当然ではありませんか?
沢山家賃の取れる貸しビルを買った人は、大体その前のオーナーと同じ方法でビルを管理して、そのまま家賃を貰えるようにするのが普通じゃないですか?
そして店子はオーナーが変わっても、前と同様無権利です。

ワタシは低学歴だから新自由主義って良くは知らないし、経済学もわかりません。
しかし池田大先生のような所謂新自由主義者の話を総合すると、新自由主義の理想国家と言うのは中国ではないかと思います。
つまり都市のみなら国家を企業のように経営すると言う発想からすれば、企業のオーナーが少数の方が能率的なのです。
全国民が株主で始終株主総会、つまり国会を開いていないと何事も決まらないような国は確かに非能率なのです。
中国の場合はオーナーは共産党幹部で、他の国民は共産党の不動産の店子ですから、簡単ですね。 実際に中国では人民には土地所有権はないから、マジに店子なのです。
そして普通の店子と違うのは、殆ど人民は幾ら中国が嫌でも逃げる事は出来ない事ぐらいです。
だからオーナーは店子を虐殺拷問やりたい放題です。
共産党の金儲けに都合が悪ければ、環境汚染でもなんでもできます。
大体金儲けにとって他人の権利ぐらい都合の悪い物はないのです。

「オマイ、幾らオマイが低学歴でも、共産主義国家と、資本主義の極致である新自由主義を一緒にするって滅茶苦茶だろう?」ですって?
そうなかなあ・・・・。
だって資本主義の原則って、私有財産権の尊重と経済活動の自由の保障でしょう?
そして私有財産権とか経済活動の自由とかを保障するには、まず基本的人権の保障が無ければ意味がありません。
だってある日突然、理由もなく投獄されたり処刑されたりするような社会では、私有財産権どころじゃないでしょう?
でも権利とか自由とか言っても、言うだけでそれが保障されるわけではないのです。
権利を得るのも大変ですが、一旦得た権利を守る野だって楽ではないのです。
そのための制度が民主主義なのです。
つまり自分の権利は自分で守るのが原則で、そのためにお互いに助け合い、また監視し合うのが民主主義なのです。
それを非効率だからと言って放棄するのだから、いずれ無権利になるのです。
これだと共産主義でも、或は帝政とかその他の独裁者の支配下に入るしかないでしょう? 細かい違いならイロイロあるでしょうけど・・・・。
だから中国は新自由主義の理想社会です。
そしてそれゆえアメリカと中国は、我が尊敬sonoさんの仰るように「中国はアメリカのバックヤード」になるわけです。