前回のエントリー「イタリアの太陽 」で少し書きましたが、ワタシはデメルに呪われています。
このデメルと言うのはウィーンにあるお菓子屋さんです。 19世紀末から王室ご用達なった老舗で「世界一の味」を誇る店です。
なにしろ「デメルの味は世界最高であり、その味はこれ以下でもまたこれ以上でもあり得ない。」と言うのです。
http://www.demel.at/index_flash.htm
ワタシは元々ケーキ類に目がありませんでした。
だから生まれて初めて海外旅行で2000年にオーストリアに行った時は、勿論デメルに行きました。

ドイツやオーストリアにはカフェコンデントライと言うお店があります。 これはケーキ屋さんに喫茶店がくっついたもので、店でケーキを作って売っているし、その中の喫茶店でそのケーキを食べてお茶を飲むこともできるです。
ウィーンはカフェが有名です。
世紀末には多くの文人がカフェに集まって、各種の新聞を読み政治、学問、芸術について、熱い議論を交わした事が知られています。
今もそのようなカフェは沢山営業してます。
でもワタシのドイツ語ではこの手のカフェは問題外なので、もっぱらカフィコンデントライに行きました。
その王様がデメルなのです。

イヤ~~感激しましたね。 ウィーンの中心ケルトナーシュトラッセにある世紀末に作られた重厚華麗な店内には、ものすごい種類の巨大ケーキが並んでいます。
店員さんは凄く親切で感じが良いです。
「でも高いんでしょう?」って?
それがそうでもないのです。 ケーキは一個500円前後でした。 ただし皆弁当箱大です。 日本人なら3人前の大きさです。
コーヒー等も日本の普通の喫茶店並の値段でした。
唯一の問題はこのケーキの巨大さで、いかに甘党のワタシと雖も、一度に一個しか食べられないのです。
だからケーキの選択は困難を極めました。
しかしその困難を乗り越えて、決断を下して食べたケーキの美味しかったこと!!!
確かに世界一だ!!
と、思ったのです。

ちなみに戦争が強くて強面のゲルマン民族ですが、連中実は大の甘党です。 ビールやワインも好きだけど、ホントはケーキに目が無いのです。
だからこのデメルだけじゃなくて、有名なカフェコンデントライがドイツ、オーストリア中に沢山あって、どこも巨大ケーキを貪り食うゲルマン人で繁盛しているのです。
料理に関しては、イタリア、フランスに遠く及ばないドイツですが、ケーキだけはイタリアを凌駕してフランスをも圧倒しているのですから。
ヒットラーだってウィーンで貧窮に泣いた時は、ケーキ屋のショーウィンドーを見て涙を零したに違いありません。

かくも素晴らしいデメルですから、ワタシが二度目に海外旅行をした2002年にも勿論行きました。 最初にウィーンへ行った時にまずデメルに行き、そして帰国する直前にも行ったのです。
ああ、しかしこれが運の尽きでした。
2002年の初夏、ヨーロッパ全土が異常気象による猛暑に襲われました。 特にワタシが最後にウィーンにた6月の終わりには真夏日に熱帯夜と言う日が続いたのです。
ところでワタシは病持ちで体力がありません。 それでそれまでの旅行中にもう殆ど半死半生になっていたのです。
しかしせっかくのウィーン最後の日々をホテルで寝てなんかいられないじゃありませんか?
ワタシは幽霊のようになって歩き回りました。
そして日本へ帰る前日デメルへ行ったのです。

暑さと疲労で体力は尽き果て、まして食欲などゼロでした。
しかしここでデメルのケーキを諦めて帰る事ができよるでしょうか?
そんな事をしたら次にいつ食べられるというのでしょうか?
ワタシは体力を振り絞って炎天のウィーンの街を歩き、幽霊のようになってデメルへたどり着きました。
そして巨大ケーキとコーヒ―を注文しました。
ワタシはそれでなくてもヨレヨレで貧乏臭い中年女ですが、この時は途中イタリアのホテルに衣類の大半を置き忘れて、着替えがなくなり寝間着替わりの古いシャツに、フィリピン人の露店で買ったズボンと言う、感動的なばかり貧乏ファッションでした。
しかしデメルの店員さんはにこやかにコーヒーとケーキを持ってきてくれました。 コーヒーは所謂ウィンナーコーヒーです。
実はウィーンでコーヒーと言うと、必ず生クリームと砂糖がついて来るウィンナーコーヒーなのです。

コーヒーと生クリームをテーブルに置きながら、店員さんは微笑みながら言いました。
「生クリームをぜひお試しください。」
ワタシのドイツ語だってこのぐらいはわかります。
それでワタシは生クリームを試しちゃったのです。 暑さでへたばった胃袋に巨大ケーキと生クリームをたっぷり入れたコーヒー!!!
せめて生クリームだけは自重するべきだったのに、あの店員さんの微笑みでその自制心が吹き飛びました。
そしてケーキを全部平らげ、付いてきた生クリームを全部コーヒーに入れて飲みました。
後はもう目茶目茶です。
つまりホテルに帰る途中で嘔吐して、翌日な何も食べないで飛行機に乗り、日本へ帰りました。
当然での報いですが、帰国してから半年ぐらい体調がガタガタでした。 それでも持病が悪化しなかったのは幸運と言うべきです。
しかしそれ以外に思いがけない災難に襲われました。
あれ以来ケーキが食べられなくなったのです。 甘い物が嫌いになったわけではないです。 だから羊羹でも飴でも食べます。
でもケーキを買おうとしても、なぜか買えません。 ケーキ屋さんのショーウィンドーで綺麗なケーキが並んでいるのを見るととても楽しいのですが、でも買えないのです。
買って食べる事がどうしてもできないのです。
だからいつもケーキ屋さんの前で涙を飲んで引き返します。
この状態が今も続いていているのです。 だから昨日もクリスマスケーキを諦めるハメになりました。
一度の食べ過ぎって8年もケーキが食べらなくなるって酷いじゃないですか?
一体いつになったらワタシはケーキを食べられるのでしょうか?
ホントにどうなっているんでしょうか?
きっとあのデメルの店員さんは魔女だったのです。
そしてあの時ワタシに呪いを掛けたのだと思います。
「お前は今後死ぬまでデメル以外のケーキを食べてはならぬ。」と。