カラヴァッジョの生涯がまた映画化されるそうです。 この画家はバロック絵画の先駆者となる天才ですが、殺人犯です。
彼は生涯に2度殺人を犯しました。 最初の殺人は37歳のときローマで起こしました。 この事件の詳細は諸説ありますが、どれをとっても他人との些細な理由からの喧嘩口論である事は一致しています。
カラヴァッジョは非常に激しい性格、むしろ粗暴な性格だったと言います。 そして常に無頼漢と親しく交わりいつもこの手の喧嘩口論や暴力事件をおこしていたのです。

聖マタイの召命
カラヴァッジョの生きた時代は今と比べれば、比較にもならないほど治安も悪く陰惨な時代でした。 でもやはり殺人は重罪です。 彼は死刑判決を受けました。
しかし彼のパトロンであったシピオーネ・ボルゲーゼ枢機卿の圧力で処刑を免れて、ナポリへ逃れます。
そしてその後聖ヨハネ騎士団の支配下にあったマルタ島に移ります。
ところがそこでまた殺人を犯します。
彼はまた逮捕投獄されました。
そして何とか脱獄して、またイタリア半島に戻りますが、間もなく息絶えました。 享年38歳でした。

美しい女占い師
ワタシ達は優れた才能を持つ人は、優れた人格を持つ事を期待します。
優れた芸術にはその作家の魂が宿っていると考えます。
だから優れた芸術家の魂は、特別に美しく優れたものだと考えます。
でも必ずしもそうでもないのです。
芸術は芸術でしか評価できません。
それにしても、自分のお抱えの画家だからと言って、キリスト教の高位聖職者が、司法に圧力を掛けて殺人罪をもみ消すとか、今のワタシ達の倫理観念からすれば、アタマがクラクラするような話です。
そして殺人犯の描いた絵が、聖堂に掲げられ、それを祈りの対象にするのもまた凄い話です。
これがカラヴァッジョの生きた時代の特質なのでしょうか?
それともラテン的精神の特性によるものでしょうか?

しかし少なくともイタリア人と日本人では、この才能と人格への評価基準は随分違うようです。
何しろイタリアではこのカラヴァッジョの肖像が10万リラの札になっていたのです。 この札はユーロ紙幣に切り替わった2000年まで流通していました。
カラヴァッジョを札にした理由は「優れた芸術家だから」です。 しかしイタリアには「優れた芸術家」なんて掃いて捨てるほどいるのです。
そんな理由で札にしていたら、何十種類もの札を作らなければなりますまい。
さすがにイタリアでも「何も殺人犯を札にしなくても」と言う声もなかったわけではないのですが。
ついで言うと、この札の絵は上の写真の「美しい女占い師」です。 ところでこの占い師の女は手相を見る振りをしながら、この若者の指輪を盗もうとしているのです。
紙幣に盗みの現場です。
カラヴァッジョの絵には崇高な宗教画や美しい静物画なども沢山あるのに。

今イタリアのユーロコインにはコロッセオの図柄が使われています。 ユーロは紙幣は全EU共通ですが、コインは各国で図柄が違うのです。
コインに自国を代表する建築を描くの当然として、いくら有名でも殺人競技の競技場をコインにしなくて良いではないかと思います。
イタリアには古代ローマから現代まで、有名な建築だって、優れた建築だって腐る程あるのですから。
でもこれもイタリア人の感覚なのでしょうか?

ダビデとゴリアテ
http://art.pro.tok2.com/C/Caravaggio/Str017.htm
優れた才能を持つ事は、必ずしも優れた人格には繋がりません。 或いは全然逆で、その心の闇故に優れた芸術を生むのかも知れません。
この「ダビデとゴリアテ」はカラヴァッジョ晩年の代表作です。 研究によるとこのダビデとゴリアテは、両方共カラヴァッジョ自身の顔だそうです。
少年時代の自分が、晩年の自分を斬首したのです。
自分自身をこのように見つめる人が、普通に健全な精神を保つ事は難しかったと思います。
カラヴァッジョの作品を見たい方はこちらへ
http://art.pro.tok2.com/C/Caravaggio/Caravaggio.htm
国母選手や朝青龍の品格に対する騒動など、才能ある人と人格の問題を見るたびにこの画家の事を思い出します。