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2023-09-27 12:19

えげつないアテネ スパルタの戦い その2

 少しサボっていましたが今日は「ペロポネソス戦争 スパルタの戦い」について書きます。
 前回「ツキディテスの罠」でも書いたのですが、ペロポネソス戦争の原因はアテネの台頭です。
 二度のペルシャ戦役で勝利したアテネが東地中海の覇者となったのですが、しかしその後アテネは益々国力を強め、そして更なる覇権を求めるようになったことが原因なのです。

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 二度のペルシャ戦役に勝利したことで、ペルシャの侵略の脅威は一旦収まりましたが、ペルシャは以前大国です。
 それで東地中海諸国はアテネを中心に対ペルシャ軍事同盟を作りました。 これが「デロス同盟」です。

 しかし軍事力だけでペルシャ帝国の侵略を防ぐ事は無理と思ったデロス同盟諸国は、ペルシャ帝国と外交交渉を行い「カリアスの平和」と呼ばれる、デロス同盟・ペルシャ不可侵条約を結びます。
 この条約はその後きっちりと機能して、以降ペルシャ側からギリシャ諸国への侵攻は起きませんでした。 つまりこれでペルシャ帝国とギリシャ諸国の国境の現状変更は不可能になったのです。

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 これは良い事ずくめと思うのですが、しかしこうなると更なる覇権を求めるアテネは、その矛先を西地中海に向けざるを得なくなりました。
 しかし西地中海はデーバイやコリントなどペロポネソス同盟諸国のテリトリーでした。
 アテネはそこに手を突っ込むのです。
 しかもそのやり方がえげつなくてね。

 このアテネの権益拡大の手法が塩野七生さんの「ギリシャ人の物語」に詳しく描かれているんですが、ホントに大阪弁で「えげつない」としか言いようのないやり方です。
 そしてこの「えげつない」権益拡大を推進したのは、ペリクレスなのです。
 しかしペリクレスは民主主義の英雄と言える人ですから、現代の中国や帝国主義華やかなりし頃の大英帝国に比べても遥かに洗練されたやり方を使います。

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 アテネはまずコリント湾の出口のナウパクソスに海軍基地を作ります。 コリント湾と言うのは口のつぼまった徳利みたいな形をしており、ペロポネソス同盟最大の最大の海軍国コリントはこの徳利の底にあるのです。
 それなのに徳利の口元にアテネの海軍基地を作られたのです。 
 当然、コリント側はアテネに猛抗議します。  
 またペロポネソス同盟の盟主であるスパルタにも、この問題を訴えて、アテネ基地撤去の支援を要求します。

 そこでスパルタはペロポネソス同盟の盟主として、この問題についての全ギリシャ会議を呼びかけました。 
 ところが結果は、アテネのナウパクソス領有と海軍基地の存在を追認する事になってしまいました。
 何でこんなことになったのか?

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 実はペリクレスは実はスパルタ王アルキモダスとは親友ともいえる間柄でした。 そして当時のスパルタは国内の隷属民ヘイロットの反乱に手を焼いていました。 
 アテネがナウパクソスを領有すると、そこにスパルタで反乱を起こしていたヘイロット1万人余りを受け入れたのです。
 これでスパルタでのヘイロットの反乱は収まり、アテネはスパルタの暗黙の了解のもとにナウパクソスを領有したと言うわけです。
 アテネとスパルタにとってはウィン・ウィンですが、こんなのコリントにとって許せるわけないでしょう?

 しかしコリントの怒りをよそに、ペリクレスはさらなるアテネの権益拡大に向かいます
 次にペリクレスが狙ったのは東地中海の北端、黒海に近いアンフィポリスでした。
 ペリクレスとしてはここを抑える事で、黒海貿易の基地にする他、後背地にある豊かな森林資源を確保できることが魅力でした。
 そしてそのアンフィポリス確保にも、前回のナウパクソスの時と同様、魔法のように見事な外交を駆使しました。

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 ペリクレスと言う人は、元来軍事的な才能は今一で、自分もそれを知っていたのか、直接的な軍事行動はあまり使いませんでした。
 しかし歴史的な雄弁家で「戦死者追悼演説」などは今も民主主義の精神を表す物として、ヨーロッパの諸国で教科書に掲載されているほどです。
 アテネの最高行政職であるストラテゴスに30期連続当選し続けた人です。
 
 ストラテゴスは一期一年、アテネを10個の選挙区にわけて、各選挙区から一人選ばれる役職です。 そして10人のストラテゴスの権限は完全に同等でした。
 ところがペリクレスは抜群の雄弁と能力で、30期連続当選を続けたので、経験でも実務能力でもペリクレスに対抗できる人がいませんでした。
 更に超長期政権の間に、スパルタ王アルキモダス始め、周辺諸国の政治指導者とも強い人脈を築きました。 お陰で彼は前記のような魔法のような外交ができたのです。

 だからツゥキディテスはこのペリクレスの30年を「民主主義と言いながら、実際は1人の男が支配した時代」と評しています。
 そしてソクラテスは「民主制は僭主制に至る」と言っていますが、政体や制度がどうであれ当時のペリクレスの実力は「僭主」つまり独裁者その物だったのです。

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 そしてこのペリクレスは自身の能力と権力をフルに生かして、アテネの権益拡大に務めたのです。
 つまり彼の雄弁と人脈をフルに生かして、周辺諸国を上手く丸め込んで、これと言った軍事行動もなしに、要衝をアテネの物にしてしまうのです。
 
 しかしこんなことを再々やられては、やられた方は怒りをため込み続けるのが当然ではありませんか?
 一方、アテネ側としては「侵略戦争したわけじゃないし」と言うので、全然この感情に配慮する事もなく、成功を重ねれば重ねる程、更なる権益獲得を求める事になるのです。
 これじゃいずれ爆発して当然でしょう?
 これがつまり「ツキディテスの罠」新興国の台頭が戦争の原因になると言う話です。

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 それにしても思うのですが、アテネの際限もない覇権主義は、正に民主主義の英雄ペリクレスの時代に最も顕著だったわけです。
 ワタシ達、戦後教育を受けた世代は学校教育その他では「民主主義=平和」「侵略戦争=独裁者」と教わっているのですが、このアテネの例を見ると、ワタシはこれ全然信用できません。

 イヤ、アテネだけではなく古代ローマでも領土拡張に励んだのは、共和制時代で帝政になってからは守勢にまわっています。
 ヨーロッパ列強が植民地獲得に励んだのも市民革命以降です。

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 そしてペリクレス時代のアテネも共和制ローマでも、また帝国主義全開だった当時のヨーロッパ諸国でも、国民世論が侵略戦争を支持しているのです。
 領土拡張を求める国民が、兵士となって戦うから民主主義国家の軍隊は非常に士気が高く強いのです。 だから侵略戦争に勝てるのです。
 
 こうした歴史を考えると、ワタシは「民主主義=平和」論は全然支持できません。
 
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2023-09-14 11:30

ツゥキディテスの罠 スパルタの戦い その1

 最近「ツゥキディテスの罠」と言う言葉が聞かれるチラチラ聞かれるようになりました。   「ツゥキディテスの罠」とは「一つの国に国力が急激に上昇すると、周りの国々との軋轢が生まれ、そこから大戦争が勃発する」事を意味しています。
 現在この「急激に国力が上昇している国」は中国です。 それで現在「ツゥキディテスの罠」と言う言葉は、中国が原因となる戦争「台湾侵攻」の脅威を指しています。

 しかし元祖「ツゥキディテスの罠」はペロポネソス戦争でした。 そしてこの時代「急激に国力が上昇した国」はアテネでした。
 アテネは第一次ペルシャ戦役、第二次ペルシャ戦役に勝利して、東地中海とその沿岸から完全にペルシャ勢力を放逐しました。
 のみならず第二次ペルシャ戦役時に創設した海軍力をその後も維持する事で、東地中海の制海権を確保しました。

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 これには良い事も悪い事もありました。
 良い事はこれで東地中海の安全が完全に確保されて、この地域に完全な自由貿易体制が確立した事です。
 これは東地中海周辺諸国を大きく経済発展させました。
 
 尤も一番発展したのはアテネです。
 アテネは古代国家でありながら、主食である小麦は黒海周辺やエジプトから輸入し、国内の農地では専らオリーブや葡萄酒など貨幣価値の高い製品を作ると言う状態になりました。
 また陶器や武器など手工芸品の輸出もアテネの経済を支えました。
 
 驚くのはアテネ市民の中には海外資産を持つ人達がいる事でした。 そりゃ今では一般国民でも気楽米国債など海外資産を気楽に買えますし、それで日本は海外資産保有額で世界最高になっているぐらいです。
 でも、紀元前300年頃に海外資産って?

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 この時代のアテネ市民の海外資産は主にトラキアなど東地中海北部地域の鉱山でした。 アテネは元々商業・手工業で繁栄した国で、これで富を蓄えたアテネ市民達はトラキアの鉱山開発などに投資し、この利益で生活ができる富裕層が第一次ペルシャ戦役以前から存在しました。
 例えばツゥキディテスなんかも元々海外資産家でした。

 これらの海外資産はペルシャ帝国の侵略なんか受けたら一発で喪う事になるのですが、しかし二度のペルシャ戦役の勝利で、東地中海全域からペルシャ帝国の勢力が放逐されて、アテネの勢力圏になった事で、アテネ市民の海外資産も完全に守られる事になりました。
 となるとペルシャ戦役勝利後は、こうした海外投資も更に活発化して、アテネは経済はますます繁栄したのです。

 しかし東地中海の国々の人々が全てこれを手放しで喜んだわけではありません。
 ペルシャ戦役後、アテネは対ペルシャ防衛と海賊対策の為に、安全保障の為の同盟を作りました。
 これがデロス同盟です。
 この同盟に基づいてアテネはギリシャ世界最大最強、ペルシャ帝国にも対抗できる海軍を維持し、更にその海軍を使って海賊対策の為に定期的なパトロールを行うようになりました。

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 でもこれってお金かかるでしょう?
 で、アテネはその海軍の維持費、パトロールの為の経費と言う名目で、デロス同盟の加盟国から多額の「思いやり予算」を要求したのです。
 ペルシャ帝国や海賊の脅威がなくなるのは、東地中海の国々にとっては大変結構な事なので、その意味ではデロス同盟はありがたい存在でした。 だから大多数の国がデロス同盟に加盟してアテネに「思いやり予算」を払いました。

 でもね。
 この予算は適切だったのでしょうか?
 取り過ぎ、ぼったくりじゃないの?

 「思いやり予算」を支払う側は常にアテネに対してこのような不信感を持つようになりました。
 また自由貿易体制になったと言っても、自由貿易体制と言うのが全ての人に利益になるとは限りません。 これはTPP反対論とか思い出してもわかりますね。
 つまりデロス同盟とアテネの繁栄は同盟国内でも全てが歓迎とはいかなかったのです。

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 しかしながらアテネはさらなる繁栄を求めます。
 更なる繁栄の為にエジプトに遠征したり、それが失敗すると今度は西地中海への進出を試みるのです。
 一つの国が成功してイケイケモードになると、止まらないんですね。

 けれども西地中海にはデロス同盟とは別の同盟ペロポネソス同盟がありました。 ペロポネソス同盟の盟主はスパルタで、デーバイ、コリントなどの西地中海に面するギリシャの主要都市が参加していました。
 尤もペロポネソス同盟はデロス同盟のような明確な軍事同盟と言う程でもありせんでした。
 
 そもそも盟主であるスパルタが「スパルタ ファースト」と言うとより「スパルタ オンリー」とでも言うべき外交姿勢を国是としていたからです。
 「スパルタ オンリー」
 つまりスパルタとしてはスパルタに直接関係のない事には一切関わりたくない、スパルタの国益=安全保障以外には何の関心もないのです。

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 これはアテネとも、実はペロポネソス同盟の同盟国であるデーバイやコリントとさへ決定的な違いです。
 スパルタが「スパルタ オンリー」でいられるのは、スパルタが自給自足の農業国で、対外貿易など殆どしないし、スパルタ市民は幼少期から例のスパルタ教育を受けて、軍事教練に明け暮れるだけで、経済成長なんて一切考えていないからです。
 
 だからスパルタは経済的にはアテネは勿論他のギリシャ諸国に比べても遥かに貧しい国でした。
 しかし当時はハイマースとかレオパルト2みたいに開発や維持にお金のかかる兵器は存在しませんでした。 それで陸軍の力は兵士の数と練度だけで決まりました。
 それで動員できる兵士の人口がアテネと同等で、しかその兵士と言うが皆スパルタ教育を受けて練度抜群のスパルタは、ギリシャ最強の陸軍国だったのです。
 で、スパルタ人達は自分達が最強の陸軍を持ち、それでスパルタの安全さへ保障されたらそれで満足なのです。

 だったら何でペロポネソス同盟の盟主になんかなったのか?と言えば、デーバイやコリントなどの国々がアテネを警戒して何とかアテネに対抗しようとしたからです。
 その場合、ギリシャ最強の陸軍国であるスパルタが一番頼りになります。 
 そこでスパルタ人の最大関心事である「名誉」に訴えて、盟主に祭り上げたわけです。

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 こういう状態でアテネが益々台頭して、その覇権を西地中海へ広げ、デーバイやコリントの権益を侵そうとし始めたのです。
 しかもそのやり方がえげつなくてね。
 
 そりゃコリントやデーバイなど西地中海でアテネ同様に商工業で生きる国々が危機感最大値になるのも当然と言わざるを得ません。
 そして遂にこれらの国々がブチ切れて、スパルタの尻を叩いて対アテネ戦の開戦を要求したのです。

 ペロポネソス戦争開戦の原因がこれだから、特定の一国の台頭が地域のパワーバランスを壊して大戦争になる事を「ツゥキディテスの罠」と言うようになったのです。
 因みにツゥキディテスは前記のように海外資産で生活する資産生活者だった人で、ペロポネソス戦争の顛末を「戦記」として描きました。
 
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2023-09-13 13:02

前書き ペロポネソス戦争 スパルタの戦い

 塩野七生氏の「ギリシャ人の物語」を読んだ時から、書きたいと思い続けてきたのが、ペロポネソス戦争におけるスパルタの戦いです。

 ペロポネソス戦争はアテネを盟主とするデロス同盟と、スパルタを盟主とするペロポネソス同盟の戦いで、約30年続いた末にアテネの無条件降伏で終わりました。
 当時ギリシャの主要国はほぼすべてデロス同盟か、ペロポネソス同盟に属していた為、これはギリシャ世界全てを巻き込んだ全面戦争でした。
 そして途中何度か休戦や停戦を経ながらも30年続き、最後にアテネが無条件降伏する事で終えたのです。

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 ペロポネソス戦争は有名な戦争なので、この戦争の事を知らない人は少ないと思うのですが、しかしこの戦争の結末が実はアテネの無条件降伏だった事を知らない人は案外多いのではないでしょうか?
 実はワタシも塩野さんの「ギリシャ人の物語」を読むまで知りませんでした。
 実はワタシは高校時代から結構古代ギリシャファンだったのにです。
 
 だって古代ギリシャについて書かれた本は沢山あるのですが、この戦争の経緯や結末を書いた本って殆どなかったのです。
 古代ギリシャに関する本の殆んどが、古代ギリシャの文化や社会制度などについて書かれたモノですが、実は歴史についてはあまり書かれていません。
 更に言うと民主主義のアテネと軍国主義のスパルタが戦って、アテネが無条件降伏と言う結末を書きたくない人が多かったからかもしれません。

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 でも塩野七生さんの「ギリシャ人の物語」はアテネを中心に都市国家アテネの成立から民主制の確立、その民主制国家がペロポネソス戦争に突入してその戦争の顛末、そしてアテネの無条件降伏、古代ギリシャ世界の没落、アレキサンドロス大王の東征と大王の死までを描いていました。
 塩野七生氏の「ギリシャ人の物語」は3巻あるのですが、2巻のほぼすべてがこのペロポネソス戦争を描いています。

 塩野さんは「ギリシャ人の物語」の中でペロポネソス戦争をアテネの側から描いているのですが、しかしこれを読むと「なんで民主主義国家アテネが軍国主義国家スパルタに無条件降伏する嵌めになったか?」が納得できました。

 因みに塩野さんがこの戦いをアテネ側から描いたのは、塩野さんが反軍国主義とかそういう話ではなく、そもそもスパルタと言う国は、アテネと同じギリシャ文字を使ってはいた国家の記録を残すと言う習慣はなく、更に記念碑その他の建造物も殆ど残っていないので、ペロポネソス戦争についてもスパルタ側の資料が殆どないからです

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 一方アテネ側には同時代人としてこの戦争を戦ってそれを記録したツゥキディテスの「戦史」始め多数の記録が残っています。 
 そればかりかこの戦争の最中こそがアテネ文化の黄金時代と言える程で、ソクラテス・アリストパネス・エウリピデスなど古代ギリシャを代表する多数の文化人がこの時期に現役で活躍しているのです。
 そして彼等はその作品を通じてこの時代を描いていきました。

 例えばアリストパネスの喜劇では、当時のアテネの指導者が実名で描かれ風刺されているのです。
 アメリカやイギリスは民主主義を看板に第二次大戦を戦ったのですが、しかし第二次大戦中にチャーチルやルーズベルトを笑いものにする映画がヒットしたと言う話は聞いた事がありません。 
 だからアテネの民主主義、表現の自由と言うのは本物でした。 

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 こんなわけでアテネってホントに自由で民主的で素晴らしい国で、それ故この戦争の最中にさへ歴史に残る名作が多数生まれたのですが、しかしそのように完全に言論の自由が表現の自由が完璧に保障されていたにもかかわらず、結局「無条件降伏」してしまったのです。
 それを考える意味でもペロポネソス戦争と言うのは非常に興味深い戦争です。
 
 そしてそれを考えると「ではなぜスパルタはアテネに勝てたのか?」を考えざるを得ません。
 それでこれから他にエントリーしたいテーマがない時に「ペロポネソス戦争 スパルタの戦い」を書いていきたいと思います。

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 但し結局ワタシの話の種本は塩野七生氏の「ギリシャ人の物語」だけです。 だからワタシの話は塩野さんの「ギリシャ人の物語」のペロポネソス戦争の記述から、スパルタに関する記述を拾い、それにワタシの感想を加えただけの話になります。
 それでもよろしかったら暇な方は読んでください。
 
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2023-09-07 11:31

「発禁小説集」 LGBTと言論封殺の実例

 昨日、地区センターの図書室から、前々から貸し出し予約をしていた本が届いたと言う、連絡がありました。
 予約したのはかなり前だったので、ワタシはもう予約していたことを忘れちゃったのですが、それでも届いたので取りに行きました。

 届いた本は笙野頼子の「発禁小説集」でした。
 実はワタシはこの作家を全く知りませんでした。 
 それでもこの本を読もうと思ったのは、彼女が作品の中でLGBTに触れた文章が、活動家の反感を買い、その為彼女の作品の多くが、文芸雑誌「群像」等への掲載を拒否されたと言う話を聞いてたからです。

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 「発禁小説集」は掲載を拒否された作品の中の主だったものを、集めた小説集です。 
 本の奥つ城を見ると、彼女は1981年に「群像文学賞」を受賞して以降、芥川龍之介賞、三島由紀夫賞など幾つもの文学賞を受賞している純文学作家のようです。
 そして本の前書きや作品を読んでみるとわかりましたが、彼女は作家デビュー以来「群像」など純文学誌を中心に作品を発表して、作家活動を続けたようです。 

 ところが数年前からこれらの文学誌や彼女の作品を扱ってきた出版社が、一斉に彼女の作品をボイコットし始めたのです。
 彼女の作品をボイコットした雑誌社や出版社は「雑誌への掲載を続けてほしければ、作品中のトランスジェンダーを差別する文章の削除しろ。」と要求しました。 中には「削除すれば一定の謝礼を支払う」と言う条件を提示したところもありました。
 しかし彼女はこの要求を断固拒否した所、これまでの馴染みの雑誌社や出版社から完全にボイコットされて、作品を発表できなくなっているのです。

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 で、ワタシとしてはこうしたLGBTの言論封殺の実態が知りたくてこの本を読む事にしたのです。
 一体彼女は作中でどんな事を書いていたのでしょうか?

 それで夕べから今日の未明にかけてこの本をあらかたか読んでみました。
 この本は「小説集」となっていますが、掲載された作品はワタシが読んだ感覚では小説と言うよりむしろ「日常雑記」「エッセイ」とでもいうべき物でした。
 つまり明らかに作者と思われる女性の日常生活が区々書かれているのです。 ワタシはこの手の「小説」はこれまで読んだ事がないので非常に戸惑いました。

 その「小説」の中で、主人公は在特会のデモのカウンターデモに行ったり、TPPや有事法制に反対する活動をしたりしています。
 そしてTPPに反対して国会採決を物理的に妨害した山本太郎を絶賛しています。
 「発禁小説集」の中でコロナパンデミックの間を描いた「引きこもりてコロナ書く」と言う作品の中では、安倍総理の事を阿鼻ーと書いたり、政府のコロナ対策は国民を殺す為であると書いています。 

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 つまりこの人は完全な左翼です。
 この人は党員ではないけれど共産党の熱烈な支持者で、この人の文章何度も赤旗に掲載されたし、共産党で講演したり、選挙応援にも行っていたのです。
 
 で、「群像」等の文芸誌が掲載拒否した原因となったLGBTに関する話は、欧米では「性自認」が絶対視されて、男性性器そのままの男が女子トイレや女湯にはいれるとか、強姦犯が女性を自称して女子刑務所に入っているとか、子供に性ホルモンや性適合手術が奥菜われているとか、苺畑カカシさんなどがこれまでブログで紹介してくださっていた英米情報と全く同じ事を紹介しているのです。

 そして彼女自身の考え、思想として「男性性器そのままの男、男性の体そのままの男が『自分は女性』と名乗るだけで、女性になれるのはオカシイ」と言う事を明確に書いています。
 またこういう社会の状況について「そもそも女性とは何か?」と言う疑問を呈するとともに」結局現在欧米で起きているトランス差別反対運動は、実は女性の抹殺、消去の運動ではないか?」と言っています。
 またLGBTに差別反対と言ってトランスジェンダーが、LGBと一緒にされる事にも疑念を呈しています。 なぜならLGBは性愛の相手が異性か同性かと言う話ですが、T・トランスジェンダーは自己認識の話だからです。

 さらにまたトランスジェンダーが女性を名乗る事は、性犯罪等で女性の人権と安全を脅かし、さらには女性抹殺、女性消去になるにもかかわらず、フェミニストの多くが沈黙している事に対しても苛立ちを露わにしています。

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 つまり笙野頼子氏は熱烈な共産党支持者で、安倍総理や自民党の政策には強烈に憎悪しているにもかかわらず、トランスジェンダーと現在左翼が行っているトランス差別反対運動に対する姿勢と理念は、実は在特会会員でネトウヨのワタシや、アメリカの右派・共和党支持者の苺畑カカシさんと全く同じなのです。

 女性を自称するだけで、男が女子トイレなど女性スペースに入ってくる、女湯や女子更衣室にも入ってくる。
 こんなの女性なら皆絶対イヤです。 
 右翼・左翼に関係ないですよね? しかも非常に切実な問題です。
 これは完全に生理的な問題でイデオロギーも支持政党も関係ないのです。
 TTPや有事法制とは違うんです。
 だからこれまで極左として反日、反自民で騒いでいた女性、共産党の支持者でもこれは「絶対我慢できない!!」
 この気持ちは凄くわかります。

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 それで彼女は率直にその気持ちと自分の考えを、自分の作品に書いたのです。
 するとたちまち仲間の左翼からバッシングに遭い、更に彼等は出版社にも圧力をかけて、彼女の作品を掲載できないようにしてしまったのです。

 因みに彼女がLGBTで共産党など左翼と意見を違えているのは、トランスジェンダーの女子トイレ使用などだけです。 
 それで「新潮45」の杉田水脈議員論文などには、「差別だ!! 許せない!!」と杉田議員を非難しているのです。
 それでも左翼とLGBT活動家達は絶対に彼女を許さず、彼等がトランスジェンダー差別と感じる文章を削除しなければ、彼女の小説の掲載は許さないと、「群像」など文芸誌に圧力をかけるのです。
 で「群像」ほか文芸誌の方もアッサリとその圧力に屈したのです。

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 こうなるともう完全なキャンセルカルチャーです。
 欧米では前々からこのキャンセルカルチャーが横溢していました。
 キャンセルカルチャーとは、言論人であろうと芸能人やスポーツマンであろうと、或いは全く一般人であろうと、トランスジェンダーなど特定の属性に対して「差別している」とされたら、反差別活動家やその同調者の総攻撃に遭い、言論を封殺されるのです。

 これは民主主義社会であってはならない問題なのですが、それでも日本ではそれほど深刻ではありませんでした。 攻撃されるのは自民党の重鎮など一部の人達だけでした。
 ところが「発禁小説集」を読む限り、キャンセルカルチャーは実は日本でも既に広がっていたとしか思えません。 
 読んでいて暗澹たる気持ちになる「小説集」でした。

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 因みにワタシはこの本を全部は読んでいません。 読んだのは8割ぐらいです。
 目が悪くて本を読むのが辛いと言うのもありますが、「読み物」としては全然面白くないと言うか、ゲンナリする本だったからです。
 特に前述の「引きこもりでコロナ書く」は半分でギブアップしました。
 
 この人が左翼で、政治的にワタシとは真逆の意見を持っているのは構いません。 自分とは真逆の意見を持つ人の本を読むのも良い事だと思っていました。
 さらにとこの人は1956年生まれで、1954年生まれのワタシとは同年配だし、作品を読んでいくとわかるのですが独身で、難病患者で猫大好きなど、ワタシとは似たモノ同志で、似た境遇です。
 しかもトランスジェンダーと女性の人権については、全く同意見です。

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 しかしねえ・・・・反対だと言うのはいいけれど、何で反対かと言う客観的な意見は一切書かず、とにかく「悪い」「許せない」とばかり呪詛のように書き続けられてもね・・・・。
 ワタシもTTP、平和安全法制、コロナ対策など、彼女が作中でこき下ろすものをについてはそこそこ調べた上でブログに書いてきました。
 そういうワタシの立場から言えば、反対するのは良いけれど、反対するならするでちゃんと反対の理由と根拠を出してほしいと思うのです。
 尤もこれが「小説」である所以でしょうか?

 で、こういう人が心酔してきた共産党や令和新選組など極左政党は、LGBTとトランスジェンダーの件では完全に彼女を裏切ったのです。
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 実はLGBTと言うよりトランスジェンダー差別反対で、共産党や令和新選組など左翼政党や左翼活動家の態度にショックを受けた左翼女性と言うのは、笙野頼子氏だけではありません。
 これまで熱心に左翼活動をしてきて「差別反対!!」を叫び続けた女性達が、トランスジェンダーの件で左翼政党や左翼活動家の対応に愕然としている例は沢山あります。

 彼女達はこれまで「女性」として差別される立場にある事で、無条件に左翼政党や左翼活動家の支援を得られると信じていたのです。
 それが仲間だと思っていた左翼活動家や左翼政党が男を女子トイレに入れようとしているなんて・・・・。

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 そ、そんなの絶対イヤよ!!
 何でワタシ達女性の意見を聞いてくれないの?
 貴方達は女性の人権を守るっていってたでしょう?

 でも気の毒だけれど、ネトウヨからすればコイツラが「人権」だの「弱者」だのと言っていたのは金の為、組織の為、偽善の為ですからね。

 今頃気づいたの?

 としか言えないんですよね。

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 と、言うわけでこの本は、これで返します。
 午後に買い物に行くついでに地区センターによって、本を返してきます。

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2023-09-03 13:03

羅刹海市 ファンタジーの限界

 今、中国では羅刹海市と言う歌が大流行しているようです。 

 「風刺」漂う新曲、爆発的ヒット 再生80億回突破―中国
 2023年8月9日 時事通信


 この歌の日本語字幕付き動画を見ると、何とも不思議な歌詞ですが、それはこの歌が元々清朝の短編小説集「聊斎志異」の中の「羅刹海市」からきているからです。

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 美男で歌や踊りの上手い若者が、仕事で航海に出たら、嵐に遭い見知らぬ国にたどり着いた。 
 しかしその国では人間の容姿の美醜の基準が、中国とは真逆で、人々は美男の主人公を見ると「化け物」だと言って恐れる。
 またこの国では容姿だけで人を判断するので、美貌でなければ高位高官にはなれない。 けれどもその美醜の基準が中国とは真逆なので、高位高官になっている人間は、皆恐ろしく醜い容姿をしていた。
 
 物語の後半はこの主人公がこの羅刹国から海の中の市場「海市」に行き、更にそこから海中の宮殿に行き、この宮殿の主である竜王に気に入られて、その娘である竜女と結婚すると言う話になります。(聊斎志異13 羅刹の海市

 今中国で流行している「羅刹海市」は、聊斎志異」の「羅刹海市」の前半部分、つまり美醜の判断基準が中国とはあべこべの国を歌っているのです。
 
 これが「風刺」と言われるのは、現代の中国社会で倫理道徳や善悪観念が混乱して、多くの人が「あべこべ」と感じているからでしょう。

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 ところで「聊斎志異」は我が家にもありました。 昭和42年に父が買った豪華版で、伊達圭次のエロチックな挿絵が沢山ついています。
 それでワタシも聊斎志異」は何度も読んだ事があります。
 
 聊斎志異」には「羅刹海市」の以外にも数百話の短編があるのですが、そのどれもが異界、妖怪、化け物などにまつわる話です。
 だから単なる小説集と言うより「奇譚集」とでも言うべきでしょうか?
 
 全て現実にはあり得ないのような荒唐無稽な話なのですが、しかしどれも主人公の名前、出身地、事件の起きた時期などがきっちりと書かれています。
 「昔々あるところにお爺さんとお婆さんがいました。」ではなく「羅刹海市」も物語は「馬俊は字を龍媒と言って商人の子だった。」と始まるのです。

 羅刹国や竜王の国など全くあり得ない世界を描きながら、主人公のキャラクターは極めてリアルに描いていくのです。
 だから物語は作者の創作ではなく、実際に在った話の伝聞であるかのように錯覚します。
 そういう奇妙なあり得ない話が、妙にリアルに描かれているのが聊斎志異」の魅力でしょう。

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 前記のように聊斎志異」には「羅刹国」や「竜王の国」だけでなく、青蛙神とその国とか、奇妙な国に行く話が沢山あります。
 しかしこれも奇妙なのですが、どの国も政治制度は全て中国と同じなのです。
 つまり中国歴代王朝と同様、皇帝がいて、皇帝を支える官僚がいると言う制度なのです。
 
 羅刹国の場合も、皇帝がいて官僚がいるのですが、その官僚の採用や昇進の基準が「科挙」のような学力ではなく容姿であり、その容姿の美醜の基準が中国とは真逆なのです。
 そこで現代中国で大ヒットの「羅刹海市」が中国社会の風刺になるのでしょう。

 しかし中国のファンタジーの中に出てくる国の政治制度が中国と同じと言うのは聊斎志異」に限りません。
 「西遊記」なんか典型です。
 「西遊記」には三蔵法師一行の行く先々に出てくる化け物や奇妙国々が描かれていますが、しかしどの国でも三蔵法師の一行を「帝王と百官が居並んで」迎えるのです。
 
 世界で中国式の専制君主制と官僚制を採用した国は、中国の他はベトナムと朝鮮ぐらいです。
 一方中国と言う国は、古代から周辺騎馬民族始め、多くの多民族や他国との交流がありました。
 ところがこうした中国人は他国や他民族の社会制度や国家の在り方には全く関心がなく、国家とはつまり「帝王がいて、帝王を支える百官がいるモノ」だったのでしょうか?

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 尤もこれは欧米のファンタージーも同じです。
 欧米のファンタジー「指輪物語」や「スターウォーズ」などを見ていると、中世ヨーロッパと古代ローマが原型でそれ以外の体制を持つ国家は出てきません。

 欧米のファンタジーは近代以降生まれたモノです。 そしてこうしたファンタジーの作者達は随分とインテリで教養があったりするのですから、イスラム諸国のようなスルタンカリフ制、中国の官僚制なども知識としては知っていたでしょうに。

 つまりこれは中国だけの問題ではなく、ファンタンジーの限界を感じてしまいます。
 ファンタジーは現実にない夢の世界に憧れる所から生まれるのですが、しかしその夢の世界でも人間は実は現実の社会制度から出られないのです。

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 そういえば昔「スターウォーズ」の英語版を読んだ事があります。 当時ワタシは英検2級受験の為に読んでいたので、その英語版は英語の本文の他に面倒な単語や構文には日本語訳と解説がついていたのです。
 で、その中で主人公スカイウォーカー達が「revel」と書かれていました。 

「revel」って「反逆者」「反逆」と言う意味ですよね?
 そしてスターウォーズではスカイウォーカー達は銀河帝国の皇帝を倒し元老院制を復活する為に戦っていたのですから、反逆者で間違いないのです。
 ところがこの解説書では「revelは反逆者だけれど、それはオカシイので同盟軍と訳しておく」と書かれていたのです。
 
 これが余りに違和感があったので、今も覚えています。
 でもこれもつまり日本人のファンタジーの限界でしょう。
 アメリカは大英帝国皇帝に反逆して独立した国なのです。 だから専制君主への反逆は正義なのです。 
 スカイウォーカーはジョージ・ワシントンと同じく正義の士なのです。
 だから映画でも英語版の小説でもスカイウォーカー達は「revel」なのです。

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 でも日本人には「反逆者」を無条件には肯定できないのでしょう。 例えそれがファンタジーの世界であっても。
 そして英語に非常に堪能でアメリカ文化に精通しているはずの日本人でも、やはり「反逆者」を肯定できないのです。

 こうしてみると体制転換って難しいですよ?
 中国の大ヒット曲「羅刹海市」から、ファンタジーの世界を考えたら、中国の民主化がますます絶望的に思えてきました。
 
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