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2023-06-05 13:53

「悪霊」ドストエフスキー 左翼の原点

 昨日は一日家にいて、youtubeで「悪霊」の朗読を聞いていました。 天気が今一で外に出られなかったし、家で片付け物が色々あったのです。
 「悪霊」は前々から是非読み返したいと思っていたのですが、しかしせっかく新調した老眼鏡でも長時間の読書など絶対無理だとわかったので、朗読を聞く事にしたのです。
 しかし長いですね。 7時間5分です。

 こんな長文の朗読なので、最初は数日かけて聞くつもりだったのですが、しかし読書と違って朗読だと、特に騒音が出るような作業でなければ、それをやりながら聞く事ができます。
 それで前記のように家の中の片付け物を色々こなしながら、漫然と聞き続けてたら、結局一日で最初から最後まで聞いてしまいました。

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 ところで凄い長編なのに「悪霊」の殆んどの記述は、ストーリーと関係ない話に費やされています。
 「悪霊」の主人公はステファン・トロフィーモビッチと呼ばれている、老知識人なのですが、しかし彼は実は殆ど何もしないのです。
 彼は嘗てはロシアを代表する知識人としてもてはやされた事もあったのですが、しかし物語は彼がモスクワを離れて彼のパトロンである裕福な未亡人の元での生活を延々と描写していくのです。

 因みにこの未亡人ヴァルヴァーラ夫人も副主人公ともいえるのですが、しかし彼と彼女の間には男女関係は一切ありません。 彼女は若い時代に憧れていた知識人である彼を、自分の息子の家庭教師として招きました。 そして息子が大学進学の為に家を出てからも、彼女は彼を支援し続けました。
 それだけでなく彼の私生活にも何かと気にかけて、安逸な生活の為に彼が身を持ち崩さないように心がけていました。

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 で、彼はこのような恵まれた境涯で、毎日知識人らしく読書や思索に耽って暮らしてるのです。 尤も彼も常にこのような知識人のポーズを取り続けるのに飽きて、時々カルタや飲酒などで嵌めを外すのですが、しかし余り嵌めを外しそうになると未亡人が克を入れて、元の崇高な知識人のポーズに戻します。
 カルタで作った借金も未亡人が払ってやります。 
 彼はこのように精神的にも経済的にも、完全に彼女に依存しているのです。

 そしてロシア文学の知識人の常で、彼の周りには地域の知識人の自認する連中が群がっているのです。
 そしてこれもまたロシア文学の知識人の常ですが、彼等は唯学問や芸術を楽しむのではなく、ロシア社会の改革についてそれぞれが意見や主義を持ち、また実に熱心に議論するのです。
 ドストエフスキーは彼等の人格もまた一人一人克明に描いていきます。

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 その中でワタシが一番興味深いと思うのは、リプーチンと言う男です。 彼は小金持ちの小官吏ですが、金への執着が強く、遺産相続で親戚ともめたり、内密に高利貸しをやって金をため込んだり、多少不動産を増やしては悦に入っています。
 彼はまた家庭内では妻や親族の女性達に横暴を極める暴君です。
 しかし彼は社会主義者なのです。
 そして近い将来革命が起きて、私有財産制度を廃止して、理想国家を作ると固く信じているのです。

 自分が小金をため込んでいる町で、自分が猛烈に執着している不動産のある町で、近々社会主義主義革命が起こり、私有財産制が否定される事を信じ、日々切実にそれを希求する人間と言うのは、何とも不可解なモノですが、しかしワタシはこれは現実に存在すると思うのです。
 と言うのは近所を散歩していて、随分洒落た素敵な家の庭に共産党の看板が出ている家が結構あるからです。
 この家の住人は革命の到来を信じながら、家を買いローンを払い続けたのでしょう。

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 またシャートフと言う男がいます。 彼は農奴出身ですが、その向学心から大学に進み苦学を続け革命を目指し始めたのです。 彼は堅忍不抜と言うか、いかなる貧窮もモノともせずひたすら学問と革命に邁進しているのです。
 これだけ書くと非常に立派な人間なのですが、非常に狭量で偏屈な男なので、自らチャンスを捨ている感もあります。
 例の裕福な未亡人ヴァルヴァーラ夫人が、彼の貧窮を見かねて、彼の所に金を送った事もあるのですが、彼は結局この金を返しに来て、その時阻喪をして夫人の高価な家具を壊したりしているのですから。

 しかし物語はこうした連中と主人公ステファン・トロフィーモビッチとの交際を延々と描き続けます。 その交際は至って牧歌的なモノで、結局彼等は時々集まって一緒に議論をして、酒を飲み、そしてカルタをするのです。
 彼のパトロン、ヴァルヴァーラ夫人は一応コイツラと直接交際はしないのですが、しかし全部見知ってはいるし、人柄も見抜いているのです。

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 つまり物語の大半は、こういうロシアに知識階級の生活の描写に充てられています。 
 しかしそれがヴァルヴァーラ夫人の息子の出現と、更にステファン・トロフィーモビッチの息子の出現で急典型するのです。
 ステファン・トロフィーモビッチは実は若い頃、結婚して息子ピョートルを設けました。 しかし妻は子を産んで間もなく死んでしまい、子供は妻の親族の女性が引き取って育て、子供教育費はヴァルヴァーラ夫人が出していたのです。
 その息子が父の元に現れたのです。

 一方、ヴァルヴァーラ夫人の息子ニコライは、大学を出た後、卓抜した美貌と才能で順調に成功したのですが、しかし突然意味不明の放蕩、放蕩と言うより悪行に耽り始め、長らく行方不明になっていたのですが、遂に故郷の母親の元に帰ってきたのです。
 そして故郷でもその美貌と才能で人々を魅了するのですが、しかしまた奇怪な言動をはじめ、結局また外国へ行ってしまいます。

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 しかし実はこの二人、と言うよりステファン・トロフィーモビッチの息子ピョートルが実は、革命の為のテロを画策していたのです。 しかもそれにりプーチン始めステファン・トロフィーモビッチの日頃の仲間の大多数が加担していたのです。 
 それは非常にお粗末なモノでした。 
 彼は仲間達に「中央の組織から指令」なる物を通達し、それにより街に放火してテロ騒ぎを起こしました。
 彼の計画では、このテロが皮切りになって、全ロシアで同様のテロのテロが起こるはずでした。

 そして彼はこれに疑義を呈したシャートフを殺害しました。 リプーチンはピョートルに従ってシャートフの遺体を処分したのですが、しかしその処分のやり方がお粗末で、遺体は直ぐに発見されたのみか、彼等の犯行である事までがほどなくわかってしまうのです。
 当然ですが彼等は直ぐに逮捕されました。

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 このようなお粗末な革命計画の中で彼はまたヴァルヴァーラ夫人の息子ニコライを革命の看板として利用する計画でした。
 ニコライは格別な美貌だったので、彼を看板にすれば民衆を魅了できるだろうと踏んでいたのです。
 ニコライはピョートルのこのような計画を知りながら、しかし彼等と離れる事もせず、看板役を拒否する事なく、けれども彼等を信じていたわけでもないのです。

 物語はこのニコライの自殺で終わります。
 ニコライは絹紐に厚く石鹸を塗り、絹紐を掛ける為の釘の補強まで用意すると言う周到で冷静な状態で首を吊りました。

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 それにしても何でピョートルはなぜあれほど無謀な愚かな革命計画を実行したのか?
 それによりどんな理想郷を作ろうとしたのか?
 そしてニコライの心にはどんな闇が潜んでいたのか?

 物語から見る限り、ピョートルはひたすら現行の社会を変えたようとしていました。 現在の社会の価値観や社会の常識、そういう物を全て壊そうとしていました。 
 壊した後にできる社会よりも、壊す事を主目的にしていたのです。
 ニコライの心の闇はわかりません。

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 しかしこの二人の父であり師であったのが、主人公ステファン・トロフィーモビッチなのです。
 主人公ステファン・トロフィーモビッチは悪人ではないのです。 唯、知識階級として、ロシアの変革を夢見ていたのです。
 その夢の果てに生まれたのが、この息子とそして教え子でした。

 そして「悪霊」出版(1873年)から44年後1917年、本物の悪霊がロシアを襲い、ロシア社会は完全に破壊されました。
 その間、ロシア社会の本質は殆ど変わらなかったようです。 ロシア革命が目前に迫る20世紀初頭のチェホフの小説でもシアの知識階級は、田舎の地主屋敷に集まってロシアの変革について議論を続けていました。

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 チェホフの家に集まる知識階級の中にゴーリーキーがいたので、チェホフの妹は辛うじて粛清を免れましたが、大変な貧窮に苦しみました。 チェホフは幸い革命直前に他界していました。
 しかし他の知識階級はどうなったのでしょうか?

 畢竟彼等が夢見た事は、社会の変革です。
 それは現在の社会を破壊する事と同義ですから、それが実現したことに大満足するべきだったのです。

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 それにしてもワタシはやっぱりこの「悪霊」と言う小説は、左翼の本質その物を描いているのだと思うのです。 前記のようにこの小説の前半、と言っても朗読を聞いていれば4時間余り延々と、ステファン・トロフィーモビッチの日常生活の描写なのです。
 でもドストエフスキーがそれに長大な時間を割いたのは、結局、ステファン・トロフィーモビッチの息子や教え子を駆り立てた悪霊は、実はステファン・トロフィーモビッチに憑りついていたモノだったからだと思うのです。

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2023-05-26 13:25

ツィッターと実盛

 この3日ほど素晴らしい快晴が続き、ワタシは毎日午後から近所を自転車で駆け回っていました。
 しかし八重桜は散り、林檎の花も散って緑が深くなるばかりです。
 気温も漸く20℃を超えて、初夏らしくなり昨日は半袖シャツだけで平気でした。

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 数日前から、ネットで平家物語の朗読を聞き始めました。 一段毎に前後に内容について簡単な解説があり、原文のリズムを生かした力強い声で、とても快いです。
 こういう朗読を気楽に無料で楽しめるのは、本当にネットの恩恵です。
 
 ワタシは中学生時代に平家物語に嵌ったのですが、その頃は原文を全編掲載している本さへ見つけるのは難しく、高校の古典の参考書ぐらいしかありませんでした。
 その数十年後に、漸く全編掲載した文庫本を買ったのですが、今度はワタシの目がダメになって、買ってはみた物の読めませんでした。

 で、平家物語とはずうっと疎遠になっていたのですが、少し前に偶々斎藤別当実盛の事を調べていて朗読を聞いたら凄く感動しました。
 それでまた平家物語の朗読を祇園精舎から通して聴く事にしたのです。

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 実はそれまでワタシはツィッターで時間を潰していたのですが、ところが数日前にアカウント停止を食らいました。
 ワタシのツィートは左翼の気に入らないらしく、前にも何度かアカウント停止を食らっています。
 それでツィッターはずうっとやめていたのですが、イーロン・マスク氏の買収で少し状況が変わったようなので、また再開したのです。
 しかしまたアカウント停止です。

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 それにしても左翼の連中って「通報」とか「告訴する」とか大好きですね。
 自分で反論するとか、話し合うとかいう事は一切せずに「通報しました」「告訴する」です。
 こういうの見るとわかりますが、彼等は全く反権力ではありません。
 権力大好きなのです。
 権力をバックに自分達の気入らない意見を封殺するのが大好きなのです。 
 彼等は権力を我が物にして自分が世界を支配したいのです。
 彼等が反権力・反体制を叫ぶのは、現在の民主主義体制では主権者である国民が彼等に与えてくれないからです。

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 ワタシは社交的な人間ではない上、病身で無職ですから、交友関係は至って狭いです。
 だから左翼など自分とは全く違う価値観の人間と親しく話して人となりを知る機会は殆どありません。
 尤も社交的で友人知人の多い人でも、政治的な話をする機会は少ないだろうし、そういう話の中で率直な意見を聞く機会はもっと少ないでしょう。
 だからツィッターのようなツールは貴重でしょう。

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 しかしこれで無限に時間を使うのもね・・・・・・。
 と言うわけで暫くツィッターは止める事にしました。
 そしてそれでツィッターで潰していた時間を平家物語に充てる事にしました。
 それにしても斎藤別当実盛に感動するなんて・・・・・。
 斎藤別当実盛の最後は平家物語でも有名な段で、中学の時に読んで覚えているけれど、あの頃は普通に読み飛ばしました。

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 だから少し前に斎藤別当実盛の件を調べた時だって、特に実盛の人となりを思っての事ではありません。 でも実盛を検索して平家物語の原文にあたり、朗読を聞いてみると凄く感動しました。
 実盛は最後の戦に出た時、髭と髪を墨で黒く染めていていた事で有名なのですが、しかしその心意気は以下のようなモノでした。

 六十に余っていくさの陣へむかはん時は、びんぴげを黒う染めて、わかやがうど思ふなり。其故(そのゆゑ)は、若殿原(わかとのばら)にあらそひてさきをかけんもおとなげなし、又老武者(おいむしや)とて人のあなどらんも口惜(くちを)しかるべし。

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 当時の平均寿命を考えると60過ぎは完全な老人です。
 当時の大鎧は総重量が30キロ前後もあり、現代人も60過ぎの人がこんなものを着て行動をするのは厳しいでしょう。
 しかし実盛は出陣し、そして若い敵に討ち取られました。
 その首が木曽義仲の前に差し出されたとき、実盛と知り合いだった義仲の側近が、この実盛の髪や髭が黒い理由を話すのです。

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 この段では実盛が実は義仲の幼少期に、義仲の命を助けた恩人である事など、その他実盛の人となりを示す逸話が色々と出てきます。
 実盛は当時として中級武士でした。 こういう立場の武士は、特定の君主に使えていたわけではありません。 
 実盛最後の戦では、平家方についていました。
 そして篤実な人柄とベテランである事から、平維盛の信頼を得ていました。

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 実盛がこの戦に出陣の為に錦の直垂を着たいと言うと、平維盛は彼に錦の直垂を与えています。 つまり実盛は自前では錦の直垂を買う事の出来ない身分だったのです。 
 平維盛は富士川合戦の時の総大将でした。 そして当然、実盛も同行したのです。
 しかし平家の軍勢は水取りの羽音に驚て逃亡してしまいました。
 ベテラン実盛もこの時はどうしようもなく、戦わず逃亡するしかなかったのでしょう。
 実盛はこの恥辱を晴らす為に、この次の出陣で討ち死にする覚悟をしていたのです。
 それにしても実盛に錦の直垂を与えた事は、維盛の人柄を表しています。

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 平家物語の魅力はこうして平家方も源氏方も、またそれ以外の登場人物を実に多面的に描いていくことです。
 そして戦いの中で武士達がみせる人となりのゆかしさには本当に感動します。
 しかし斎藤別当実盛に大感激するようになったのは、要するにワタシが実盛と同年配になったからでしょうね。
 中学生では実盛の心意気を理解できなかったのです。

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 それにしても優雅な戦争なのです。 平家物語もそれに先立つ保元物語や平治物語でも、非戦闘員が戦争に巻き込まれると言う話は、一切ありません。 あくまで武士だけが名乗りを上げて戦うのです。
 平治の乱で源義朝が敗北して敗走するとき、義朝方の武将が戦見物をしている街人達に駄賃を渡して、自分が取った首の番をするように頼んだりしています。
 市街戦の最中に街の住民達が、街に残って戦争見物をしていたのです。

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 近代以前でも、ヨーロッパなど大陸では、戦争となると街の住民全てが城壁の中に立て籠り、負けたら全住民が虐殺されたり奴隷にされたりでした。
 だから日本人は古代から戦争に対する感覚が完全に世界とはずれているのかもしれません。
 そういう事を色々思い合わせても、平家物語はオモシロイです。

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 朗読の方は昨日で漸くまた実盛の最後を聞いたところです。 だから壇ノ浦まではまだしばらく楽しめます。
 ツィッターのアカウントはどうなるかわかりません。 しかし聴きたい古典朗読は他にも色々あるし、それに明日の午後には新しい眼鏡もできるので、当面ツィッターが無くても困りません。

 平家物語 第七巻 百二


 

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2023-05-24 12:42

大国の外交 カエサルとクレオパトラ

 昨日、ネットフェリックスのポリコレ暴走、黒人クレオパトラについて書いたので、そのついでにユリウス・カエサルとクレオパトラのロマンスについて少し書いてみます。
 ネタは塩野七生さんの「ローマ人の物語」です。

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 昨日も書いた通り、塩野さんはクレオパトラを糞みそに描いています。
 元々、西洋ではクレオパトラは絶世の美女で、カエサルは彼女の色香に迷い、歴史が変わったとさえ言われています。
 そしてクレオパトラがカエサルを誘惑する為に用いた手管が、尤もらしく語られてきました。
 クレオパトラのカエサル誘惑の手管がどこまで本当だったかはわかりません。

 しかし塩野さんは「ローマ人の物語」で、そういう事に殆ど筆を割いていません。
 そもそもカエサルは据え膳があれば、とりあえず食う男だったので、そんなに必死で誘惑する必要もなかったのです。
 でも据え膳を食ったからって、それで自分の政治的判断を変えるような男ではなかったのです。
 だからクレオパトラの据え膳は、カエサルの対エジプト政策には何の影響もなかったのです。

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 そしてカエサルの対エジプト政策の基本は、親ローマ安定政権を支援すると言う物です。
 当時、プトレマイオス朝はクレオパトラと彼女の弟と妹が、帝位の相続争いをして不安定な状況でした。 カエサルとすればこの三人が骨肉の争いの中で、誰が一番有能でエジプトを安定的に統治できるか?そしてその統治者はローマとの友好関係をきちんと維持するか?を見極めて、その条件に合う人間を支援して、プトレマイオス朝の混乱を早期に収拾したいのです。

 で、この三人の中ではクレオパトラが一番優秀で、クレオパトラ自身がローマの支援で帝位を安定させたいと思っているのだから、間違いなく親ローマです。 だから暮れクレオパトラを支援したのです。
 でもこれならクレオパトラが有能であり親ローマである事を示すだけで十分で、美女でなくても、カエサルを誘惑しなくても全然構わないないでしょう?
 なんならクレオパトラが男でも良い構わないのです。 因みにカエサルはゲイではありません。

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 エジプトに限らず、そしてカエサルに限らず、親ローマ安定政権を支持し支援すると言うのは、ローマの外交政策の基本です。
 一旦ローマと戦って敗北した地域でも、属州となった国でも、必ずしもその地域の元の支配者を排除していません。 その支配者が親ローマで地域を安定的に統治する能力があれば、そのまま温存して統治を任せました。
 だからローマ帝国内には多数の王国もあったし、ギリシャのように民主制を維持したい地域では古典的な民主制を維持させていました。

 でもこの感覚は現代のアメリカや日本も同じですよね?
 地政学的に重要な国が不安定だと、そこから戦争が起きて周辺国を巻き込んで行きます。
 経済的に重要な国が不安定だと、世界経済に悪影響が出ます。
 だから重要な国には、安定政権ができて、そしてその政権が自国と友好的であるのが理想なのです。
 でもそれ以上は望みません。

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 そりゃ友好関係を絶対的なモノにするには、現地の政権を潰して直接支配すればよいのですが、これはこれで大変なコストがかかります。
 これは例えば日韓併合や台湾統治を思い出せば明らかです。
 朝鮮半島は日本の安全保障に死活的に重要なのに、李王朝はロシア、中国、日本の間で漁夫の利を漁るようなことを続けて全然信用できない。 そこで日韓併合で日本が直接統治したのですが、そうなると日本基準でインフラ整備など始める事になるので、途方もなく金がかかってしいました。
 
 因みに日本の朝鮮統治や台湾統治って、実はローマ帝国の皇帝属州の統治と全く同じです。
 これを思うとローマ帝国としては、属州と雖もできる限り、直接統治は避けたかったでしょう。
 まして現代では直接統治など絶対不可能なのですから、重要国には安定的で友好的な政権が存続する事を望むしかないのです。 
 だから友好的で有能そうな政権なら支持や支援をするのです。
 英雄ユリウス・カエサルも外交の基本はこの路線を守り続けました。

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 ところがクレオパトラはどうも勘違いしたようで、カエサルの個人的な愛情で自分の帝位が安定する、更にはローマをも支配できると思っていた節があります。
 だから塩野さんに酷評されるんですよね。
 だってこれはクレオパトラがカエサルのローマでの立場を全然理解してないと言う事ですから。

 ユリウス・カエサルはこの時期まだローマの支配者ではありません。
 そしてローマはまだ帝国ではなく共和制です。
 この時期、これまでの共和制の政体でローマを統治する事は非常に難しくなり、カエサルとしては自分の独裁で統治すると言う政体への変更を考えていました。
 しかしこれにはローマ国内では猛烈な反発がありました。

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 これはカエサル個人の問題ではありません。 
 カエサル時代までのローマ史でも、古代ギリシャでも独裁者は絶対悪とされて、共和制を守る事を国家目的と考えている人が多数いたのです。
 そしてこの時期のローマでカエサルの独裁化に最も反発していたのは、元老院の議員達でした。
 
 このような立場のカエサルに、外国の女王が愛人になり「自分と結婚してエジプトとローマを支配しよう」なんて事を公言し続けたらどうなるか?
 カエサルからしたらホントに困った女だし、クレオパトラ自身にとっても大変危険な状況なのですが、しかし彼女は全然それを理解していなかった節があります。

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 クレオパトラと言う人はネットフェリックス捏造のアフリカ系黒人ではなくギリシャ系なので、プラトンやアリストテレスなどギリシャ哲学に深い教養があったと言われます。
 だったら共和制国家における独裁者の立場については、知っていたはずでしょう? 
 でもクレオパトラの言動を見る限り、こうした知識や教養は全く生かされておらず、ローマの権力者の置かれた立場は最後まで理解できなかったようです。 
 だからローマの権力者をハニトラで取り込めば、そのままその国が自分の思い通りになると信じ切って行動し続けたのです。

 仕方ないですね。
 学問や知識を学んでも、結局それがアタマの中にため込まれるだけで、現実の理解に役立てる事の出来ない人って、多いですから。
 クレオパトラもその一人だったわけです。

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 そしてこれは現実の危機を招きました。
 ユリウス・カエサルは元老院の議場で、元老院議員達の手によって暗殺されたのです。
 
 ユリウス・カエサルは共和制を廃して独裁者になろうとしている。

 これが暗殺者達の言う暗殺理由です。
 実際その後のローマ史を見れば、これは全くその通りです。
 だってカエサルを暗殺しても、結局カエサルの養子オクタビアヌスがローマ皇帝になり、その後ローマ帝国は崩壊まで帝政のままでしたから。

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 一方エジプトは滅亡しました。
 カエサルの死後、カエサルの側近アントニウスとカエサルの養子オクタビアヌスによる後継者争いになりました。
 するとクレオパトラは今度はアントニウスを誘惑して、アントニウスと組むのですが、しかしこれでアントニウスはローマの信認を喪います。 一方、オクタビアヌスはこれでアッサリとローマのインペラトールつまり後に皇帝と訳される地位につき、ローマの元首としてアントニウスと戦い勝利するのです。

 これでオクタビアヌス以降、ローマの帝政が確立します。
 一方、アントニウスと共にローマと戦ったエジプトは、敗戦により国家主権を喪い、以降ローマ皇帝の直轄領になります。 
 エジプトは豊かな穀倉地帯で、ローマへの小麦の供給地だったので、ローマにすれば直轄領として維持する価値はあったのです。

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 このユリウス・カエサル暗殺の顛末と、その前後を考えると、ローマの皇帝と言う者の立場と言うか、何とも複雑な立ち位置がわかります。
 そして民主主義国家を運営する事の難しさも痛感します。
 しかしこのローマ帝国の存在は後の西欧世界に大きな影響を与えてました。

 だから暇な方はこっちも見てください。

 エンペラとカイザーと皇帝

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2023-05-08 10:34

「夏と煙」 自分らしく生きる 

 先日、ネットで年齢自認と言う話を見ました。
 中年過ぎの男が、自分を6歳の女の子と自認して、その年齢の女の子の服装をしているのです。
 大変グロテスクなのですが、しかし何と「彼女」を養子している夫婦がいるのだそうです。
 養父母はそれで「彼女」を6歳の童女として面倒を見ているそうです。

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 ワタシはテネシー・ウィリアムズの「夏と煙」を思い出しました。
 随分昔読んだ戯曲なので、内容は殆ど覚えていないのですが、しかししっかりと覚えているのは、この主人公の母親の異常なふるまいです。
 主人公の父親は牧師、母親はその妻なのですが、母親は牧師夫人としての気苦労の多い生活からの現実逃避からか、幼女に戻ってしまったのです。

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 この母親の年齢自認はわかりません。
 でも戯曲に描かれる言動からすれば、幼稚園児ぐらい、5~6歳でしょう。 
 それで母親は場所柄や状況は一切わきまえず、人前で幼児のそのものの嬌声をあげたり、幼児のように駄々をこねたりするのです。

 主人公は父親を助けてこういう母親の面倒を見るだけでなく、母親が放棄した家事や牧師夫人としての仕事もこなしてきました。
 それで彼女の青春は磨り潰され「婚期」も逃してしまいました。

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 それで彼女は既にオールドミスになっているのですが、母親は幼児のまま頑張り続けて、彼女と父親の重荷となり続けているのです。
 戯曲にはこういう重荷を背負って生き続けなけらばならない主人公のやるせなさ、疲労が溢れていました。

 テネシー。ウィリアムズは実はゲイだったのですが、しかし彼の戯曲にはゲイが直接出てくる事はなく、多くの場合、主人公は女性です。
 ウィリアムズの描く女性達は、この主人公のように、繊細で傷つきやすい女性で、現実の生活との戦いにボロボロになっているのです。

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 一方同性愛は物語の伏線として出てきて重要な役割を果たします。 「焼けたトタン屋根の上の猫」や「欲望と言う名の電車」では、主人公の女性が愛した相手が同性愛だったため、生まれた苦悩が描かれています。
 苦悩の大きな原因は、単に恋人が同性愛だったと言うだけでなく、同性愛が絶対的タブーだったことです。

 これがどれだけのタブー化と言うと「焼けたトタン屋根の上の猫」が映画化されたときに、映画では主人公の夫の同性愛の話を全部消してしまったのです。

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 映画では主人公はエリザベス・テーラーが演じたので、エリザベス・テーラーのファンの反発を考慮したのでしょうか? 
 それでもあの話から主人公の夫の同性愛を消すのでは、物語の意味が全くなくなります。 
 主人公が「焼けたトタン屋根」に追いつめられる原因は、夫の同性愛であり、戯曲はこの主人公の危機的な状況を描いているのですから、ここで夫の同性愛の話を消すのは、忠臣蔵から浅野内匠頭切腹を消すみたいな話しです。
 でもこれが当時のアメリカの現実だったのです。

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 だからテネシー・ウィリアムズも同性愛については、物語の伏線としてしか描けなかったのでしょう。
 それでも大衆には受け入れられないので、伏線も抹消されてしまう。
 
 尤も彼の戯曲の主人公の女性達、非常に繊細で傷つきやすく、現実の社会でボロボロになってしまう女性達は、彼の分身であり、彼女達の内面は彼の内面その物だったのかもしれません。

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 しかしこうやってみると「自分らしく生きる」ってどういう事でしょうか?
 
 今、LGBT活動家は「自分らしく生きる」と言う言葉をスローガンにして、性自認、更には年齢自認まだ認めようとしています。
 確かに思った通りの自分としてふるまえたら当人が快適なのはわかります。
 でもそれじゃ周りはどうなるんでしょうか?
 
 テネシー・ウィリアムズはゲイである事が絶対タブーの社会で生きるしかありませんでした。
 そういう人がどういう心算で「夏と煙」の母親を描いたのでしょう?

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2023-03-24 12:43

海のラクダ 木造帆船と「貞操の危機」

 昔「海のラクダ 木造帆船ダウ同乗記」と言う本を読みました。
 今、ネットで調べてみたら、1980年に中公文庫として出版です。 
 実はワタシ、海と船が大好きだったので、この本が出版されたとき、直ぐに買って読んだようです。
 
 木造帆船ダウはアラブ諸国を中心に使われてきた帆船です。 「船乗りシンドバッド」が乗っていたのもこのダウだと言われ、船を数える時に使われる「隻」と言う言葉の語源もダウだと言う説もあります
 随分と古い歴史を持つ帆船なのですが、しかしこれが古代とあまり形を変えず80年代まで実用船として使われていました。
 この本は著者が実際に実用船として使われているダウに同乗した記録です。

 この本の著者がダウに同乗した80年代当時は、殆どダウはアラビア半島を中心に、アフリカ大陸の東海岸やインド辺りまでを往来して、荷物や乗客を運んでいました。
 著者は古代と変わらない帆船が、現在もなお実用船と使われている事に強く心惹かれ、ダウに同乗してその記録を残そうとしたのです。
 しかし実際に乗船しようとすると・・・・ホモ地獄・・・・・。

 ハッテン系のゲイの方なら天国でしょうが、しかしこの本の著者はゲイではなかったので以下に記述する状況は「地獄」としか言いようがなかったのです。

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 著者は最初ダウに乗船する為に、ダウが多数集まると言うクェート港に行ったのですが、その時の状況を筆写は「私は貞操の危機の感じた」と書いていました。
 彼は港内でダウが集まっている船着き場に近づくと、通りすがりの男達から次々とナンパしてきます。
 まだ17,8の少年が誘ってきて拒否すると、少年は筆写の後ろポケットに札を押し込んでくるのです。 

 また乗船できるダウを探してクェートに滞在中、フェリーで観光に行ったのですが、夜にフェリーで雑魚寝中に、いきなり隣に寝ていた男が抱き着いてきて「〇〇を貸せ!!」と喚きました。
 筆写は恐怖に駆られながらも、必死でこの男を追い払い貞操を守りました。 しかしその後は一睡もできませんでした。

 ワタシとしては美しいインド洋を走る帆船と言うロマンを求めてこの本を買ったわけだし、著者もそのような本を書く為にダウに乗ろうとしたのに、乗る前からこの有様です。
 それでも著者は何とか貞操を守りきって、同乗できるダウを見つける事ができました。

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 著者が乗ったダウはクェートで食料品や雑貨を積み込んでアフリカ大陸の東岸ザンジバルに向かいました。
 船長と船員が5~6名。 船員の国籍は様々ですが、アラブ人よりパキスタンやバングラディシュの出身者が多いようです。
 それで船員達の母語も様々なのですが、一応アラビア語が共通語として使われています。
 インド人もダウを使うのですが、インド人はインド人だけでインドのダウに乗ると言います。

 こうしてせっかく乗り込んだダウですが、帆走は殆どせずに専らエンジンで走りました。 船長も船員達も帆を張るのが面倒臭いので、余程の順風でない限り、帆走はしないのです。
 そして帆走したと思ったら、帆を揚げる為のロープがプッツンです。
 ロープや帆の手入れも真面目にやっていないのです。
 
 だって湾岸諸国はガソリンは安いのだし、目的地に着けば良いなら帆走なんかしたくないのです。
 つまり乗員達はダウの帆走にロマンなんか全く感じておらず、その意味では純然たる実用船なのです。

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 ともかくそれでも数日後にはザンジバルに到着し、荷物を降ろしました。 荷物は積み方が乱暴だったため、随分と痛んでいました。 缶入りビスケットの缶がデコボコになったりしていたのですが、しかし誰もそんなに気しません。
 荷物を降ろし、別な荷物を積み込むのに数日かかるのですが、その間に船員の何人かがやめて、新しい船員が来ました。

 そのうちの一人が暇つぶしなのか、大声でコーランを朗唱していたので、煩くて溜まらず、黙らせる目的もかねて朗誦しているコーランの内容を聞いてみました。
 すると彼は「子供の時から読み方の暗記はしたけれど、意味まではわからない」と答えました。

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 コーランはアラビア語ですが、ムハンマドの時代にメッカやメジナ周辺で使われていたアラビア語で書かれています。 しかしアラビア語も方言が色々あり、しかも千年以上も前の言葉と言う事で、アラビア語圏の人達でも唯読んだだけでは意味はわからないのです。
 でもそこそこ育ちの良い人は、子供の時からコーラン学校に通って読み方だけは習うので、朗誦だけはできるのです。 
 因みにこの船員は荷主の親戚と言う事で、他の船員に比べたら育ち良いお坊ちゃまだったようですが、その為かアフリカを離れる前にやめてしまいました。

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 ともかくこうやって荷物を積みかえ、船員も入れ替わりました。 そして乗客も一人乗せて出航しました。 客は典型的なアフリカインテリで、いけ好かない奴でした。 ダウは遅いし乗り心地も良いわけじゃないけれど、飛行機等に比べたら料金は格安なのです。
 要するにダウは誰でも何でも乗せるのです。
 この感覚は19世紀までの西洋帆船と同じです。 ワタシはこの手の西洋帆船の本も結構読んだけれど、船員は多国籍で片言でコミュニケートし、何でも誰でも金になれば乗せるのです。 そして船員の入れ替わりは激しくて、港に着くたびに人が出入りします。

 その意味ではホントに近代以前その物の世界ですが、しかしそれでも国から国へと移動する為、常に現実の国際情勢の変化にさらされます。
 特にダウが活動する中東やアフリカ東岸は、国際的にも不安定な地域で、寄港予定先が突然入港禁止なるなど、予想外のトラブルが次々と起きてくるのです。
 その為、船長は勿論船員達もこうした情報には敏感で、常にラジオのニュースを聴いたり、他の船の乗員同志話あって情報を集めています。

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 実際、著者が乗ったダウも、ザンジバルを出航して次の港入った時に、湾岸周辺の状況が怪しくなりました。 それで港にいたダウの船長達が、お互いの船を訪問しあって、情報を交換していました。
 それで他の船の船長が来た時です。
 著者の乗ったダウで賄いをしている老人が、この船長に抱き着き、顔を舐めまわしました。 賄いの老人は禿頭で白い髭が茫々なのですが、この船長の元カノだったのです。
 だから船長も回りもこの熱烈な愛情表現に文句も言わないのです。
 因みにこの船長は長身でまだ30代の初めのイケメンでした。 だから老人も彼を愛し続けたのでしょう。

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 別に全てのダウの船長船員がゲイじゃないのです。 実際船員の中には妻子がいて、寄港先で妻子に土産物を買って、それを妻子に渡すのを楽しみにしている人もいるのです。
 船長に至っては文字通り港々に女ありです。
 イスラム圏では公然と売春はできないのですが、文字通りの現地妻を持つ事は可能です。 一夫多妻ですから寄港地の女性と短期間の間結婚した事にして同棲するのです。

 但し結婚して妻子を持てるのは、有能なベテラン船員で、船員の中では高給を得ている人だけです。
 まして港々に現地妻となると、船長クラスでないと不可能なのです。
 一方イスラム圏では、女性は全身をベールで隠し、男性親族と一緒でなければ外出もしませんから、下級船員など低所得男性は、買春どころか女性を見る事もできないのです。 
 だからこうした男性が多数集まる所を歩くと著者のような男性でも「貞操の危機を感じる」と事になるのです。

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 こういう世界ですから、この時代まではイスラム世界は、同性愛には非常に寛容でした。
 イスラム教は教理では同性愛を禁じているのですが、しかし前記の若者のようにコーランを朗唱できても意味は知らないと言うイスラム教徒が多数います。 それどころかコーランなど全く読めないイスラム教徒の方が圧倒的多数派なのです。
 これじゃ教理や戒律を厳密に守るなんて発想もないでしょう?
 
 だからイスラム教発祥以来、近年までイスラム世界では同性愛には非常に寛容でした。 「アラビアンナイト」にも同性愛の話が多数出てきますが、同性愛を全く罪悪視していません。
 トルコのスルタンはハレムに多数美女を囲いながら、一方で多数の美少年を侍らせていました。

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 しかしイスラム世界の原理主義化が進行するにつれて、同性愛への締め付けが厳しくなり、今はブルネイなど同性愛に極刑を課す国まで出てきました。
 このイスラム教の原理主義化には、イスラム世界の教育レベルが上がった事、テレビの普及でイスラム教の教理をテレビで放映するようになった事が原因のようです。

 尤も西欧ではほぼ同時期に、それまで歴史上長く続いた同性愛迫害を止める方向に動いてきました。 そして更にヘンな方向へ動いて男を女子トイレに入れる、女湯にまで入れるようなことまで始めました。
 こうしてみるとどんな社会でも、人間社会が価値観を転換して、社会がオカシクなるのには半世紀ぐらいあれば十分なのでしょうね。

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 因みにこの著者の乗ったダウは、この後、船長が行方不明になってしまい、結局副船長が船長になって出航する事になりました。
 しかし副船長の航海術が今一で結構危うい事態にもなったのですが、とりあえず無事にクェートに戻る事ができました。

 ダウの船長達は天文航法は使えず、多くのダウはロランに対応する設備もなく、80年代ですからGPSは勿論く、船の進行方向と速度から位置を割り出すと航法だけに頼っていました。
 これは原理から言えば海図さへ読めれば中学生でもできるのですが、しかし誰でも経験だけで学べる物ではないのです。
 だから船員の中でも船長になれる人は限られているのです。

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 船長になれなくても船員として有能な人は、結婚して妻子を養う事ができますが、船員としての能力が今一だと、生涯独身のまま年老いて、体力がなくなれば船の賄いでもするしかないのです。
 この辺りの厳しさも西洋帆船と同じです。

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 前記のようにワタシはこの本は、船と海のロマンを求めて読んだのですが、しかし今はイスラム世界の原理主義化について、そして西欧で荒れ狂うLGBTを考える上で最良の書ではないかと思っています。
 

 
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