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2023-03-28 12:10

しゃもじと外交の失敗 野党の外交能力

 先日の国会で、維新の音喜多議員が岸田首相にしゃもじについて質問しました。 

 必勝しゃもじを贈られたとのことですが、しゃもじには『飯(めし)をとる』、すなわち『敵を召し捕る』との意味が込められており、日露戦争にも由来すると言われている。ウクライナに対して、ロシアという敵を召し捕るという強いメッセージを込めているのか、贈答品に込めた率直な思いをうかがいます日の国会で、維新の音喜多議員が岸田首相にしゃもじについて質問しました。 

 と言う質問です。
 
 一方共産党はロシアのウクライナ侵略を外交の失敗だと、岸田首相を詰めていました。

 ああ、そう?
 ワタシもロシアのウクライナ侵略は外交の失敗だと思いますよ。
 ウクライナにとっても、ロシアにとっても、アメリカとNATO諸国にとっても、大変な失敗だったと思います。

 マジに去年の2月24日にロシア軍がホントにウクライナに侵攻するまで、世界中の指導者も軍事や国際情勢の専門家も「ホントにこんな馬鹿な事やるわけないだろうと・・・。」と思い込んでいました。

 世界中の国際政治専門家は「こんな戦争を始めても、ロシアは制裁等を受けるだけで国益を害するだけだ。」
 この戦争は戦争開始直後は米軍もNATO諸国も、そして大多数の軍事専門家も、戦争が開始すれば数日でウクライナは降伏すると思い込んでいました。
 だって軍事力世界2位と22位の戦争ですからね。

 それでもこんな戦争したら、ロシアの利益にはならない。
 よってロシアはこんな馬鹿な事はやらない。
 だから戦争は起きない。
 と信じていたのです。
 
 しかしいよいよ不穏になってからはマクロン仏大統領がプーチンの介護人と言われる程、長々と電話をしてプーチンを説得したり、アメリカがロシアの侵攻についての情報を流して牽制したりと、随分戦争阻止の為の努力をしました。
 けれども結局ロシアはウクライナに侵攻しました。 
 そして侵攻開始後も国連決議等様々な方法で、ロシア軍の撤退を促しているのですが、しかしながらロシア軍はもう引くに引けないのでしょう。

 でもロシア戦勝の目途は全く立っていません。
 この戦争でロシアは国際信用を全て喪いました。 

 ソ連崩壊後、豊かな天然資源と広い国土を生かした農業生産力のお陰で、クリミア侵攻までは結構順調に経済発展をしていたのです。
 アメリカ始め西側諸国も、そんなロシアを歓迎して、ドイツ始めNATO諸国はエネルギー源を野放図にロシアからの天然ガスに頼りました。
 また多数の西側企業がロシアに進出して、工場を作りました。
 それでロシア国民の生活レベルもソ連時代とは比較にならない程、上がりました。

 ロシアの軍備には文句を言いませんでした。
 むしろ対中防衛を考えれば、ロシアを自分達の側につけておきたいと思っていたのです。
 だからロシアの民主化のレベルが今一で、ロシアのGDPは韓国以下なのに、G7の仲間に迎えました。 その為クリミア侵攻以前はG7でななくG8だったのです。

 でもロシアはクリミア侵攻をしてG8から追い出されて、更に様々な経済制裁を食らい、その為経済成長は止まりました。
 そしてこの戦争でこれまでの成功のすべてを喪いました。

 こういう事態が予想されたから、国際政治の専門家も各国首脳も「ロシアは戦争なんか始めない。 プーチンは馬鹿ではない。」と信じていたのです。
 でも国際政治で手放しで相手を信用する事はあり得ないので、衛星等を使ってロシア軍の監視などの情報収集はきっちりやっていたわけです。
 それでもギリギリまで「ロシアが戦争を仕掛ける」とは予想できなかったのです。
 だから戦争を阻止する事もできなかったのです。

 つまり外交の失敗です。
 しかしこうしてみればわかるけれど、外交って失敗するのです。 成功する事もあるけれど、失敗する事だってあるのです。
 だって人間には人の考えている事を、全て知り、予想する事なんてできないのです。
 だからこちらが良かれと思ってやった事が、裏目に出る事もあります。

 例えばドイツなどNATO諸国の多くが、自国のエネルギー源をロシアの天然ガスに頼り切りにしました。 そしてロシアを信頼しきって、原発を停止するとか、石炭火力を止めるとかなど、エネルギーについてロシアに生殺与奪を握らせていました。
 アメリカもバイデン大統領が、シェールガスやシェールオイルの採掘や輸送パイプを建設に大きな制限を加えて、ロシアによるエネルギー覇権を後押ししました。

 これは常識的に考えれば、アメリカもNATOも進んでロシアに首根っこを差し出した状態ですから、ロシアを信頼している、ロシアには敵意はないと解釈するべきです。
 でもプーチンはこれをみて「だったらコイツラ、オレが多少無茶をやっても文句を言えないだろう」と解釈したのです。

 外交は相手のある事ですから、こちらが色々予想して、戦争を防ごうとしても相手がこちらの予想通り反応してくれるとは限らないのです。
 相手の反応を知る為に、幾ら情報を収集していても、最後まで読み切れるわけもないのです。

 だから外交の失敗は防ぎきれないのです。
 外交だけで戦争を防ぎきる事はできないのです。
 共産党は岸田首相を詰めて「ウクライナ戦争は外交の失敗」と認めさせた事で、ご満悦ですが、しかしこれはつまり国連始め関係国が幾ら努力しても、外交で失敗する事はある、外交では戦争を防ぎきる事はできない事を、証明しただけです。

 だから軍隊が必要なのです。
 だからどの国も軍隊を持っているのです。
 外交で戦争を防ぐ努力はするけれど、でも外交に失敗して戦争になる事もある、だからその時には軍隊で自国を守る為です。

 保険と同じですね。
 ワタシは先日自転車保険を更新しました。 
 ワタシだって自転車に乗る時には、事故に遭わないように十分気を付けています。 でも絶対に事故に遭わないとは言えないでしょう?
 だから保険に入るのです。 
 でも共産党は自転車や自動車の事故は運転技術で防ぐべき、運転の失敗に備えて保険に入ってはイケナイと言うわけです。

 因みに維新始め他の野党も似たような物で、岸田総理のウクライナ訪問について語るのはしゃもじだけでした。
 しゃもじに文句を言うだけで、日本はウクライナ戦争にどう対応するか具体的で明確な政策は一切提言していません。
 
 連中は「平和を!!」とか言うんですが、それでは具体的にどのような和平案を提言できるのか、それをどうやってロシアやウクライナに呑ませるかなど全く示しません。
 だからしゃもじに文句を言うぐらいの事しかできないのです。
 これじゃ政権交代なんてありえません。

 因みにワタシとしてはしゃもじではなく、90式戦車など持って行って欲しかったです。
 今直ぐではないけれど砲弾供与などの約束でも良いでしょう。
 今現在ウクライナでは砲弾が不足しているのですが、アメリカ等も砲弾の在庫が尽きてきました。 一方増産の為の生産力増強には躊躇しています。
 だったら日本は今既に砲弾不足で今後、増産が絶対必要なのですから、とりあえず大増産を約束して来ればいいと思うんですけど。
 
 因みに岸田総理のウクライナ訪問について、ワタシは反省しています。 
 ワタシはこれまで岸田総理のウクライナ訪問が遅れ続けたのは、岸田総理の腰抜け、媚中の性だと思っていたのですが、しかしあの報道ぶりをみて呆れました。
 あれでは「岸田がウクライナに行くから、ロシアさん上手く攻撃してくださいね」と言っていると同じです。
 あれで岸田総理の乗車する汽車がミサイル攻撃でも受けたら、死ぬのは岸田総理一人では済まない事がわかっているのでしょうか?
 あれじゃ岸田総理だってウクライナ訪問は躊躇わざるを得なかったわけです。 
 それでも決断したお陰で、訪問は最高のタイミングになりました。

  1. ロシアのウクライナ侵略
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2023-01-22 12:14

ロシアのウクライナ侵略戦争について 何でドイツは戦車を出し渋るのか?

 昨日、少しロシアのウクライナ侵略戦争に触れたので、前々からこの戦争について不可解に感じている事を書いていきたいと思います。
 
 昨年9月末からプーチンは予備役兵に大量動員をかけて、現在その兵士達の一部をバフムト周辺の攻撃に使い、連日物凄い戦死者を出している状態です。
 それで兵士がドンドン減っているので、プーチンはさらなる動員をかけると言う噂が流れています。 昨年9月末の動員は30万人でしたが、今度は150万人動員すると言うのです。
 そしてこれまで徴兵対象から外された博士課程の学生や、子供の三人いる父親まで動員すると言うのです。

 博士課程とか子供が三人いる父親って、大多数は30歳前後で、これは社会人として、また研究者としては最も重要な人材ではありますが、兵士としては体力不足今一です。
 そういう人達を戦場に送り込み、大砲の餌食にして、ウクライナの畑の肥料にしようと言うのです。
 これはもう戦争も末期的としか言えない話です。

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 どうやらプーチンはこの戦争を総力戦に持ち込む心算のようです。
 戦争は攻め込む方が、攻められる側の3倍の兵力が必要と言われます。 
 ウクライナの総人口は4000万人、ロシアの総人口は14600万人です。 
 つまりロシアの人口はウクライナの3倍強、だったら動員できる兵士の数はロシアがウクライナ3倍です。
 
 現在ウクライナはすでに総力戦に入っています。
 だからロシアも総力戦にすれば、ウクライナに勝てるだけの兵力を動員できて、ウクライナに勝利できるとでも言う心算でしょうか?
 だったら最初からこれで行くべきでした。
 でもプーチンは最初は「特殊軍事作戦」なんて奇妙な言葉を使い、この戦争を「戦争」と言ったロシア人やロシアのメディアを処罰していました。 今もまだ「戦争」とは言っていません。

 結果、この戦争は「兵力の遂時的投入」と言う、一番まずい状況に陥っています。
 「兵力の遂時的投入」って、最初に戦争になった時に、兵力を出し惜しみ、それで負けるとチョッと補充して、また負けるとまたチョッと補充するのを続ける事を言うのです。
 こうなると敵側は敵を少しずつ確実に撃破できるので、ウクライナのような小国からすると凄く有利です。 何しろ小国なので一度にドサッと来られると対応不能なのですが、時間をかけて少しずつ来るのだから、一度に全部対応しなくて良いのです。
 一方ロシアの方からすると、小分けにして送り込んだ兵士が、その都度やられてしまうと言う無残な結果になっています。

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 プーチンがこんな馬鹿な事をしたのは、ウクライナ軍がここまで頑張るとは思っていなかったからでしょう。
 プーチンは昨年2月24日にウクライナに侵攻した時に、数日でウクライナが降伏すると信じていたのでしょう。
 そしてそれが失敗した時の事は何も考えていなかったのではないでしょうか?

 まあ、それも道理だと思います。
 ロシアのウクライナ侵略戦争直前の世界軍事力ランキングでは、ロシアは世界2位、ウクライナは22位です。 戦闘機や戦車の数はロシアより一桁少ないのです。
 だからアメリカのミリー参謀長だって「ウクライナは72時間で降伏する」なんて言ったのです。 そしてバイデン大統領はゼレンスキーに「逃亡の為の飛行機を提供する」と言いました。

 ところがゼレンスキーがこれを断り「自分はウクライナで戦う」と言った事で、プーチンのプランは全部ひっくり返りました。
 これはプーチンにとっても、バイデンやショルツなど西側首脳にも驚天動地だったでしょう。
 これで彼等の予想が全部ひっくり返りました。

 思うに彼等の予想では、ここまで状況が絶望的なら、ゼレンスキーはバイデンの提供する飛行機に乗ってウクライナを逃げ出し、そうなるとウクライナ軍は自動的に崩壊し、ウクライナはそのままロシア領になったのです。 
 で暫く適当にNATO側がロシアを非難していれば、「世界は平和」だったのです。

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 ところがゼレンスキーはここで逃げる事は考えず、腹を決めて徹底抗戦の指揮を執ると言い出したのです。
 実際、彼はその後キーウ市内や、危険な前線に出て、ウクライナ軍とウクライナ国民を鼓舞し続けているのです。

 これって西洋史上、非常に稀有です。
 日本史だと君主が最後まで戦って、城を枕に討ち死にとか、更には自身と親族の命と引き換えに臣下の除名を嘆願して、家族一同自決したりすることが普通にあります。
 でも西欧史ではそういうのないんですよね。
 キリスト教が自殺を禁じているからか、君主やリーダーは自身の命が危険になればとりあえず逃げるんです。 
 逃げて自身の安全を確保してから、残って戦う人達を指揮するのです。

 だからゼレンスキーがあの状況で、逃亡を拒否、徹底抗戦を宣言したことのインパクトは日本人が想像するよりはるかにすごかったんじゃないでしょうか?
 これでウクライナ人のコサック魂に火がついてしまい、これがプーチン始め西欧指導者の思惑を全部ひっくり返したのです。

 こうなったらバイデンら西欧の指導者もウクライナを支援せざるを得ません。
 だったらもうプーチンはこれで観念して引けば良いのですが、しかし彼にはそんな決断力はできないのでしょうね。
 だってここで引いたら「なんでこんなことをやったんだ?!! 馬鹿!!」と言われて、失脚するしかないですから。

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 で戦争はウクライナ優勢で現在に至り、でもウクライナ側もロシアへの止めが刺せない。 止めを刺すにはまとまった数の戦車が必要なのですが、それも優秀な戦車が必要なのですが、なぜかそれをドイツが出し渋り続けているのです。

 ウクライナはロシア軍をウクライナ領から追い出す為に、ソ連製ではなく、ドイツ製の戦車レオパルト2を300両前後欲しいと言っています。
 
 何でレオパルト2かと言うと、これは戦車として非常に優秀であり、その為NATO加盟国の戦車の殆んどがレオパルト2なので、この戦車はNATO加盟国全体で2000~3000両もあると言われています。
 だからここから300両程ウクライナに供与するのは至って簡単なのです。

 イギリスのチャレンジャーとかアメリカのエイブラムはここまで沢山はなく、戦車隊として行動するには、あんまり色々な戦車が混ざるとメンテナンス等が面倒になるばかりで大変みたいです。
 だから最初から数が揃い、性能の抜群のレオパルト2が欲しい!!

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 ところがドイツがNoin!!と言うのです。
 ドイツが外国にレオパルト2を売った時の契約で、売った先の国から別に国に渡す時には、ドイツの許可が必要と言う事になっているのです。
 ところがドイツはその許可を出さずに頑張っているのです。

 何で?
 これについてロシアが負けた時に、ドイツのせいにされるのが嫌と言う説があります。
 ドイツはロシア敗戦後もロシアとは良好な関係を維持したいので、ロシア敗戦後「ドイツが戦車を出したからオレタチは負けた」と言われたくないと言うのです。
 また第二次大戦時のトラウマが原因ともいいます。

 でもこれも不可解です。
 だってポーランドやバルト三国などは、ウクライナの勝利を切望しています。 ウクライナが敗戦し、ロシア領になれば次は自分達がロシアと国境を接してロシアに脅かされるからです。
 ウクライナ勝利後、ドイツは「ドイツが戦車を出渋ったので大変な苦労をした」と、これらNATO諸国とそしてウクライナから恨まれても良いのでしょうか?
 それに第二次大戦時にはドイツは、ポーランドやチェコなど東欧諸国にも大変な惨禍を齎しました。 それなのにロシアには配慮するけど、これら東欧諸国に配慮しないってオカシイでしょう?

 それにこんなことしちゃうと、今後、これらの国々はドイツ製の武器を買うのをためらいますよ。 
 ドイツにとってはこれ非常にまずくないですか?
 これだったら、日本が90式戦車か10式戦車を提供すれば、戦後ヨーロッパの戦車市場をドイツから奪えるかもしれません。
 だからドイツの戦車出し渋りは、全然納得できません。

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 そしてワタシはそもそもこの戦争の引き金を引いたのは、ドイツの脱炭素・脱原発だったと思っています。
 
 この戦争の前に、ドイツは脱原発・脱炭素で、自国内の原発を廃炉にし、炭鉱も閉鎖する事が決まっていました。
 それで必要なエネルギーは一部はフランスの原発から買うのですが、しかし大部分をロシアの天然ガスに依存する事になっていました。 
 ロシアの天然ガスはパイプラインで来るので、価格も安く、非常に使い勝手も良かったのです。

 しかしパイプラインって、向こうが弁を閉めたら終わりでしょう?
 つまりドイツはロシアにエネルギー源を全面依存したのです。
 これではプーチンから見ればドイツの首根っこをつかんだ、ドイツの生殺与奪はロシアが握ったと思って当然でしょう?
 だったら多少の事をやってもドイツが逆らう心配はないのです。

 プーチンはNATO最大の大国を抑え込んだのだから、安心してウクライナに侵略できると思うのは当然でしょう?
 実際ドイツは今もプーチンに首根っこを抑えられているとしか思えない言動を続けているわけだし。

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 でもレオパルト2は現実にはドイツではなく、既にポーランド他NATO諸国にあるわけで、いよいよとなれば所有国がみんな揃ってドイツとの契約を無視する事も十分あり得ます。
 ウクライナ兵への訓練などは既に始めているんじゃないですか?

 しかしこれでレオパルト2の大軍が揃い、ロシア軍をウクライナ領から追い出しても、戦争が終わらないかもしれません。
 ロシア軍がすべてウクライナ領が放逐されても、ロシアが変わらない限り、ロシアはウクライナの領有権を主張して、ロシア領内からミサイル等でウクライナへの攻撃を続ける可能性が高いと言うのです。
 そうなったらどうなるのか?

 本当に厄介です。
 こうなったらウクライナがイスラエルになるわけですが、しかしそれも想定せざるを得ない状況です。
 ホントに厄介です。 

  1. ロシアのウクライナ侵略
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2022-10-12 11:39

真の国家・中国とインド

 先日ワタシは「真の国家と半国家 プーチンの国家観」と言うエントリーをしました。
 プーチンによれば「真の国家」とは、自国の意思だけで国家主権を行使できる国家であり、国家主権の行使を同盟などで制約されている国は「半国家」だというのです。

 このプーチンの国家観からすると、ドイツや日本は経済力ではロシアを遥かにしのいでいるのですが「半国家」です。 なぜならドイツは軍事的には今は殆ど無力であり、そもそもNATOに所属しているので、自国の意思だけで勝手に軍事力を行使するようなことはできません。 日本が「半国家」である理由は言うまでもないでしょう。

 このようなプーチンの国家観からすると、現在「真の国家」と言えるのは中国やインドなどごく少数しかありません。
 
 ところで中国は「真の国家」でしょうか?

 エドワード・ルトワックは「台湾の有事危機は起きない」と断言しました
 理由は概ね以下の通りです。

 中国はエネルギーも食糧も輸入に頼っている為、台湾侵攻などやらかしてこれらが輸入できなくなると、直ちに中国国内で食料やエネルギーが枯渇する。
 ロシアが苦戦しながらも、ウクライナ侵略戦争を続けていられるのは、ロシアはエネルギーと食料の輸出国であり、経済制裁を食らっても、ロシア人が飢える事も凍える事もないからである。
 しかし中国が台湾に侵攻すれば、中国人はたちまち飢え凍える事になる。
 だから戦争はできない。
 人民解放軍は「張り子の虎」である。

 なるほどこれなら実は中国も「真の国家」ではないかもしれません。
 しかし思い返すと改革開放前なら中国は「真の国家」でした。 だって改革開放前は中国は石油などエネルギーを輸入するどころか輸出していました。
 食料も同様です。
 
 日中国交正常化が始まった半世紀前は、中国から日本への輸出品は石油など天然資源、そして飼料作物、そして雑貨類でした。
 この雑貨類は景徳鎮の磁器など中国の伝統工芸品や、民芸品、刺繍やレースなど手芸品などです。

 少し脱線するけど70年代、ワタシは中国製の手工芸品が好きでちょこちょこ買っていました。 今も大切に持っています。
 小さな可愛い陶俑とか、刺繍製品です。
 この刺繍製品は素晴らしく精巧でした。 ワタシは手芸が結構好きなので刺繍もしたことがありますが、こんなものは趣味のレベルではとても作れません。
 しかし熟練した職人でも一体どのぐらい時間がかかるかわからないと思えるような刺繍を施したテーブルクロスやピローケースが、数千円です。 ドイリーやハンカチなど小さな物なら百円チョッとでした。
 これだとこの刺繍をした職人さんはどのぐらいの賃金を貰っているのか?想像すると気の毒になりました。
 
 しかし当時の中国政府は、刺繍職人を飢餓賃金で働かせて必死で外貨を稼ぎ、その外貨でソ連やその他の国から武器を輸入し、また核開発の資金にしていたのでしょう。
 何しろ核開発のスローガンが「ズボンを履かずに原爆を作ろう!!」でしたから。
 ズボンを履かないのは、行儀が悪いからではありません。 ズボンを買うお金を核開発に回そうと言うのです。

 それでもこんな状況では、軍艦とか戦闘機などお金のかかる兵器は殆ど持てませんでした。
 だからこの当時は幾ら中国が「打倒、米帝国主義!!」とか喚いても、ホントの所は脅威でもなんでもなかったのです。
 当時の脅威はもっぱらソ連でした。
 
 しかしこの状態なら食料やエネルギーの心配もなく、好き放題他国に喧嘩を売っていられたのです。
 何しろ毛沢東の政策の失敗で、戦争もしないのに大飢餓を起こして人民を大量餓死させても国家を維持できるような国ですから、怖い物なしでした。

 それが改革開放でお金ができて、ステルス戦闘機や空母まで持てるようになると、今度は食料やエネルギーを他国に依存して、戦争をしたら食料やエネルギーの不足に陥って国家の維持が危うくなるという状態になったです。
 だってロシアと違って中国は無暗に人口が多く、しかし人口の割には国土は広いわけでもないし、資源も限られているので、国家を豊かにするためには、食料やエネルギーを海外に依存するしかないのです。
 つまりその点は日本と同じなのです。 なるほどこれじゃ気楽に戦争なんかできるわけないです。
 でも、それじゃ一体何のために、軍拡に励んでいるのでしょうか?
 ホントに馬鹿馬鹿し話です。

 その点賢いのはインドです。
 インドはそのあたりをちゃんと心得ているようです。
 インドは元々人口が多かったうえ、強権的な人口抑制策も取らなかったので、今は人口では中国に迫っているのですが、しかし国土は中国より狭いのです。
 そして地道に経済発展を続けているので、食料やエネルギーの対外依存も増えています。
 経済発展に相応して、軍事力の強化も続けています。
 でも中国やロシアみたいに他国に喧嘩を売るようなこともせず、民主主義国家としてアメリカや日本とも良好な関係を維持しながら、しかしロシアや中国とも仲良くやっているのです。

 プーチンがインドを「真の国家」と言うのは、ロシアが今回のロシアのウクライナ侵略戦争でもロシアを非難する側に回らず、9月に行われたロシアの大規模軍事演習ボストーク2022にも参加したりしているからでしょう。
 インドは実はクアッドにも参加しているのですが、しかし日本やオーストラリアと違ってアメリカの同盟国ではないので、アメリカに「国家主権」を制約されないのです。
 お陰でロシアへの経済制裁に加わる必要もなく、ロシアの石油を安く買って転売して儲けているとも言われます。
 しかもそれでアメリカやNATO諸国からも非難されていないのです。

 だから「日本もインドを見習え」と言う人もいるのですが、しかしインドがこんな美味しいポジションを取っていられるのは、そもそもインドの領土のポジション故で、日本はそういうわけにはいきません。
 
 インドは現在、中国と領土紛争を起こしています。
 領土紛争になっている地域の民族宗教がラマ教なので、ダライ・ラマとその亡命政権を受け入れているのです。
 インドは核兵器を開発し、現在相当な核兵力を保有しています。 これは一応パキスタンに対抗する為と言っているのですが、しかし本当の敵は中国でしょう?

 でも中国から侵略される危険は限定的でしょう。
 だって中国とインドの間にはヒマラヤ山脈が連なっているのです。 ここを大軍で超えるなど絶対不可能なのです。
 それでも不安がゼロではないから、核兵器を持ち、更に中国の背後にある大国ロシアとも良好な関係を維持しているのです。 
 それにロシアと良好ならロシア製の兵器が買えます。 ロシア製兵器はアメリカ製より安いですし。
 
 でも海の方から侵略される心配があるのでは?
 中国は海軍の増強を続けて来たし、一帯一路でバングラディッシュやスリランカを取り込もうとしていましたから。
 
 だからその為にクアッドです。
 インド海軍はクアッドの演習にも加わり、中国の海洋進出にはアメリカや日本とも協力して対抗しています。

 インドが対中防衛で日米豪と組むという構想は安倍総理の提案でした。 そしてインドが最初にそれに応じたのはシン政権時です。 安倍総理はシン首相とも非常に親密でした。
 でもシン政権がモディ政権に代わっても、このインドの外交姿勢はそのまま踏襲されており、モディ首相は安倍総理に国葬にも参列されました。
 政権交代しても有益な外交方針は引き継ぐ。
 まことに立派な物です。
 こうしてインドは極めて現実的に強かに、国益を守っているです。

 但し残念だけれど、日本はインドを見習ってアメリカと距離を置く事などできません。
 だって日本と中国の間にはヒマラヤ山脈はありません。
 現在の軍事技術と中国の海軍力からすれば、海はヒマラヤ山脈程あてになる防壁ではありません。
 しかもロシアや北朝鮮も核兵器も持って日本を脅かしている状態です。
 
 この状態では日本が核兵器を持ったとしても、アメリカとの同盟関係は必要なのです。
 因みにルトワックは中国による台湾有事はないと言っていますが、しかし対中防衛が必要ないという事にはなりません。

 今の状態なら中国が台湾に侵攻したら戦争になります。
 だって台湾側も日本側も相応の防衛体制を持っているうえ、バイデン大統領が4回も「台湾が侵略されたら米軍が出動する」と失言してしまいました。
 だから中国が戦争を避けたいなら、中国は台湾に侵攻しないでしょう。

 でも台湾側にも日米にも台湾を守る体制がないのなら、香港と同じです。
 これなら中国が台湾に攻め込んだら戦争にもならないまま、台湾は占領され中国領になってしまいます。

 中国が香港返還時の約束を破って一国二制度を破棄し、香港を完全に中国化した時、戦争になりましたか?
 この問題で中国が厳しい経済制裁を受けましたか?
 
 そして国家も常に理性的にふるまうとは限りません。
 現在のロシアのウクライナ侵略戦争だって、ロシアが理性的であれば起きなかったでしょう。 
 この戦争が始まる前、ロシア内にもこの戦争を行う事のデメリットを指摘して反対した人は多数いたのです。 
 でもプーチンはこうした意見は聞き入れませんでした。
 
 ドイツのポーランド侵攻だって、日本の真珠湾攻撃だって同じです。
 アメリカとの工業力の違いを指摘して、開戦に反対した人は多数いました。 
 でも結局、日独共に理性に従わず開戦したのです。
 
 そして現在のウクライナを見ればわかりますが、一旦攻め込まれたら大変な被害が出るのです。
 だから相手国に「簡単に勝てる」などと誤解させてはイケナイのです。
 
 これを考えると中国が実質「半国家」でも対中防衛は絶対に必要なのです。
 そして中国もまた軍隊は脅迫の道具と割り切って、強大な軍事力を誇示することで、恐怖を煽りながら、実は戦争は避けて内部工作で台湾を切り崩す事を考えているのですから。

  1. ロシアのウクライナ侵略
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2022-10-10 12:59

真の国家と半国家 プーチンの国家観

 先日、久しぶりに本屋に言ったら小泉悠さんの「ロシア点描」と言うがあったので買って読みました。
 この中で小泉さんはプーチンの国家観を述べていました。

 プーチンによれば自国だけの意思で国家主権を行使できる国だけが、本当の主権国家であり、そういう国はインドや中国、そしてロシアなどごく一部だそうです。
 プーチンはこうした国を真の国家と言います。
 一方ドイツなどは経済力でロシアよりはるかに上だけれど、軍事的にはNATOに縛られて、自国の意思では全く動けないので、結局自国だけの意思で主権を行使できない。 こういう国をプーチンは半国家と言うのです。 

 勿論、プーチンに言わせると日本も半国家です。
 日本もロシアより経済力では遥かに上だし、それどころかソ連崩壊後は随分とロシアに経済支援をしてきました。
 でも日本は憲法で交戦権と言う国家にとって重要な主権を放棄しているし、何より日米安保条約でアメリカの庇護なしには国家の安全を守る事さへできないのです。
 だから何度も会談して、親交が深いと言われた安倍総理の事も内心は、小馬鹿にしていたのでしょう。
 プーチンからすれば半国家の総理といくら親交を深めても、アメリカとの関係が変わらなければロシアの安全保障の役には立たないと思っていたのでしょう。

 こういう国家観。
 剥き出しでギンギンラギンの19世紀、帝国主義華やかなりしころそのままの国家観をプーチンは今も持っているのです。
 そしてプーチン自身がこういう国家観にのっとった愛国者を演じていました。
 プーチンと言う人は元々西側の右派にも人気があり、今もなおプーチンファン、プーチンを信奉しいる人も多いのですが、これはこういう国家観と「愛国者」振り故でした。
 ワタシもネトウヨなので「プーチン、カッコイイ!!」と思っていました。

 しかし現在のウクライナ侵略戦争でのロシア軍の苦戦を見ていると、プーチンの国家観はもう現代では通用しないのでは?と思ってしまいます。
 ロシア軍が苦戦している理由は、ウクライナ軍がアメリカ等から得ている最新兵器と、軍事情報、そしてロシアへの経済制裁です。
 一方、現在ロシアは精密誘導兵器を使い果たしてしまい、補充することができません。 戦車等も最新の物は補充できません。

 ロシアは膨大な軍事産業を持っているし、資源国だからエネルギーも不足しません。
 そしてロシア本土は全くの無傷です。
 しかしもう数か月前から精密誘導兵器や戦車などを作れなくなっています。
 なぜならこうした兵器を作るのに必要な工作機械も、半導体も経済制裁でロシアには入らなくなっているからです。
 しかもこれは前々からの話です。

 例えばロシアの最新鋭戦車アルマータは、本来ロシア軍の主力戦車になる予定だったのに、なぜか殆ど生産される軍事パレードで少数見られるだけでした。 それで実は性能が良くないのだとか色々言われたのですが、どうやらクリミア侵攻以降の経済制裁で半導体が入らなくなった為、量産不能のなっていたようです。
 でもロシアは半導体を作れません。
 そして今の兵器は半導体なしでは作れないのです。

 それどころか今では給湯器や普通の乗用車だって、半導体なしでは作れないのです。
 去年ぐらいまでの世界的な半導体不足で、日本の自動車メーカーも生産調整を迫られたし、給湯器までも生産できず不足すると言う事態になっていました。
 こういうの見たら半導体を作れないって致命的じゃないですか?

 あれから日本の自動車メーカーは自前で半導体を作る体制を整えたようです。 自動車とか給湯器に使う半導体は、特に小型化する必要もないので、TSMCが作っているような集積度を最高に高めた高級品でなくてもよいんですね。
 だから自分で製造装置を買ってきて、そこそこ技術を持っている人を雇えば自前で作れるようです。

 だったらロシアもそうすれば良いのでは?
 と思うけど、そうはいかないのです。
 だって経済制裁されている状態ですから、半導体製造装置なんか買えません。 何とか誤魔化し半導体製造装置を手に入れても、それでは半導体材料はどうするのでしょう? 
 シリコンウェハー、フォトレジスト、高純度フッ化水素、などはプーチンが小馬鹿にしている半国家日本が生産を独占しています。

 フォトレジストと高純度フッ化水素は、韓国も国産化するニダ!!と頑張り続けているのだけれど、結局上手くいかないようです。
 韓国は別に経済制裁を受けているわけじゃないので、必要な技術や部品や材料を買うのに困らないはずなのですが、しかし何年も火病りながら国産化に成功していないのです。
 こういうを見ると一つの産業と言うか、一つの製品の製造だって、いかに大変かわかります。

 しかしこのような製品がなければ、真の国家の保障たるべき軍事力の維持も危ういのです。
 これでは軍事力で他を圧倒しているから、同盟国からの制約を受けない立場だからと言って「自国の意思だけで主権を行使できる」なんてふんぞり返っていられるのでしょうか?

 因みにこの点から言えば、アメリカも真の国家とは言えません。
 だってアメリカだって半導体の殆んどは輸入で賄っているのです。
 勿論半導体材料も輸入です。
 アメリカは半導体製造装置のシェア世界一だし、半導体設計技術も圧倒的に世界最高なのですが、全ての半導体製造装置を国産化しているわけではないし、そもそもそんな気もないのです。
 
 半導体に限らず、戦闘機製造に欠かせないカーボンファイバーなんかも日本からの輸入だし、他にも安くて優秀なら何でも輸入で済ませています。
 お陰で中国製の半導体までまぎれこんでしまったのですが、さすがにこれは不味いと思ったのか、トランプ大統領の頃になって漸く排除する方向に動き出しました。
 しかしこういう状態では、アメリカだって同盟国に対して好き放題「主権を行使」するなんてわけにはいかないのです。
 そしてそれはアメリカも重々わかっているのです。
 だから同盟国がアメリカに愛想を尽かすようなことのないように色々気遣ってきたのです。

 なによりアメリカのシステム、法の支配を徹底して、誰でも安心してアメリカと商売ができると言う体制なので、世界中の企業がアメリカで商売したいのです。
 だから自国産業や自国民の生活を考える政府は、アメリカとの関係は大切にするのです。
 それでアメリカも日用品から兵器の部品まで何でも安心して外国に頼る事ができるのです。
 そして結局それでアメリカは、高度な産業力技術力を持つ国を全部自分の側に引き寄せているのです。
 
 わかってないのはプーチンなのです。
 高性能兵器を沢山持っていれば、それで「オレは強いんだ。 他の国のいう事なんか聞く必要はない。」と言う非常に単純な発想で、その兵器を補充するのには何が必要かさへ理解していなかったのです。
 そうやってふんぞり返る所がカッコイイので、ウヨには受けたのだけれど、本気でこうやって自惚れていたならヤッパリ馬鹿です。
 
 因みにロシアは産油国だけれど、この石油だって実は西側の技術なしでは生産を続けられません。
 先日はロシアがトルコにロシア軍の冬用の装備を発注して断られたという話まで出てきました。
 軍服ぐらい自国で縫製すればよかろうと思うのですが、布地などの素材を作る繊維工業やそれを縫い上げる縫製工場の発達がソ連崩壊以降停まっているなら、軍服も自国では作れないでしょう?
 このウクライナ侵略直前までユニクロなんかがロシア進出していましたからね。
 因みに工業用ミシンのシェアって日本がほとんど取っています。

 要するに今の世界は完全にグローバリズムなのです。
 ネトウヨはグローバリズムを目の敵(ワタシも目の敵にしていたけど)にしますけど、現実に全ての生産が世界的なネットワークで成り立っているわけで、そこから外されてしまうと、どんなに資源があっても、どんなに広い農地があっても、どんなに強力な新兵器を持っていても、手持ちを使い果たしたらオシマイなのです。

 それは理念とかイデオロギーの問題ではなく、現実に工業技術が高度化してしまい、一つの国だけでそのすべてを揃えて持って、それで自国の産業や軍備を全て賄うと言う事が不可能になっているという事なのです。
 その見本がアメリカです。

 でもアメリカはイデオロギーでこうなっているのはありません。
 経済界と要望と国民の生活の便宜からこうなっているのです。
 それで輸入できる物は輸入して賄い、経済合理性を無視して国産化しようとはしないのです。
 しかしそれを徹底しているからこそ、世界の大多数の国を自分の側につけて、イザとなれば自分に敵対する国をこのグローバル経済圏から追い出す事ができる立場でいられるのです。

 プーチンの国家観はカッコイイけれど、それでやっていけたのは、20世紀末までの話だってのではないでしょうか?
 ソ連だって結局それで崩壊したのですから。

  1. ロシアのウクライナ侵略
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2022-10-08 12:41

ウクライナのNATO加盟申請 国際政治自習

 9月30日、プーチン大統領が「停戦交渉の用意がある」と発言しました。 すると直後にゼレンスキー大統領がウクライナのNATO加盟を申請しました。

 しかしこれはプーチンの顔を潰す提案ですから、ウクライナ側がこんな対応に出たら、ロシア側は停戦をしづらくなりますよね?
 ウクライナは停戦したくないのでしょうか?
 何でこんなことをするんでしょうか? 
 ワタシなりに少し考え見ました。

 ロシアのウクライナ侵略戦争は2月24日に始まりましたが、その後間もなく停戦交渉が始まり、その時ウクライナは一旦NATOの加盟申請を取り下げたはずです。
 元々ロシアのウクライナ侵略はロシアがウクライナのNATO加盟阻止を目的に始めた事ですから、停戦の為にウクライナはNATOの加盟申請を取り下げたのです。
 でもこの停戦交渉は決裂しました。

 と言うより、そもそもこの交渉の間もロシア軍はウクライナ攻撃を止めず、それどころか戦地から人道回廊・非戦闘員が避難する為の道にも容赦ない砲撃を行っていました。
 そしてロシアが要求したのは「ウクライナの非ナチ化」と「ウクライナの非武装化」でした。
 つまりロシア側にはウクライナのNATOの加盟申請取り下げなんかでは、停戦に応じる気は全くなかったのです。 
 何よりこの頃は、ロシア軍が優勢で、ウクライナが思いの他善戦しているとはいえ、プーチンはロシアが勝つのは時間の問題だと思っていたのでしょう。

 これを思い出すとわかりますが、ロシアはウクライナ全土の制服が目的であって、NATO加盟を止めるとか、そういう事で戦争を止める気はないという事です。
 そのロシアが今、自分から停戦を交渉を呼びかけたのは、ロシア軍が劣勢になって、プーチンが「併合した」と言った4州にもウクライナ軍の進軍が進んでいるからです。
 プーチンとすればロシア国内に動員令を出し、更に核兵器の使用もちらつかせて、ロシアにはまだまだ戦う力がある事を誇示した上で、最低でも現在のロシアの支配地域をもぎ取った上で、一旦停戦して国力の回復を待ちたいのでしょう。
 
 しかしウクライナ側からすれば、こんな停戦は絶対に飲めません。
 これは侵略されて自国の領土を奪われた状態での停戦は、国家の自尊心が許さないとかそういう問題ではありません。
 この状態で停戦しても、その停戦がいつまで続くのでしょうか?

 例え領土の一部喪っても、この停戦が長期間続くのであれば、戦争を続けるよりマシでしょう。
 でも前回の停戦交渉の経緯や、プーチンの真意を考えると、このまま停戦しても、いつまたロシアが停戦を破って侵略してくるかわかりません。 
 その時、またウクライナが現在のように善戦できるのでしょうか? 
 NATO諸国は今のような支援をしてくれるのでしょうか?

 ウクライナの戦後は非常に厳しいと思います。
 例え、クリミア半島まで含めて、ロシアに奪われた領土を完全奪還しての勝利を得たとしても非常に厳しいです。
 だってウクライナは元々豊かな国ではありません。 
 そして腐敗国家でした。
 それがこの戦争で甚大な損害を受けました。
 戦争で更に貧しくなった状態で、戦死者の遺族や戦傷者の生活を保障しなければなりません。 戦争で壊れたインフラを修復しなければ、戦前と同じ生産も生活も戻りません。
 戦時中に買った武器の代金の支払いもしなければなりません。
 しかしこの資金は結局、生き残ったウクライナ国民の税金で賄うしかありません。

 戦争に勝っても貧しさとの戦いになってしまいます。 こうなると当然国民の中から不平や不満が噴出するでしょう。
 しかもウクライナは実は多民族国家です。 その多民族が団結してロシアと戦えたのは、プーチンがウクライナ全域を民族差別なく攻撃したからです。
 でも、戦勝によってウクライナ民族主義が過激したりすれば、当然ウクライナ民族以外の人々からは反発が出るでしょう。 
 勝っている時、豊かに暮らしている時は、団結していられても、勝利の余韻が消えて、貧しい現実が始まれば、もめ事が起きてきます。

 ロシアがこれを見過ごすでしょうか?
 ワタシがプーチンなら、ここで一旦休戦をして、ウクライナ人に貧しさと向き合わせ、諍いが始まったら、それに付け込んでの内部分裂を誘発して、それが深刻化した時を見計らっての再侵略を考えます。
 
 だからウクライナとしては、絶対にこんな停戦は呑めないのです。
 勿論ウクライナだって今後いつまで戦争を続けられるかはわからないでしょう。 なぜならウクライナは実力で戦っているのではなく、アメリカ始めNATO諸国の武器支援、情報支援があるから善戦できているのです。
 だからウクライナ政府は常に支援者達に「あれが欲しい」「これを頼む」と言い続けながら戦ってきたのです。
 こんな状態ですから、ウクライナ政府もクリミア半島まで含めた領土の完全奪還などはできないままの停戦も覚悟はしているのでしょう。
 でもウクライナが戦後復興できない間に再度ロシアに侵略されない保障だけは絶対に得なければなりません。

 しかしロシアのような国を相手に、停戦が長期間続くと事を保障する方法ってあるのでしょうか?
 あります。
 実際にそれで停戦が70年も続いている地域があります。
 みんな大好き朝鮮半島です。

 朝鮮戦争が停戦したのは1953年7月27日です。
 以降69年間、停戦状態が保たれ、その間に韓国はアジアの極貧国から経済大国になりました。
 因みに韓国だって腐敗体質や分裂体質はネトウヨならご存知でしょう? 
 それでも停戦状態が保たれた理由は一つ、米韓同盟があって韓国に米軍基地があるからです。
 北朝鮮のキチガイ振りは朝鮮戦争当時と全く変わらないのですが、しかし韓国に米軍がいる限り手も足も出ないのです。

 だったらウクライナだって停戦をするならNATOに加盟するか、アメリカと単独で米宇安全保障条約を締結するかして、停戦後の安全を保障してほしいでしょう?
 だからロシアが停戦を言い出したら、すかさずNATO加盟申請と言い出したのです。
 勿論加盟できるかどうかはわかりません。 NATOは紛争地を抱えている国は加盟できない決まりだし、また現加盟国が全員一致で加盟を承認しなければ加盟できないのだけれど、加盟国にはトルコみたいな曲者もいますしね。

 でもウクライナの戦後が厳しい事は明らかだし、再度ウクライナで戦争が起きて貰っても困ると言うのもヨーロッパ諸国も一致しているでしょうから、ウクライナの希望に沿う形で戦後の安全保障を考えてくれるでしょう。
 ウクライナとしてはウクライナ国内に米軍基地が来てくれるのが一番安心じゃないかと思います。
 ウクライナに米軍基地が来てくれたら、ポーランドやバルト三国など周辺国も大安心だから、大歓迎するでしょうね。

 ゼレンスキー大統領と言う人は、元々コメディアンで殆ど政治経験も積まないままこういう大変な国の大統領になってしまいました。
 だから最初は色々失敗してしまいました。
 その最大の失敗は、ロシアを甘く見てちゃんと話し合えば、侵略はしてこないと思っていた事です。 お陰で侵略されてしまったのです。
 でも彼は直ぐに失敗から学んだようです。 
 このタイミングですかさずNATOの加盟申請するって、見事だと思います。

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